第133話 1日目の終わり(3)


 強力な光の熱で巨人サイクロプス黒焦くろこげにする。

 流石さすがは砂漠の太陽だ。


 俺は巨人サイクロプスの頭からまたにかけて、ぷたつにする要領で光を当てる。

 巨人を『直火焼きグリル』にした。


 いや『直火焼きグリル』は焼き網や鉄板での調理法だから、この場合はBBQバーベキューだろうか?

 香辛料も振りかけたし、竹で串刺しにしている。


(これで俺も陽キャの仲間入りだ……)


 パリピ――いや、魔結晶が手に入ったので、確実に始末できたようだ。

 3体の巨人サイクロプスを倒す事は出来たが、同時に竹林も燃えてしまった。


 ここは再利用といこう。

 巨大〈ウォーターボール〉を落とし、燃え広がる前に鎮火ちんかする。


 太陽光による攻撃は、中々に強力なようだ。

 だが、攻撃として使うには条件を整える必要がある。


 太陽が出ている事や対象が動かない事、火が燃え広がらない事など――いくつか考慮しなければならない。


 普通に炎の攻撃魔法を覚えた方が、効率は良さそうだ。

 さて、ダークウルフの集団と残りの巨人サイクロプス――


(どちらを先に倒すべきだろうか?)


 都市の方へ目を向けると『戦闘の状況は拮抗きっこうしている』といった印象だ。

 城壁や堀のほか、『結界草バリアリーフ』や香辛料の罠もある。


 ダークウルフの方が人間族リーンより戦闘能力は高い。

 だが、他の魔物モンスターよりもかしこいため、迂闊うかつに攻め込む事はしないようだ。


 学習能力があるのか――躊躇ちゅうちょしている――そんな感じに見て取れた。


しばらくは大丈夫そうだな……)


 動いているジャイアントスコーピオンもいるが、その速度スピードはゆっくりだ。

 堀に加えて、牧柵樹ジャトロファが道をふさいでいる。


 そのため、城壁へ辿たどり着く事が出来ないようだ。

 岩場などは問題なく歩けるようだが、垂直に伸びた障害物は苦手らしい。


 都市には油やまき、乾燥した竹などが残っている。

 魔物モンスターが城壁に近づいてきたのなら、火をけて追い払う手筈てはずになっていた。


 それがまだ行われていない。

 つまり、状況的には余裕があるハズだ。


(先に巨人サイクロプスを倒すか……)


 俺がそんな事を考えていると、


「ニャニャニャッ!」


 とミヒル。いつもより慌てた様子だ。

 俺にしがみ付いたまま、器用に飛び跳ねる。


 考えるのはめ――俺は素早く――その場から退避たいひした。

 とはいっても、空中に身を隠す場所はない。


 ジグザグに走り回るだけだ。

 それなのに『黒いなにか』が俺たちの横をかすめる。


 これは偶然ぐうぜんではないハズだ。

 俺たちの更に上空から滑降かっこうし、ミサイルのように体当りをしてきた。


 翼のある大型の魔物モンスター――


(グリフォンだろうか?)


 似ているが――違う。

 翼はデザートイーグル。足をふくめた胴体どうたいはフレンジーオリックス。


 ダークウルフの頭とジャイアントスコーピオンの尻尾を持っている。

 中ボスの代表、合成獣キマイラだ。


 ただ、俺が知っている合成獣キマイラはライオンの頭とヤギの胴体、ヘビの尻尾を持ち、口からは火炎をく。


 ゲームではライオンとドラゴン、ヤギを掛け合わせた姿が定番だっただろうか?

 それぞれの頭を有している。


 前足を含む上半身がライオンで、後ろ足を含む下半身がヤギ、ドラゴンの翼と尻尾を持っていて、通常の冒険者ではまず太刀たちち出来ない。


 また、異世界作品ではオムツライオンが有名だ。

 キマイラにオムツを穿かせるのが流行っているのだろうか?


 しかし、そんな考察よりも――


(この場合、注意すべきは色か……)


 漆黒の色をした合成獣キマイラ悠々ゆうゆうと飛翔し、俺の周りを旋回せんかいする。

 体内を白い塊が魚のように泳いでいた。


 地走鳥ロックバードに変身していたナトゥムの時と同じ特徴だ。

 間違いなく『白闇ノクス』だろう。


 かつて異世界の神であったにも関わらず、その存在理由を失ったうつろなる神。

 いや、神だった者の成れの果ての姿だ。


 この世界で暮らすモノすべてに、絶望の感情を与える存在。


(まあ、社畜である俺には効かないが……)


 会社をめた今となっては、絶望すら心地ここちい。

 俺は副職能サブクラスを【ナイト】に変更。


 右手にハルバート、左手にカイトシールドを装備した。ミヒルはすっかりおびえているのか、俺の外套マントの中にもぐり、小刻こきざみにふるえながらしがみ付いている。


 やはり、この世界の種族では『白闇ノクス』に対抗できないようだ。

 単純に容姿が不気味というのも理由だろうが――


(様々な魔物モンスターの特徴を有する事で……)


 複数の魔物モンスターに指示を出せるらしい。

 考えたモノである。だが、この辺は俺の縄張りだ。


 上手く〈ホーリーウォーク〉を使って、都市にある神殿へ誘導ゆうどうしよう。

 あそこなら、エーテリアの能力も増幅する。


 一気に浄化する事が出来るかもしれない。俺は戦闘になると思い身構えていたのだが――ワオォーン!――と合成獣キマイラ遠吠とおぼえを上げる。


 すると一斉にダークウルフたちが、こちらを向いた。

 そして、示し合わせたかのように走り出す。


 俺に対して「総力戦を挑む気か⁉」と思ったが違うようだ。

 そのまま走り去り、都市から遠ざかるように逃げて行く。


 ジャイアントスコーピオンも反応したが、香草ハーブの殺虫効果は絶大なようだ。

 身体からだを反転させるのが精一杯らしい。


 『白闇ノクス』は「またな」とでも言うように俺を一瞥いちべつした後、ダークウルフたちが去った方向へと向かって飛んでいった。


 敵は撤退したようだ。


(どうやら、初日は切り抜けたらしい……)

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