第135話 精霊契約(2)


 すまん――俺が謝ると、


「いや、いい! こっちこそ、ビックリさせてしまった」


 そう言って、ミリアムはしゅんとする。

 どうやら女の子は可愛い生き物に拒絶されるとへこむらしい。


 なにやら、俺が悪い事をしたような気になってしまう。


(どうすべきだったのだろうか?)


 ガハムでは役に立たない。俺は次にグガルとダタンへ視線を向ける。

 二人の方がミリアムとの付き合いは長いので、なにか教えてくれるかもしれない。


 グガルとダタンはたがいに顔を見合わせた後、


人間族リーンの街に興味があるみたいだ」


 と教えてくれた。

 なるほど、そういえば『竜のかご』へ行った時も、街のことを色々と聞かれた。


 一度『アレナリース』を見てみたかったらしい。

 気持ちは分からなくもないが、今は戦時中のため、人々のにぎわいは皆無かいむだ。


 『豊穣ほうじょうの杖』の効果で、ようやく食糧が供給できるようになった。人が増えた事で法律も整備しなおさなければならないし、人材を育成する必要もある。


 水の課題は勿論もちろんだが、上水・下水システムも完成させなければならない。

 難民同然の連中も多く、幕舎テント暮しが基本だ。


 街の景観がいいとは言えないので、見ても楽しくはないだろう。

 問題は山積みだ。


(まあ、それでも『行ってみたい』という気持ちは消えないか……)


 俺も地方に暮らしていたので『都会へ行ってみたい』という気持ちは理解できる。

 成長するに連れ、漠然ばくぜんとした焦燥しょうそう感のようなモノがつのってゆくのだ。


 ミリアムの場合は『自分と同じ人間族リーンの暮らしを見てみたい』という事なのだろうが、根っこの部分は同じ気がする。


 自分を変えるためのけが欲しいのだろう。

 そんな時、外から来た人間族リーンの俺と出会った。


 その衝動しょうどうは、より強くなったハズだ。

 本来は彼女の保護者に相談したい所なのだが――


(今はもう、いないのか……)


 どの道、戦闘の報告と被害状況を確認するため、一度都市へと戻る予定ではあった。連れて行っても問題はないだろう。


「ミリアムを連れて行っても構わないか?」


 俺がグガルとダタンの二人に聞いた所、


「どうせ、戦力にはならん!」


 何故なぜかガハムが答える。確かに蜥蜴人リザードマンと比べれば、人間族リーンであるミリアムは足手あしでまといなのだろう。


 だが、言い方というモノがある。

 グガルとダタンににらまれ、ガハムは気不味きまずくなったのか、そっぽを向いた。


 ヤレヤレだ。ここは俺がしりぬぐいをしなければならないらしい。

 落ち込んだ様子のミリアムの手を引き、


「一緒に乗っても大丈夫か?」


 と俺は質問をする。白い地走鳥ロックバードには、一度乗ってみたかった。

 いや、地走鳥ロックバードに乗ること自体が初めてである。


 俺の場合、走った方が早いので乗る機会がなかった。


「初めてだから、色々と教えて欲しい……」


 ミリアムにしか頼めないんだ――と告げると、機嫌を良くしたらしい。

 この年頃の女の子は複雑だと聞いていたが、思ったよりも単純なようだ。


「し、仕方ないなぁ」


 と現金なモノである。笑顔になったミリアムは、


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


 そう言って、地走鳥ロックバードへとまたがった。

 改めて近くで見ると、それなりに大きい。


 人を乗せて岩山をのぼることが出来る脚力を持っている。

 二人くらいなら乗せても余裕なのだろう。ミヒルもいるが――


(まあ、大した重さではないハズだ……)


 ねんのため、ハルバートとカイトシールドは〈アイテムホルダー〉へと収納しておく。俺が乗ると地走鳥ロックバードは「ピエェーッ!」と一鳴ひとなき。


 次の瞬間には――バビュンッ!――と高速で移動した。

 こういう動きをする鳥のキャラクターが出るアニメーションを観た気がする。


 牧柵樹ジャトロファを簡単に飛び越え、気が付くと城壁の上にいた。

 俺が乗った所為せいで、移動力がね上がったしい。


(次からは、もう少し注意しよう……)


 ミリアムの顔が蒼褪あおざめている。

 悪い事をしてしまった。


 飛行距離も伸びる事が分かったので、実験という意味では収穫があったのだが、今は黙っておこう。一先ひとまず、俺は地走鳥ロックバードから降りる事にした。


 また、城壁の上で守備にいていた兵士も啞然あぜんとした様子だ。

 攻撃してこなかった事から、俺である事は分かっていたのだろう。


 単純に――地走鳥ロックバード速度スピードに――おどろいているだけらしい。


(まあ、一番驚いているのは俺なんだが……)


 恐らく、俺が乗る事で〈ワイドウォーク〉や〈スカイウォーク〉の効果も付与できるらしい。ただし、乗り物に限るといった所だろうか?


 例えば『ガハムに背負せおってもらっても、効果は付与されない』と考えた方が良さそうだ。


 きっと『後方に守る仲間がいる時』『瀕死ひんしの状態の時』などの分類カテゴリーと一緒の気がする。ゲームでは前者が防御力、後者が攻撃力の上昇というのが定番セオリーだ。


 特定の条件を満たした時、技能スキルの効果が付与されるのだろう。

 一応、俺は上官に当たるようで、


「ご、ご苦労様です!」


 と兵士は慌てて敬礼をする。

 俺は「そのままで構わない」と告げると、軽く周囲を見回す。


 上空からでは詳しい様子までは分からなかったが、多くの兵士は疲弊ひへいしているようだ。弓を撃っていた弓兵隊は、その場にへたり込んでいる。


 他の者は肉体的な疲れよりも、精神的なモノが大きかったのだろう。

 一つ間違えば、死と隣合わせの戦い。


 緊張からか、疲労の色が濃いようだ。

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