第146話 巨人襲来(1)


 正直なところ――


(ミヒルの舞踊ダンスをもう少し見ていたい気もするのだが……)


 そうも言ってはいられない。

 俺は馬車を後にする。


 向った先はオヤジの工房だ。

 武具の整備メンテを頼んである。


 受け取るのが目的だ。

 寝ているところを悪いな――と思ったのだが、徹夜てつやで作業していたらしい。


 オヤジは起きていた。

 俺を待っていたようで、預けていた武具一式を受け取る。


 信用はしているが「確認をしてくれ」という事なので、状態を〈鑑定〉した。

 そこまで知識があるワケではないので、俺に分かるのは違和感の有無くらいだ。


 問題がない事を確認した後、簡単な説明を受ける。どうやら、巨人相手に戦った場合「いつ壊れても、おかしくはない」という話だった。


 俺に戦闘の技術はない。

 力任せ――いや、技能スキル任せに振るっていただけだ。


 竹槍でさえ、あの威力だ。

 俺自身、制御コントロールできているワケではない。


 加速が加わった高速の攻撃は――単純な投擲とうてきとは違って――武器の負担になるのだろう。


 ミノタウロスから入手した『戦斧』バトルアクスや『死の谷デスバレー』で手に入れた『槍斧』ハルバートは、壊れると修復は難しいそうだ。


 どうやら、魔法で強化された素材で出来ているらしく、そういった物は魔力などを流して使用するモノらしい。


 かつては『闘気オーラ』『魔気マグス』『聖気ホーリー』という技術が存在したらしいが、今は使える者がいなくなってしまった。


 この世界にある武具は、いずれかの特性に合うように作られていたようだ。

 そのため、現在の武具の性能は今一いまいちらしい。


 雑魚ザコ相手なら壊れることはないが、相手は強化された巨人サイクロプスである。

 いつ壊れても、おかしくはない状態らしい。


 俺の場合は技能スキルを使えるため、特性が自然と付与されていたのだろう。

 それでも、あの威力は問題だったようだ。


(使いどころを考える必要がありそうだな……)


 だが、それよりもオヤジの気分テンションが高いように思える。

 俺の気配に気づいたのか、起きて来たカムディに聞くと、


みょうに張り切っているみたいで……」


 色々と作っていたぞ――と教えてくれた。カムディは途中で寝てしまったようだが、それでも遅くまで手伝っていたのだろう。


 眠そうな表情かおで、大きな欠伸あくびをした。

 一方で――クックックッ――とはオヤジ。


 完全に人格キャラが変わっているようだ。

 まあ、徹夜てつや明けの人間など、社畜時代に見慣みなれている。


 どうやら、然程さほど気にするような事ではないようだ。


「これを見よ!」


 そう言って、オヤジは新しい装備一式を見せてくれる。

 ジャンジャジャーン!――と効果音が聞こえてきそうだ。


 いや、オヤジの中ではファンファーレがひびいているのかもしれない。


(まあ、先程から視界には入っていたのだが……)


 えて無視をしていた。

 簡単に言うと、髑髏どくろ装備一式だろうか?


 確かに素材として骨や角、爪や毛皮など、色々と渡した。

 左右から伸びる大きな2本の角が特徴とくちょう的なヘルム


 大きな髑髏どくろの顔を前面に押し出したような形容デザインアーマーに毛皮の外套マント

 生憎あいにく、武器と盾は間に合わなかったらしい。


 工房で働く仲間たちとの合作だそうだ。

 念のため〈鑑定〉してみると、能力は悪くない。


 しかし、見た目デザインが完全に悪役だ。

 暗黒怪獣と戦うロボットアニメを彷彿ほうふつさせる。


(これはアレだな……)


 めなければいけない流れのヤツだ。

 そして、めたが最後、装備するハメになるのだろう。


(ハッキリ言って、関わりたくないが……)


すごいじゃないか……」


 と俺は肩足を一歩前に出し、おどろいた演技をする。

 大人には果たさなければならない義務と忖度そんたくがあるのだ。


「おおっ! 分かってくれるか!」


 とオヤジ。すごく嬉しそうである。

 カムディはどうでも良さそうに目を閉じ、聞き流していた。


(これだから子供は……)


 俺が「使ってもいいのか?」と質問すると、オヤジは機嫌良く。


勿論もちろんだ! そのために作った!」


 そう言って胸を張ると――ドンッ!――と自分の胸をたたいた。

 俺は有難ありがたく、受け取る事にする。


(大男にでも装備させよう……)


 アイツが一番似合いそうだ――などと考え〈アイテムボックス〉へと収納した。

 見たかカムディ、これが大人の対応である。


 無闇に他人の誇りプライドを傷つけてはいけない。しかし、カムディは「うげぇ、そんな装備を装備するのかよ」といった視線を俺に向けて来る。


 俺としても不服なのだが、場を丸く収める事こそ、社会人としての義務だ。

 一方でオヤジは満足したのか、椅子イスへと腰を掛けた途端とたん、動かなくなる。


 一瞬、倒れたのかと思っておどろいたが、寝息を立てていた。

 俺はカムディに、


風邪かぜを引かないように、なにか掛けてやってくれ」


 そう頼んで工房を後にした。丁度、太陽が顔を出したらしい。

 まだ明るくはないが、空の色彩グラデーション徐々じょじょに変化していく。


 俺の予想だと城壁の方が騒がしくなるハズだ。

 〈スカイウォーク〉を使用して、空をけて移動する。


 案の定、兵士たちは騒がしくしていた。


(それはそうか……)


 城壁の向こうに広がる草原。昨日、蜥蜴人リザードマンと大男たちが魔物モンスターを一掃した場所に、再び大量のダークウルフが倒れていたのだから――

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