第140話 完全給食(2)


 オヤジの精霊契約を済ませた直後の話だ。

 俺はオヤジに聞かれので、遭遇そうぐうした魔物モンスターの話をした。


 最初は『入手した素材の経緯けいいを知りたかったのか』と思っていたのだが――


(違うらしい……)


「武具を見せてみろ」


 とオヤジに言われ、俺は戦闘で使用した斧や槍、盾を渡す。

 オヤジはソレを受け取ると目を細め、角度を変え、真剣な表情で確認する。


 持ち主の使い方というか、クセのようなモノが分かるのだろう。〈識〉の精霊と契約した事で、その辺を見極みきわめる能力が強化されたのかもしれない。


 他にも作業があったようだが、俺の武具を優先して整備メンテナンスをしてくれるようだ。

 オヤジとしても、俺が『この都市における最大戦力だ』という事を理解しているのだろう。


 一方でカムディとミリアムは、俺の話に興味津々な様子だった。

 魔物モンスターと戦った時の話に目をかがやかせ、いまだに俺を見ている。


(聞いていて、気持ちのいい話ではないと思うのだが……)


 この二人、意外に似た者同士なのかもしれない。

 他に当てがないのも理由ではあるが、俺はオヤジに武具の整備メンテナンスを頼む。


 相変わらず、オヤジは職人モードになると無口なようだ。

 うむっ!――とうなずくと奥の工房へと移動する。


 カムディも手伝いのため、オヤジの後について行く。

 その間に俺は『ミヒルへ食事をらせていた』というワケである。


 今頃、蜥蜴人リザードマンと大男たちが協力――いや、喧嘩ケンカを――しながら、外の魔物モンスター駆除くじょしているのだろう。


「やいやい、蜥蜴とかげ野郎!」


 ここはオレ様たちに任せて、故郷の穴倉にでも帰ってな!――と大男。

 売り言葉に買い言葉で、


「ハハッ、人間族リーンも面白い顔を……いやいや、面白いことを言う」


 おい、オレたちを笑わせにきてくれたゾ!――とガハムが返すのだろう。

 そして、たがいに笑った後「なんだとっ!」とにらみ合いが始まる。


 一触いっしょく即発そくはつの場面に女剣士が止めに入って提案するのだ。


喧嘩ケンカをするとユイトに怒られるぞ!」


 どちらが『魔物モンスターを多く倒せるか』で勝負したらどうだ?――と。


(まあ、大体こんな感じだろうか?)


 何故なぜか分からないが、容易よういに想像がついてしまう。

 俺としては魔物モンスター駆除くじょが早く終わればいいのでソレもありだ。


 問題なく駆除くじょ作業が終われば、避難ひなんしている住民たちを神殿から出すことが出来る。『オルガラント』の街で経験したが――


魔物モンスターを退治していると、思考が暴力的になってしまうからな……)


 少なくとも神殿にれば、影響を受ける事はない。そういった意味でも、各都市に神殿や神をまつる場所があるのは、必要な事なのだろう。


 道具アイテムの整理も終わり、俺はショートソードを帯刀たいとうし、ラウンドシールドを装備する。ミヒルの食事も終わりそうなので、俺はオヤジに声を掛けた。


 だが、集中していたようだ。

 一度目では気付かれなかったので再度、声を掛ける。


 おおっ!――とおどろくオヤジだが、その表情は何処どこか楽しそうだ。

 〈識〉の精霊との契約は『上手うまく行っている』と考えていいだろう。


 俺の声が聞こえないくらい集中することが出来ていた。


「楽しそうだな」


 と一言、俺が声を掛けるとオヤジは「ああ」と言って、聞いてもいない説明を始める。どうやら、武器や素材の声が聞こえるらしい。


 しかし、俺にはなんの事かよく分からない。


(職人独特の感性による表現だろうか?)


 そういえば、料理人も『食材や火と対話する』と聞いた事がある。

 知識と経験から調理法をみちびき出しているだけなのだろうが――


(取りえず、分かったフリをしておこう……)


 下手に質問すると話が長くなりそうだ。

 この手合いは『好きなモノの話』をする際は饒舌じょうぜつになる。


 俺は慎重に言葉を選び、必要な情報だけを引き出した。

 あずけた武具の整備メンテナンスが終わるのは明日らしい。


「分かった。明日の朝にでも取りにくる」


 順調なようなので――俺はそう告げると――任せる事にした。

 老戦士と神殿長に状況を説明する必要がある。


 本来は最初に済ませることなのだろうが、つい後回しにしてしまった。


(まあ、疲れている時に疲れることはしたくない……)


 魔物モンスターと戦うよりも、会社へ報告する方が面倒だと脳が勝手に判断したのだろう。

 カムディとオヤジに別れを言って、俺たちは工房を後にする。


 折角せっかくなので、ミリアムに街の案内をしてりたい所だが、周囲に人の姿はない。

 都市を囲むように作物を植え、城壁を造った。


 その影響もあるのだろう。

 風と砂の音も消え、最初に街を訪れた時とは印象が異なっている。


 まるで無人街ゴーストタウンのように静かだった。

 このまま、ぐに神殿を目指してもいいのだが、今はミリアムを連れている。


 白い地走鳥ロックバードも一緒だ。

 そのため〈スカイウォーク〉は使用せず、道なりに進み、神殿を目指す事にした。


 途中、産業区画エリアや居住区画エリアで植物を増やしておく。

 寄り道になってしまうが、これも必要なことだ。


 魔物の襲撃スタンピードを乗り越えた後の事も考えなくてはならない。

 明日以降の状況が読めない。


 そのため、小さな手であっても打っておく必要があるだろう。

 香辛料爆弾を作るため、ほとんどの香草ハーブってしまった。


 だが、元々は料理や薬として使うべきモノだ。増やしておいた方がいい。

 本当はミリアムをカムディたちの居る工房へ置いていく想定もしていたのだが――


(もう少し一緒にいてもらおう……)

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