第132話 1日目の終わり(2)


 巨人サイクロプスたちも、俺の姿に気が付いたようだ。

 悠々ゆうゆうと歩いてきたかのように見えるが、実際には余裕がないのだろう。


 暴力を振るう事に快楽を覚えていた連中の顔は、真剣そのモノだ。

 どうやら俺は強敵として認識されたらしい。


(正直、油断してくれていた方が良かったのだが……)


 香辛料爆弾をもう一度お見舞いしようと思ったのだが、それでは芸がない。

 俺はミヒルに耳打ちした後〈ウォーターボール〉を放つ。


 杖を装備していないので威力は下がったが、それは仕方がない。

 巨人サイクロプスには命中したが、警戒されていたようだ。


 腕を使って、防御されてしまった。

 パシャンッ!――と水球がはじけただけに終わる。


 効果はないようだが、今はそれでいい。俺は副職業サブクラスを【ウォリアー】へと変化させると、一気に接近して〈アクセルターン〉を使用。


 相手の腕ごと斬り落とすつもりで、ハルバートを振るい攻撃した。

 手加減をしたつもりはない。しかし、移動した距離が少なかったのだろう。


 頑丈がんじょうな骨と分厚ぶあつい筋肉におおわれた腕は、簡単に落ちてはくれなかった。

 だが、骨までは断つことが出来たらしい。


 けた腕からボタボタと大量の血液が流れ出る。

 少なくとも、もう腕を振り上げることは出来ないだろう。


 痛みに悲鳴を上げ、斬られた腕を押さえながら、よろけるように後退する巨人サイクロプス


「ミヒル!」


 俺が声を上げると、


「うーニャっ!」


 そう言って、ミヒルは香辛料爆弾を投げた。フワリと空中に浮かんだソレを――俺はハルバートをラケットのように使って打ち――後退した巨人サイクロプスにぶつけた。


 今回は破裂せずに、巨人サイクロプスの口へと入ったようだ。

 いや、口の中で破裂したらしい。


 巨人サイクロプスのどを押さえ、地面を転がる。

 完全に想定外だったのだろう。目さえ守れば、大丈夫だと思っていたようだ。


 仲間が苦しむ姿に、他の巨人サイクロプスたちは若干じゃっかん引いた様子だった。

 俺がなにをするのか分からないので、警戒したのだろう。


 だが、すぐに残りの3体の巨人サイクロプスは俺をにらむ。


(そうじゃなくては困る……)


 香辛料爆弾は、これで終わりだ。代わりといってはなんだが、俺は〈アイテムホルダー〉へ収納していた砂をばらいた。


 風向きを計算し、少し上をねらうのがコツだろうか? 香辛料だと思ったのか、俺に飛び掛かろうとしていた巨人サイクロプスたちは、一瞬動きを止める。


 完全に防御ガードの姿勢だ。これを機に、俺はクルリと反転して逃げた。

 巨人サイクロプスたちからすると、意外な反応だったのだろう。


 てっきり、俺が攻撃を仕掛けてくると思っていたようだ。

 基本はヒットアンドアウェイ。


 巨人サイクロプスの一撃は強力なため、警戒しなければならない。

 適度に距離をけて戦うべき相手である。


 目を防御ガードしながら、巨人サイクロプスたちは追いかけて来た。

 香辛料を受けて、ただでさえ見えにくくなった視界が更にせまくなる。


 だが、防御を優先したようだ。俺としても、その方が都合がいい。

 悠々ゆうゆうと歩いてられたのでは、罠の効果も半減だ。


 また俺が『なにかする』と思っているのだろう。

 そうはさせまい――と慌てた様子だ。しかし、すでわなは準備してある。


 いきおいよくみ込んで来てもらうように仕組んだのだ。

 俺にばかり気を配っていたからだろう。


 予想通り、竹林へ踏み込んだ途端とたん、3体の巨人サイクロプスは悲鳴を上げた。

 よくある竹の罠だ。通常は落とし穴と一緒に仕掛けられている。


 刺さるように、斜めに切った竹。

 竹林へと踏み込むと同時に巨人サイクロプスたちは、それをんだ。


 歩いてきていたのであれば、足の裏に違和感を覚え、気が付く事も出来たのだろう。


 だが、勢いよく踏み込んできた状態なら、気が付くのは串刺しになった後だ。

 手を使ったゴリラ走法。


 両足と両手――いや、片手は顔を防御するために上げている――に体重を掛けた分だけ、竹が深く突き刺さる。


 俺はハルバートから『豊穣ほうじょうの杖』へと装備を変えた。

 同時に副職能サブクラスを【メイジ】に変更する。


 そして、魔結晶を取り出すと杖に魔力を込めた。

 一気に竹を成長させる。


 無くなれば、また次の魔結晶を使用する。

 そうして、ありったけの魔結晶を消費し、竹をドンドン大きく成長させた。


 巨人サイクロプスの手足に突き刺さっていた竹が伸び、太さも増して行く。

 更に周囲の竹も太く長く成長した。


 今更、竹を抜こうとしても遅い。

 周囲の竹も合わせ、自然界ではあり得ない程に太く大きく成長した。


 パンダの好物は巨人サイクロプス拘束こうそくする牢獄ろうごくへと化す。

 手と足を竹で串刺しにされ、周囲を巨大な竹でくされる。


 しなる竹は簡単には折れない。

 最早もはや、身動きをする事さえ困難な状況だ。


(さて、火攻めにするか、頭をかち割るか……)


 俺は少し考えたが、別の方法をためす事にした。

 わざわざ危険をおかして近づく必要はないし、燃やすと大量のけむりが出る。


 俺は〈スカイウォーク〉で更に上昇した後〈ウォーターボール〉を出現させ、その状態を維持する。まる所、巨大レンズというワケだ。


 太陽の光を一点に集め、巨人サイクロプスへと照準を合わせた。

 〈ウォーターボール〉が大きい程、効果があるハズだ。


 確かに戦斧バトルアクスは強力だが、巨人サイクロプスを相手に何度なんども使用するとこわれてしまう可能性がある。現状では修復が困難なため、使用回数は極力制限するべきだろう。


 また、巨人サイクロプスくにしても、大量の炎が必要になる。

 今かられた竹やわらを用意するのも効率が悪い。


 それに火の制御コントロールが出来るワケでないので、下手をすると折角せっかく拘束こうそくした巨人サイクロプスたちを逃がしてしまうかもしれない。


 ここはレンズの光で焼くのがいいだろう。

 ねらいも付けやすいし、威力も高い。


 〈ウォーターウォール〉で窒息ちっそくさせるのも手だが、アレは意外に時間が掛かるうえ、三回も魔法を使わなければならない。


 この方法なら〈ウォーターボール〉を一度出すだけで済む。

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