第139話 完全給食(1)


 俺はオヤジに場所を借りると、ミヒルに食事をらせる事にした。

 とは言っても、水とパンである。


 イスカがれば、簡単な料理を作ってくれたのかもしれない。

 だが、俺が用意できるのはドライフルーツくらいだ。


 栄養バランスを考えると、牛乳があった方がいいのだが――


(今はまだ、乳が出る量が少ないらしい……)


 十分な飼料エサを用意したので、いずれ出るようになるだろう。

 早く、子供たちのカルシウム不足を解消してあげたい。


 骨を成長させるためには必要な栄養素だ。給食でも毎日、牛乳が出てきたのは『学校給食摂取基準』のカルシウム値が決まっているからである。


 たとえ、米に牛乳が合わないとしても、牛乳なくしては達成できない値らしい。

 『主食、おかず、ミルク』で構成される『完全給食』というヤツだ。


 確か、家庭科の授業でも『牛乳と同じだけカルシウムをるには、小松菜1束を摂取せっしゅする必要がある』と習った記憶がある。


 『ちりめんじゃこ』なら1パックだっただろうか?

 結局『乳製品を選ぶしかない』というワケだ。


 別に牛乳にこだわっているワケではないが――


(『ドーナツ』でも作ってやれば、子供たちは喜びそうだな……)


 とは思っていた。いや、大人もだろうか?

 チーズやヨーグルトもいい。パンにも合うし、シチューなども作れそうだ。


 だが、それよりも――


(ミヒルと仲良くしたがっていたな……)


 俺はミリアムにも食事をすすめた。

 小麦ではないが、トウキビで作ったパンなら、まだある。


 一緒に食事をすれば、少しは仲良くなるだろう。

 そう考えたのだが、ミリアムには断られてしまった。


 大丈夫らしい。蜥蜴人リザードマンたちの食糧問題が解決してなによりだ。

 まあ、人前で食べるのがずかしいのかもしれない。


 蜥蜴人リザードマンの中で育ったので、食べ方は豪快ごうかいだ。

 食事作法テーブルマナーなどは教わっていないのだろう。


 一方でミヒルはイスカに色々と教わっている。

 大人しく椅子イスに座って、パンを千切って少しずつ食べていた。


 最初はスプーンも上手く使えなかったが、今では子供たちと比べても遜色そんしょくない。


(変われば変わるモノだな……)


 俺は「ゆっくり食べていていい」とミヒルに告げ〈アイテムホルダー〉と〈アイテムボックス〉の整理をする。次は『白闇ノクス』との戦闘になるだろう。


 物理攻撃が通用しない相手なので、道具アイテム駆使くしして戦うしかない。

 今あるモノで作業工程フローを構築する必要があった。


 勿論もちろん、俺には戦闘技術はないので少年漫画の知識を引っ張り出すしかない。ミリアムの方は、ミヒルがちまちまパンを食べる様子を微笑ほほえましく見守っていた。


 楽しそうにしている。だが、ある疑問ぎもんかんだようだ。

 ユイトは食事をらなくていいのか?――とミリアムは俺に質問する。


(まあ、そう思うのは当然だろう……)


 俺の場合、歩けばHPやMPは回復する。

 ゆっくりと休憩きゅうけいするのは、逆に効率が悪い。


 落ち着きのない子供のようで申し訳ないが、ウロウロしていれば十分なのだ。

 だが、そんな説明をしても納得はしてくれないだろう。


 現にミリアムの後ろで、いとしの女神様は「もっと言ってあげてください」という表情でウンウンとうなずいている。


(もしかして、ミリアムをあやつっているのだろうか?)


 少なくとも、疑問を口にするようなけを与えた可能性は高い。

 心配してくれるのは嬉しいが――


(お小言こごと御免ごめだ……)


 俺は話しをらすために、


「そういうミリアムも、腹は減っていないというが……」


 なにを食べたんだ?――と質問する。

 ミリアムは「ああ、アタイは……」と言って、かばんから『干し肉』を取り出した。


 確かに腹持ちは良さそうだ。だが、反応したのは俺よりもミヒルの方だ。

 キランッ!――と目をかがやかせる。


 獣人族アニマだけあって、肉が好物らしい。

 俺の前では我儘わがままを言わないが、目が「欲しいニャ」と言っている。


 それに気が付いたのか、ミリアムは干し肉を差し出した。

 ミヒルはもらおうとしたが、途中で思いとどまり、動きをめる。


 そして、許可を求めるように俺へと視線を送った。

 もらってもいいのかニャ?――そんな所だろう。


「ちゃんとお礼を言えよ」


 俺がそうげると「ニャニャン♪」とミヒル。


「お姉ちゃんは良い人ニャ♡」


 ありがとニャン♪――と言って、干し肉を受け取った。


美味おいしいニャー♪」


 ご主人も食べるかニャ?――とミヒル。

 正直、現代人の俺ではあごが疲れてしまう。


「俺はいい」


 と言って軽く手を振ると、ミヒルはムシャムシャと食べ始めた。

 ミリアムは餌付えづけに成功したようだ。


 恐る恐るミヒルへと手を伸ばしたが、今度はけられなかった。

 無事にミヒルの頭をでる事に成功する。


あわてて食べるとのどまらせるぞ」


 俺が忠告するとミヒルは、水をゴクゴクと飲む。

 からになったコップへミリアムは水をそそいだ。


「ありがとだニャン♪」


 とミヒル。どうやら、ここはミリアムに任せて大丈夫そうだ。

 俺は一旦、ミヒルたちのもとはなれる事にした。


 オヤジの様子を確認するためだ。

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