第136話 精霊契約(3)


 この辺りで平常いつも通りなのは、青年狩人くらいだろうか? 魔物モンスター脅威きょういり、多くの兵士が気を抜いている中、一人物見台の上で警戒を続けていた。


 口数は多い方ではないが、面倒見はいいようだ。

 青年狩人らしい――と俺が思っている横で、


「あの人……」


 とミリアムがつぶやく。

 知り合いだったのだろうか?――しかし、そういう雰囲気ではなさそうだ。


 彼女の性格なら、さきに声を掛けるだろう。

 単に興味を引いただけのようだ。


 少し気になったので「どうした?」と俺が質問しようとすると、


「おーいっ!」


 下の方から女性の声が聞こえる。

 今回の戦いで出番のなかった女剣士だ。その隣には大男がいた。


 都市の守備は、魔物モンスターが攻めてくる事を想定して、西と南に集中させている。女剣士には敵に回り込まれた際の時間かせぎとして、遊撃ゆうげきを頼んでいた。


 地走鳥ロックバードに乗り、北と東を守るのが彼女の役割だ。

 一方で大男の部隊は腕っぷしが強い連中で固められている。


 気性きしょうあらく、いきおいづいた時の攻撃力はあるのだが、状況を判断して動く事は、大男にはむずかしい。


 よって城壁が破壊された際、肉の壁となる事が彼らの役目だった。

 都市へ魔物モンスターが入り込まないように、捨て身の戦いをする。


 俺の立てた作戦が上手うまく機能したため、彼らが活躍する事はなかった。

 他の兵と比べて両部隊が元気なのは、そういった理由からだ。


 俺が帰還きかんした事に気が付き、集まってきたらしい。

 魔物モンスターが去った――という情報は都市全体に伝わっているのだろう。


 勝利したと思っているようで、手を振っている。

 俺は城壁の上からのぞくように下を見ると、手を振り返した。


「へぇ、人気なんだな!」


 と感心したようにミリアム。彼女の中で俺の株がまた上がったようだ。

 悪い気はしないが、俺も調子に乗るような性格ではない。


「早く報告をしないとな……」


 皆を安心させよう――と言って、一旦いったん城壁の内側へと降りる。

 階段もあるのだが、移動するのも面倒なので、俺は〈スカイウォーク〉を使う。


 城壁の上は思った程、広くはない。そこまで分厚い壁は用意できなかった。

 フレンジーオリックスに突撃されていた場合、簡単に破壊されてしまっただろう。


 地走鳥ロックバードも同様で――その体格から――俺よりもせまく感じたようだ。ミリアムを乗せたまま飛び降りると、翼をバタバタと羽搏はばたかせ、ゆるやかに着地した。


すごいじゃないか⁉ こうもあっさり勝利するとは……」


 女剣士の方は『信じられない!』といった表情をしている。

 まあ、戦力差を考えるのなら、そうなるだろう。


「くぅ~! 出番なしかよっ!」


 とは大男。くやしそうに――パシンッ!――と手の平にこぶしたたき付けるが、その表情には笑顔が浮かんでいた。


 二人とも戦闘には直接参加しなかったため、内心では物足ものたりないらしい。

 ただ、女剣士の部隊の連中は違うようだ。


 魔物モンスターがいなくなった事に、ホッとしている様子だった。

 いや、それが普通の反応だろう。


 そんな彼らとは対照的に、大男の部隊の連中はヤル気満々のように見える。

 元々、血気けっきさかんな連中ではあったが、農作物の収穫や水遣みずやりを手伝った。


 そのため、土地に愛着がいたらしい。

 大男の部隊は土地をらす魔物モンスターひどく、ご立腹りっぷくな様子だ。


 全員が疲労困憊こんぱいでいる状況では、総崩そうくずれしねない。

 そんな戦況をけるために、役割を明確にし、部隊を分けたのだが――


(これはガス抜きが必要か……)


 まだ、街の外にはダークウルフやジャイアントスコーピオンが残っている。

 その処理をお願いしよう。


 一方で俺の浮かない表情に――二人はまだ戦いが終わっていないと――気が付いたようだ。互いに顔を見合わせた後、


「また、来るのか?」


 と女剣士。少し間を置いて、俺はうなずくと、


「頼みがある」


 とげる。今日はもう、魔物モンスター襲撃しゅうげきはないとんでいる。

 だが、気を抜いている場合ではない。明日以降の戦いに備える必要があった。


 大男の部隊にはチームを組んで――蜥蜴人リザードマンと協力して――対処をするように指示を出した。余力があるので、問題なさそうだ。


 ヒャッハー!――と皆、元気に返事をする。

 女剣士の部隊の連中は訓練をしたとはいえ、まだまだ本格的な戦闘は無理だ。


 なにかあった時のため、臨時の救援部隊としての任務をお願いする。

 街の外で戦っている蜥蜴人リザードマンたちや、これから向かう大男の部隊。


 彼らのために、ポーションや食糧の調達を頼んだ。

 魔物モンスター魔物モンスターらうと強くなる。


 弱っているとはいえ、早めに対処すべきだろう。南門と西門をそれぞれ管理する指揮官には、後で詳しい状況を報告するよう、伝令を走らせた。


 本来なら、本部で指揮をっている老戦士のもとへと向かうべきなのだが、近くの産業区画エリアへと足を伸ばす。


 先に武器屋のオヤジの所へ行き、武器の在庫状況を確認する事にした。

 正直、武器の有無が兵士たちの士気に直結する。


 魔物モンスターを倒した際、入手した素材もあるので、早めに渡して置いた方がいいだろう。ミリアムを連れ、俺が工房へ入ると、


「おお、無事だったか!」


 とカムディ。どうやら、心配してくれていたようだ。

 後ろにいたミリアムを見て、怪訝けげんな表情をしたが、元気なようだ。


 俺は一安心する。オヤジの方は相変わらず、無口だった。

 れているので、特に気にする必要もない。

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