第142話 女神様のお気に入り(2)


 職能クラスの昇格や変更は本来、神殿で行われる。

 技能スキルの習得であれば『冒険者ギルド』になるのだろうか?


 残念ながら両方とも、今は機能していない。神殿はあるが、奇跡を使える高位の神官や神が不在のため、形だけの信仰が残っている。


 最後の希望にすがり、残された人間族リーンあわれに思えてくるが――この状況こそ――長い年月を掛け『白闇ノクス』が計画的に作り出したモノだろう。


 俺の職能昇格クラスアップやミヒルの職能変更クラスチェンジも出来ない。

 同時に人間族リーンふくめ、他の種族も大幅に弱体化されているようだ。


 それゆえに『白闇ノクス』も油断しているのだろう。

 一気に勝負を決めたい所だが、こちらも決定打に欠ける状況だ。


(もどかしいな……)


 当然、技能スキルや魔法の習得も自由にはいかない。

 俺が使用している『ステータス画面』も【概念武装】の一種なのだろう。


 ステータス自体を把握はあくすることは可能だが、俺のように数値で認識はしていないようだ。誰もが『ステータス画面』を使えるワケではないのだろう。


 恐らく、俺自身が小説やゲームの影響を受けているからだ。

 人によっては能力ごとに『A』や『B』『C』などの表記かもしれない。


 俺の仲間パーティーに加えれば、細かくステータスを設定できるのだが――


(それが正解とも思えない……)


 ミヒルの場合は、命の危険があったのと実験もねていた。

 少なくとも、仲間のステータスを設定できる事が分かったのは大きい。


 また、ミリアムとガハムの場合は『白闇ノクス』との戦闘があったからだ。ナトゥムが油断していたので、あっさりと倒せたが、俺一人では決め手に欠けていた。


 だからといって、無闇むやみに共有していい能力ではないだろう。

 考えたくはないが、裏切られる可能性も無いとは言い切れない。


 また、仲間パーティーに加えられる人数に上限もありそうだ。

 そもそも――


(全員のステータスを設定するのも面倒だしな……)


 通常であれば、戦技なら『上位の戦士』に技能スキルを教わるのだろう。

 魔法なら『上位の魔法使い』といった感じだ。


 女剣士や青年狩人の部下として戦えば、義勇兵ぎゆうへいたちでもおのずと技能スキルを習得できるかもしれない。


 また『精霊との仲介役をになっていた人物が王になった』という歴史もあるようだ。

 ミリアムには、その資質があると考えていいだろう。


 ゆえに、無闇むやみに口外する事は危険ともいえる。

 下手をすると『白闇ノクス』の標的にされる可能性が高い。


 精霊と契約した人間が増えれば、比例するように魔素エーテルの量も増える。

 その土地は豊かになる――というワケだ。


 豊かになることで人が集まる。人が集まれば国となり、中心になった人物が王としてかつがれるのも自然な流れだろう。


 しかし、今は人間族リーンたちの【根源】が失われている。

 戦う力がなければ、他者に搾取さくしゅされるだけだ。


 【根源】を失った人間族リーンは、多くを望むことが出来ない。

 そんな状況下で、俺がイスカやミリアムと出会えた事は『幸運』といえるだろう。


(いや、どちらか1人だけならかく……)


 2人とも俺が助けている。

 そんな偶然が二度もあるとは考えにくい。


 エーテリアが仕組んで――俺にらせているのではないか?――とうがたいたくなる展開だ。


 だが彼女に聞いても、はぐらかされるだけなのだろう。

 俺も深く追求する性格タイプではない。


(まあ、色々と考えてしまったが……)


 そんな人間族リーンの可能性を閉ざすような真似まねを女神であるエーテリアに『らせるワケにはいかない』という事だ。


 女神である彼女の言葉には、一種の強制力のようなモノが働く。

 イスカが、そうであったように無条件で信用してしまうのだろう。


 本来、相性の悪い精霊と契約させる事は難しい。しかし――


(女神から頼まれたのでは、精霊も契約せざるを得ないか……)


 お互いにのぞむ結果であればいいが、エーテリアには――その辺の見極みきわめが――難しいようだ。俺は異世界人であるため、例外や特例の部類に入るのだろう。


 そもそも『女神が干渉かんしょうしすぎるは良くない』というのが彼女の方針だ。

 ならば、俺もそれにしたがうしかない。


 エーテリアに頼むのは――


(精霊と人間が納得している時だけにしよう……)


 神殿へ着くと、俺は神官たちに囲まれる。取りえず、魔物モンスター退しりぞけたことを伝え、避難している人々を安心させるように指示した。


 また、今は街の外にいる魔物モンスターの残党を駆除くじょしているため、それが終われば帰宅も可能になるむねを伝えるように付け足す。


(次は老戦士の所か……)


 確認すると神殿長も、本部の方にるらしい。

 俺はミヒルとミリアムを連れて、老戦士のもとへと向かう。


 神殿にある一室を借りているので、移動するのはぐだ。

 想定していたよりも、兵士たちは落ち着いている。


 退屈な話になるので、ミヒルとミリアムには椅子イスに座って大人しくしてもらうように頼んだ。


 神殿長に声を掛け「彼女たちに果物を持って来てもらえないか?」と聞いてみる。

 状況を理解したのか、近くにいた神官へ神殿長は指示を出す。


(やはり、トップが指示を出すと仕事が早い……)


 その辺は会社と同じだ。

 老戦士のもと粗方あらかた、情報が集まっている頃合いだろう。


 俺としても情報の整合性を取る必要がある。

 まずは状況を説明するため、老戦士へ近くに居る関係者を集めてもらう。


 その間に、カムディの無事と活躍を伝えておいた。

 安心したのか――顔には出さなかったが――たくわえたひげ一撫ひとなでする。


 状況の報告と被害の確認、今後の展開の予想と、それにともなう作戦の立案。

 精霊契約の許可も得る必要もあった。


(なかなかにいそがしいな……)

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