第129話 巨人殺し(2)


 さて、実際の花粉症とは違うため、香辛料爆弾の持続効果は少ない。

 俺の〈スカイウォーク〉も同様だ。


 それなりの被害ダメージは与えたので、一旦いったん地上へと降りる。

 ミヒルには舌をまないように――口を閉じていろよ――と伝えた。


 カイトシールドを使って離れた場所へと滑空かっくうするように降下し、再び〈スカイウォーク〉を発動。空中をって、着地の衝撃しょうげきやわらげる。


 今回はミヒルもいるので、少し慎重になってしまった。

 その所為せいか、巨人サイクロプスたちから距離を取ることに失敗する。


 想定していたよりも、移動することが出来なかった。

 とはいえ巨人サイクロプスたちも、すぐには動けない。


 くしゃみを連発している。

 本当はもっと近づく予定だったのだが――


(まあ、離れているのなら、近づいてきてもらうか……)


 俺は最初に香辛料爆弾をぶつけ、孤立していた個体へと向かって移動していた。

 巨人の数は7体。今はいいが、このまま戦い続けるのは危険だ。


 まずは数の差をめる必要がある。

 そのためには各個かっこ撃破げきはが基本だろう。


 唐辛子が多かったのだろうか?

 まだ涙目で、大きな一つ目を赤くらしている。


 唐辛子が目に入った場合は、油分をみ込ませたティッシュやコットンで目頭を押さえるのが基本だ。使用する油は『サラダ油』や『オリーブオイル』がいいだろう。


 唐辛子やタバスコにふくまれるカプサイシンは油溶性ゆようせいだ。

 油にはけるが、水にはけない。


 カレーを食べた後、水を飲むとかえって辛く感じてしまうのは、そのためらしい。

 一度は口の中が冷やされ、スッキリするモノの――カプサイシンが残るため――ヒリヒリするそうだ。


 傷むようなら、油分でき取った後に水で冷やすのがいいだろう。

 巨人サイクロプスはそんな状態でも、俺のことは視認できるようだ。


 ギロリとこちらをにらむ。

 予想通りの反応のため、ついつい口元くちもとほころぶ。


(会社でも、すぐに怒鳴る上司やなにかと嫌味を言う上司がいたな……)


 少しなつかしくなってしまった。こういう時は関係のない事を考えるに限る。

 社畜の基本だ。上司の仕事は印鑑いんかんを押す事とハラスメントだと思っておけばいい。


 ちなみに『カレーには牛乳がいい』というのは、牛乳にふくまれる『カゼイン』という物質が、香辛料の辛味を感じにくくしてくれるからである。


 牛乳に含まれる『たんぱく質』の約80%は『カゼイン』だそうだ。酢やレモンの果汁などを牛乳にらすと『固まる』という実験ならった事があるだろ。


 チーズやヨーグルトが出来るのは、この『凝固するタンパク質』の性質を利用しているからだ。また、カゼインは固化助剤としても知られている。


 石膏せっこうやカゼインのりが有名だろう。

 その他に『ミルクカゼイン』を使った水性塗料もあるようだ。


 名前からも分かる通り、牛乳やチーズに含まれる『たんぱく質』が主成分で、シンナー臭のしない自然由来の塗料というワケである。


なにやら、途中から美術部員の会話みたくなってしまったが……)


 俺はカイトシールドの手綱たづなを口でくわえてから、竹槍を投擲とうてきする。

 足場が安定しないため、ねらいをさだめたワケではない。


 当たればいい――という感覚だったが、巨人の太腿ふとももへ命中したようだ。

 先程までは、いい反応リアクションを見せてくれていた巨人。


 だが、流石さすがに『怒り心頭に発する』といった様子だ。痛みに気が付き――咄嗟とっさ太腿ふとももを見たが――ぐに、こちらへと向かってくる。


 その形相は、まさに鬼のようだ。


(きっと、自慢じまん美脚びきゃくだったのだろう……)


 風呂上がりにはクリームをって保湿、週に一度はラップのようなモノで足を包んでパックしていたのかもしれない。


 普段、見えない場所のケアは、あたたかい季節になってからでは遅い。

 夏に備えて、乾燥かんそうする冬場でも、しっかりと対策する必要がある。


 体格差があるので――巨人サイクロプスはそのまま――俺を押しつぶせばいいと思ったのだろう。無策で突っ込んできたようだ。


 しかし、俺はしっかりと手綱たずなにぎり、杖を構えると〈ウォーターウォール〉の魔法を発動させる。


 向かってきた巨人サイクロプスの顔を立方体の水が包んだ。

 突如とつじょとして、呼吸が出来なくなる巨人サイクロプス


 最初の内は余裕もあったようだが、次第にもがき始める。

 とうとうヘッドバンギングをり出した。


(学生の頃は、梅吉もヨネ婆と一緒にっていたな……)


 ハードでロックなビートに合わせて激しく首を振ることで〈ウォーターウォール〉からのがれたようだ。


 ぜぇぜぇ――と息を切らせ、四つんいになる巨人サイクロプス

 反撃に転じる余裕はないらしい。


 また先程も説明したが、カプサイシンは水では洗い流す事が出来ない。

 痛みで目をつぶっているのだろう。


 俺は何事なにごともなかったように巨人サイクロプスの横を通り過ぎると、杖から戦斧バトルアクスに持ち替え、移動力を攻撃力に変換する技能スキル〈アクセルターン〉を放った。


 やはり、乗り物に乗った状態で使う技能スキルだったらしい。

 巨人サイクロプスの胴がぷたつになる。

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