第八章 決着の時

第131話 1日目の終わり(1)


 俺がミヒルをきかかえ、砂地を移動していると、再び地響きが起こった。

 どうやら、巨人サイクロプスたちが追いかけてきたようだ。


 走りながら振り返ると――6体の内――4体がこちらに向かってせまってきていた。

 残りの2体は足手あしでまといと判断されたようで、置いて来たらしい。


 目を真っ赤にしているのは、香辛料の影響だろうか?

 強化パワーアップしたように見えなくもない。


 事情を知らない普通の人間族リーンなら、泣きたくなるような光景だろう。

 だが、実際に泣いているのは巨人サイクロプスたちの方だ。


 香辛料の影響で、まだ痛むらしい。

 目がうるんでいる。俺としては――


(4体に減って良かった……)


 という感想の方が強い。また、思っていたよりも走るのが苦手なようだ。

 両手を使い、ゴリラを連想するよう動きで向かってきている。


 だが、勢いがあったのは最初だけのようだ。すぐに動きがゆっくりになる。

 筋肉や体重がある分、体力スタミナがないのかもしれない。


 人間であるのなら、筋肉は基礎代謝量が増える。

 そのため、食事の回数を増やす必要があった。


 ボディビルダーなら『一日に4回から7回の食事をとる』というは有名な話だ。

 まあ、彼らの場合は、空腹状態になると身体からだが筋肉を分解しようとするので、それを防ぐためなのだろう。


 特にビタミンやミネラルは尿や汗となって体外へ排出されやすい。

 なので、野菜やサプリメントからまめに摂取せっしゅする必要がある。


 だが、ここは砂漠であり、えさとなる魔物モンスターたちもいなくなってしまった。

 活動に必要な体力エネルギーは、魔力でおぎなっているのだろう。


 そう考えると『体力スタミナ切れを狙う』のも、アリかもしれない。

 魔物モンスターたちが波状攻撃ではなく、一斉攻撃を仕掛けてきた理由にも納得がいく。


 巨人サイクロプスは長期戦には向かない。


(敵は短期決戦が望みだったらしい……)


 俺は〈ワイドウォーク〉の効果で砂に足を取られる事もなく進む。

 また〈キャリーウォーク〉の効果でミヒルや装備品の重さも感じない。


 しばらくの間、巨人サイクロプスを引き付けて、走り続けても良かったのだが、やはり都市の様子も気になる。当初の予定通り、竹林へと向かう事にした。


 一応、大岩や丸太による投擲とうてき攻撃にも警戒けいかいしていたのだが、やはり香辛料が効いているのだろう。ハッキリと俺が見えていないため、攻撃はしてこない。


 そもそも、単眼では距離が把握はあくにくいハズだ。

 魔力などを感知する魔眼のような機能があるのだろう。


(今は香辛料が、それを封じてくれている……)


 妨害ぼうがいがないのであれば、反撃する必要もない。ぐに走った俺は――巨人サイクロプスたちに追い付かれる前に――竹林へと辿たどり着くことが出来た。


 先程のデザートイーグルとの戦闘と、フレンジーオリックスを大量にわなへとめた件で、魔結晶も十分にまっている。


(これなら魔力の心配をする必要はないな……)


 竹林を突き抜け、身をひそめた俺は「しーっ」と口元に指を立てた。

 ミヒルも「しーっ」と真似まねをする。


 次に俺は、都市の様子を確認した。

 城壁が無傷なことから、一応、作戦は上手うまく行っているようだ。


 やはり、ほりの存在が大きい。

 多くのダークウルフが掘の中へと入り込み、上から矢の洗礼を受けたようだ。


 本来はデザートイーグルにより、都市を守る兵士たちは瓦解がかい

 フレンジーオリックスの突撃によって、城壁を壊すつもりだったのだろう。


 残念だが今となっては、その想定はことなり『自分たちが窮地きゅうちに立たされている』というワケだ。


 弓による攻撃力の威力ダメージはあまり高くはない。

 だが、一方的に攻撃された事は面白くなかったようだ。


 先行していたダークウルフの集団は、かなり興奮している状態のようだった。

 しかし、その所為せい統率とうそつれなくなっているらしい。


 ほりからい上がる事は難しいようで、矢の雨がむことはなさそうだ。


(ここは一旦、引いてくれると助かるのだが……)


 攻撃的になっていたのもあるが、腹もいていたのだろう。

 案山子かかしの顔や胴体になっていたパンを、しっかりと食べていた。


 レーズンパン、オニオンパン、アボカドパンは魔物モンスターにも好評だったらしい。

 個体差はあるようだが『ブドウ』や『タマネギ』『アボカド』は犬が食べると中毒症状を起こす。


 即効性はないが、早ければ消化の始まる6時間後、遅くても明日以降には貧血の症状を引き起こすハズだ。


 本来は夜襲やしゅうを仕掛けられる事に対しての罠なのだが『細工は流々、仕掛けは上々』といった所だろう。明日には動けなくなる個体も出てくるハズだ。


 数の多さも問題だったが、単純に人間族リーンとは戦闘能力に差がある。

 相手を弱体化させてからたたくのは定石セオリーだ。


 次に警戒すべきはジャイアントスコーピオンだが、そのほとんどが動けずにうずくまっていた。殺虫効果のある香草ハーブが効いているらしい。


 ダークウルフがあららしたことで、香りや成分が風にったようだ。

 天然殺虫剤の効果によって、虫の息らしい。想像以上だ。


(どうやら、都市の方は大丈夫みたいだな……)


 こちらは巨人サイクロプスとの戦闘にそなえる。

 勿論もちろん、竹林を利用して巨人サイクロプス迎撃げいげきする事が目的だ。


 想定した通り、ジャイアントスコーピオンは竹林を通り抜けられなかったらしい。竹林のほとんどが、無傷の状態で残っている。


(これなら行けそうだな……)


 俺は武器をハルバートに持ち替えると――ミヒルを背負ったまま――再び空中へと駆け上がった。

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