第137話 精霊契約(4)


 俺はオヤジに入手した素材を見せる。

 それと同時に、武器の在庫状況を確認した。


 オヤジは素材を確認しながら――今回、消費したのは矢くらいだ――と教えてくれる。ダークウルフへの一斉射撃に使用した分だろう。


 在庫には、まだ余裕があるようだ。

 俺が『豊穣ほうじょうの杖』を使用して、材料となる木や竹を植樹しょくじゅする必要はないらしい。


 入手した素材については「必要だ」という分を、すべて渡す事にした。


(これでまた、なにか作ってくれるかもしれない……)


 現状では、俺が持っていても使い道がない。

 副職能サブクラス錬金術師アルケミストがあれば、状況は変わっただろう。


 今ある素材の使い道など、精々せいぜいスライムのえさくらいだ。

 特定のえさを与える事で、別個体へと進化しそうだが――


(危険なのでめておこう……)


 それより、矢の1本でもあった方が助かる。

 まあ、時間もないので、過度かどな期待はしない事にしよう。


 一方でカムディは――城壁の守備隊への矢の補充ほじゅうで――走り回っていたらしい。

 顔や態度には出さないようにしていたが、よく見ると疲れている様子だった。


 取りえず、回復魔法ヒールを掛けておく。


「だらしのないヤツだな……」


 アハハッ!――とはミリアム。あまり挑発ちょうはつするような事は言わないで欲しい。

 工房へ入った時に、いい顔をされなかったので――


(その意趣いしゅ返しだろうか?)


 普段から蜥蜴人リザードマンたちにかこまれているため、初対面の相手にも強気のようだ。

 められたら負けだ――みたいな事を考えているのかもしれない。


なんだと!」


 当然、言い返すカムディ。

 同年代なので、仲良く出来るのかと思ったが――


(この二人は、あまり相性が良くないらしい……)


 俺は「めろ」と言って、にらみ合う二人の間に割って入ると、


「まずは名乗るのが先だ」


 たがいに自己紹介をさせる。

 二人とも、納得はしていない様子だったが、


「カムディだ」「ミリアム……」


 そう言って不機嫌ながらも、渋々しぶしぶといった態度でお互いに名乗る。これは――


(仲良くするのに、時間が掛かりそうだな……)


 俺が、そんな事を考えていた横で、


「女だったのか⁉」


 とカムディ。声に出しておどろく。

 まあ、ボーイッシュな格好をしているので、初見では仕方がないだろう。


 変声期も「まだだ」と言われれば、それで納得してしまう年齢である。

 ミリアムの方は先程まで、俺が戦っている姿を遠くから隠れて見ていたのだろう。


 擬態カモフラージュも兼ねていたようで、多少汚れている。

 だが、それを口に出したのは失敗だったようだ。


なんだと!」


 ミリアムがカムディをにらみつけたので、俺は素早く手で動きを制した。

 このまま放って置くと、取っ組み合いの喧嘩ケンカに発展しそうだ。


 蜥蜴人リザードマンが相手であれば、手加減してくれたのだろう。

 ミリアムが気の済むまでたたいて終わり――といった所か?


 彼らの身体からだうろこおおわれているため、素手で殴ると怪我をするのは彼女の方だ。

 例え武器で殴ったとしても、大したダメージにはならないだろう。


 正直、食糧事情が回復したとはいえ、栄養失調で身体の細いカムディの方が喧嘩ケンカでは不利だ。変なトラウマを作るのも、可哀想かわいそうである。


 なにが二人をそこまでき立てるのだろう。

 出来れば仲良くして欲しい所である。


「「だって……」」


 と二人は声をそろえて、似たような表情で俺を見上げる。

 変な所で息がピッタリのようだ。


 今この時だけを見ると、仲の良い友達のように見える。

 しかし、次の瞬間には、


真似まねするな!」「そっちこそ!」


 と再びにらみ合った。ヤレヤレである。

 こんな状況でもなければ、決着がつくような勝負をさせる所なのだが――


(時間もないし、いい案も思いつかない……)


 俺は頭をく。困った表情をしていたのだろうか?


「小僧は、お前さんをしたっている……」


 ライバルだと思ったんだろうさ――とオヤジ。

 俺の対処が下手へたなので見兼みかねて声を掛けたようだ。


 急になにを言い出すのかと思ったが、


「そ、そんなじゃねぇーよ!」


 とカムディが声を上げる。褐色かっしょくの肌で分かりにくいが、顔を赤くして照れているようだ。つまり、ミリアムのことを同年代の男子だと思っていたのだろう。


 自分ではなく、他の男子を連れ回している事が面白くなかった。

 どうやら、カムディは俺に面倒を見てもらいたいらしい。


 理解するのに、少し時間を要してしまったが――


(こういう事だろうか?)


「ププッ、嫉妬しっと?」


 とミリアム。揶揄からかうように俺の腕にしがみ付いた。

 仲の良さをアピールといった所だろうか?


 しかし、それではまるで子供だ。


「だから、そんなんじゃねぇーしっ!」


 カムディは、そっぽを向いてしまう。

 ムキになるのも馬鹿々々しくなったのだろう。


「アハハッ! 可愛かわいい♡」


 ミリアムはそんな事を言って、口元に手を当てて笑った。

 そんな彼女の様子は年相応で『ウザかわいい』といった所だろうか?


 取りえず、俺は――蜥蜴人リザードマンたちの里に暮らしている少女で、人間族リーンの暮らしを見てみたいそうだ――というような説明をする。


「客人だぞ!」


 丁重ていちょうあつかえ!――とミリアム。

 相手が同年代の少年なので、調子が出てきたようだ。


 俺はカムディに「面倒を見てやってくれ」と頼む。

 まあ、姉のイスカに子供たちの面倒を見るようにしつけられている。


(問題ないだろう……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る