第141話 女神様のお気に入り(1)


 人間族リーンへ力を貸してくれる精霊。

 その存在が『分かる』というのは、白闇ノクスにはない能力だ。


 こちらの『強み』ストロングポイントといえるだろう。


(ミリアムには悪いが……)


 しばらくは、一緒に行動をしてもらう事にする。

 彼女の能力が必要なので、そのむねを説明した。


 するとミリアムは、


「そんなにアタイと一緒がいいの?」


 仕方がないなぁ――となにやら嬉しそうに後頭部をく。

 魔物モンスターによる危険がったとはいえ、またいつ敵が攻めて来てもおかしくはない。


 こういう状況下では、彼女は戦力外になるのだろう。


(今までは守られてきたのか……)


 と俺は勝手に推測すいそくをする。

 仕方のないことだ――というのは、ミリアム自身も分かっているのだろう。


 それでも彼女には、その対応に不満があったらしい。

 自分が必要とされている事が嬉しいようだ。


 この年頃の女の子はむずかしいと思い込んでいたが――


(正直、心配になるくらいあつかいやすいな……)


 一方で憶測おくそくになるのだが――武器屋のオヤジの様子から――精霊と契約することで、能力が上昇するようだ。


 ハッキリと数値をはかったワケではないため、具体的な事は言えない。

 だが、少なくとも青年狩人を強化できる可能性が出てきた。


 探せば、他にも似た様な資質を持つ人材が見付かるだろう。

 ただ、今は時間がない。


 俺の予想では、明日には再び魔物モンスターが攻めてくる。


(即戦力となる神官と兵士にまとしぼるか……)


 勿論もちろん、エーテリアにも精霊族ソリスの姿は見えている。

 最初は――彼女に見付けてもらう事も可能だろう――などと考えていた。


 だが、そんなに甘くはないようだ。

 確認した所、見極みきわめがむずかしいらしい。


 単純に興味があって、精霊が人間のそばるのか、契約をしたくてそばるのか、その判断が出来ないそうだ。


 エーテリアの話によると彼女には見えすぎるらしい。精霊族ソリスとは『何処どこにでも存在するが、この世界の何処どこにも存在しない』といえるような種族だ。


 実体を持たない幽霊ゆうれいのような存在――


(例えるなら『折り紙』がいいだろうか?)


 色のない裏が人間の見えている世界で、色のある表が精霊たちの見えている世界だと仮定する。このままでは当然、お互いを認識することは出来ない。


 しかし、女神であるエーテリアには、両面の様子を見ることが可能だ。

 どちらも等しく『この世界に存在する』という認識になる。


 だが、人間は色のない裏の世界しか見ることが出来ない。

 一方で精霊族ソリスは肉体をもたないため、移動が可能だという。


 移動をするためには、色のある面を色のない面へと持ってくればいい。

 要は『折り紙』を折ることで、裏にも色のある面を持ってくることが出来る。


 そうする事で、この世界に魔素エーテルを運ぶ。

 元々、魔素エーテルを正しく循環じゅんかんさせることが精霊の仕事である。


 契約自体は、その副産物なのだろう。

 人間族リーンは彼らと契約することで、効率よく魔素エーテルを使えるようになる。


 それが技能スキルや魔法だ。

 『折り紙』で色々なモノを『折れるようになる』といった状態である。


 世界へ干渉すること(『折り紙』を折ること)で様々さまざまな事象を発生させるのだ。

 魔素エーテルが世界に満ちる瞬間でもある。


勿論もちろん、技能(折り方)を覚える必要はあるが……)


 『特定の技能(折り方)を覚える』という事が『特化した能力を使える』という事につながる。白一色だった裏の世界は意味を持ち、色づく。


 人によっては――上手じょうずに折ることが出来たり、『折り紙』の大きさが違ったり、使える色を選択できたりする――というワケだ。


 魔力操作、魔力量、魔力属性に該当すると考えて欲しい。

 それらすべてが合わさり『素質そしつ』という事になるのだろう。


(『折り紙』の例えは、ここまでにするとして……)


 契約する際に注意すべき点もある。『スキルポイント』だ。

 俺の場合は数値化されたかりやすい情報をステータス画面で確認する事が出来る。


 そのため、ある程度、自分に合った魔法の習得が可能だ。

 しかし、普通の人間にソレはむずかしい。


 エーテリアが危惧きぐしているのは、その点なのだろう。近くに精霊がいるからといって、考えなしに契約させていたのではスキルポイントがすぐに無くなる。


 それは人間族リーンの持つ可能性が閉じてしまう事を意味していた。

 相性がいい精霊とは、少ないスキルポイントで契約が出来る。


 だが、そうでなければ大量のスキルポイントを消費してしまう。

 それは他に習得できる技能スキルが減ってしまう事を意味する。


 恐らく、女神であるエーテリアには、そのあたりの感覚がつかめないのだ。

 俺が『世界を救う』という事は分かるが、どうやって救うのかまでは分からない。


 通常の神々は結果のみを求めるようだが、エーテリアは過程に興味があるらしい。

 それを知るためには、一緒に旅をするのが一番だ。


 また、体感するためには、イスカのような巫女の身体からだを借りる必要があった。

 人のうつわを使うことで、初めて人と同じ視点に立てる。


 だからエーテリアにとって――


彼女イスカがお気に入りなのだろう……)

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