第138話 精霊契約(5)


 俺はカムディの心情しんじょうを勝手に解釈かいしゃくする。

 そんな中――クイクイッ――とミリアムは俺のそでを引っ張った。


 今度はなんなのだろう? なにか言いたい事があるようだ。

 耳を近づけるため、少しかがむ。ミリアムは、


「あのじいさんの周りを精霊が飛んでいる」


 と俺に耳打ちした。オヤジは職人だ。

 身形みなりがアレなので、けて見えるが、まだじいさんではないだろう。


 気を悪くしないといいのだが――


(本人に聞こえていない事をいのろう……)


 いや、それよりも精霊と言ったな。

 正直、精霊族ソリスの姿は俺には見えない。


 魔法を行使する際、力を貸してくれるので『存在は認識している』といった程度だ。俺は首をかしげる。


 勿論もちろん、ミリアムのことをうたがっているワケではない。

 問題は精霊族ソリスが――オヤジになんの用があるのか?――という事だ。


 俺はフヨフヨと浮かんでいるエーテリアを見る。

 相変わらず、ニコニコと微笑ほほえむだけだった。


 ミリアムがウソいていないのであれば――エーテリアの反応から――精霊が人の周りを飛ぶのは、特にめずらしい事ではないようだ。


(そうなると……)


「さっき、城壁でもなにか言いかけていたが……」


 アレも同じだったのか?――と俺は問う。

 確か青年狩人の姿を見て、なにか言おうとしていた。


 ミリアムはコクリとうなずくと俺に教えてくれる。

 彼女の話によると青年狩人の周りにも精霊が飛んでいたらしい。


 考えられる条件としては『契約』だろうか?

 精霊族ソリスと契約する事で、魔法などを習得できる。


 俺の場合はエーテリアに精霊族ソリスを呼び出してもらっていたが、通常は精霊族ソリスの方から近づいてくるらしい。


 魔法への探求心や神への信仰心が、彼らを引き付けるのだろう。


「契約させることは可能か?」


 俺はエーテリアへと質問したのだが――他の連中からは――俺が天井に向かってひとり言をつぶやいているようにしか見えないだろう。


「ご主人は女神様とお話できるのニャ」


 とミヒル。俺の肩に乗り――エヘン!――とえらそうな態度を取ると尻尾をらす。

 最初は大人おとなしくしていたが、段々と退屈になってきたらしい。


「へぇ~」


 ミリアムはその言葉にうなずくが、半信半疑といった様子だ。

 一方でカムディとオヤジは【神器】を手に入れた俺をうたがってはいないようだ。


(まあ、この辺は宗教の違いか……)


 ミリアムは蜥蜴人リザードマンの里で育ったため、神ではなく竜を信仰している。

 エーテリアはミヒルの様子に微笑ほほえんだ後、コクリとうなずいた。


 俺の問いに対しての回答だろう。

 ならば――と俺はオヤジに精霊族ソリスと契約させる事にする。


 問題があるとすれば、失敗した際の不利益デメリットだが――


(特にないか……)


 神殿やギルドが真面まともに機能していない現状では、ためしてみる方が良さそうだ。

 むしろ、契約に成功した方が利点メリットはある。


 本来は仲間パーティーに加えた方がいいのかもしれないが、影響力が不明だ。

 安易に能力の高い存在を作り出すのはめた方がいいだろう。


 勿論もちろん、強い仲間が出来ることは有難ありがたいが、俺の【概念武装】の影響が分からない。

 正規の手順をんだ方がいい。恐らく、そういうのは――


(神殿の仕事だ……)


 俺は正直にオヤジへ『精霊と契約する気はあるのか?』と聞く。オヤジの近くにいる精霊は『〈識〉の精霊』らしく、俺とも契約をしている精霊だ。


 ただ契約したとしても、俺のようにウィンドウ画面が出現したりはしないらしい。

 エーテリアの話では『なんとなく〈鑑定〉の技能スキルが使えるようになる』という程度のようだ。


 【根源】が消失している今、目に見えて分かるような変化が表れるワケではないのだろう。俺が簡単に説明すると「それが神の御意思なら」とオヤジは答える。


 普段からの努力の積み重ねが精霊族ソリスき付けたと思うのだが、彼らにとっては神のみちびきらしい。


 信仰心が高いのも、考えモノである。俺は「それだけではない」と言って簡単に訂正した後、エーテリアに頼んで契約を実行させる。


 一応、格好だけでもそれっぽくするために、俺は杖を構えた。


(本当は俺自身、なにもしていないのだが……)


 エーテリアの姿が見えていないのであれば仕方がない。

 すでに契約は終わっているようだったが、俺は魔法で杖の先を軽く光らせる。


 演出というヤツだ。特にオヤジには変わった様子はない。

 オヤジ自身も、自分が変わった事に実感がかないようだ。


 大きな反応リアクションはしなかった。それよりも、


「オレは?」


 とカムディ。話の流れから、どうやら精霊と契約したいようだ。

 現状、契約できたとしても、すぐに使いこなせはしないだろう。


 俺が『どう断ろうか?』と考えている間に、


「精霊もいないのに、契約できるワケないだろ?」


 とミリアム。俺がやんわりなそうと思っていたのに、余計なことは言わないでもらいたい。案の定、


うるさい! 聞いてみる位いいだろっ!」


 とカムディ。喧嘩ケンカを始めようとする。

 俺が間に入り、めようとするも「きゅ~」と背中で変な音がした。


 皆が一瞬にして力を抜く。

 どうやら、ミヒルのお腹の音のようだ。


(そういえば、なにも食べさせていなかったな……)

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