第128話 巨人殺し(1)


 さて、巨人殺しジャイアントキリングの定番といえば、足をねらう事だが――


(それは動きを止め、ひざかせるためだ……)


 移動力を上げる〈ハイウォーク〉と空中を歩く事が出来る〈スカイウォーク〉の技能スキルを持っている俺には、あまり意味がない。


 巨人よりも早く動くことが出来て、高い位置からの攻撃も可能なため、その定石セオリーは無視してもいいだろう。


 問題なのは7体という『数の差』と体格差による『筋力』だ。

 世紀末覇者はしゃでもない限り、真面まともり合うのはが悪い。


なにやらサイクロプスが『ヒャッハー』な連中に見えてきたな……)


 見た目も区別がつかないので、7つ子のようにも見える所為せいだろう。

 巨人たちの背後に回り込んだ俺は、ミヒルを地面へと降ろす。


 竹槍を〈アイテムボックス〉から出すと、地面へと突き立てた。

 また、香辛料の入った袋も用意する。


 今回は対巨人用という事で、ダークウルフの時よりも大きめに作ってある。

 ミヒルに背嚢リュックを渡すと香辛料の入った袋を詰めるように指示する。


 間違って鼻や口で吸うと大変なので防塵布マスクを巻く。


「ゆっくりでいいぞ」


 俺はそう言った後、目測で距離を測る。そして、ミヒルが作業をしている間に――巨人に対して背後から――竹槍を投げた。


 技能スキルの効果が上乗うわのせされているため、相変わらずすごいきおいで飛んでいく。

 あ、いたっ!――といった所だろうか?


 竹槍が刺さった巨人は背中をらせる。

 微妙びみょうな位置に刺さったため、手がとどかないようだ。


 なにやってんだよ――そんな表情で仲間の巨人を見ていた2体目。仲間の背中にさった竹槍を抜こうとした状況タイミングで、俺が投げた2投目がソイツの尻にさる。


 こっちは――ギャヒンッ!――といった感じだろうか? デリケートな部位だったらしく、反射的に尻を引っ込める形で、その場から飛退とびのいた。


 俺は続けて1本、2本、3本と連投する。

 サイクロプスの反応リアクションがいいので、少し面白おもしくなってきた。


 それにまとがデカいため、簡単に攻撃が当たる。

 だが、いつまでも続けてはいられない。


 振り返り、周囲を見回した後――俺の存在に――すぐに気が付いたようだ。

 俺はミヒルへ香辛料の入った袋を渡すように言って、受け取った。


 香辛料だけでは軽いので、石も入っている。

 俺は、こちらをにらみ付けていた『ヒャッハー』もとい巨人の顔面へと投げつけた。


 パンッ!――と音を立て、袋が破裂する。

 巨人からすると大した量ではないので、油断したようだ。


 粉薬を飲む際、オブラートに包まず、失敗した時の事を想像するといいだろう。

 すぐに目と鼻にダメージを受けたらしい。涙を流して、くしゃみをする。


(やはり異世界の魔物モンスターには、調味料が有効なようだな……)


 待機させていたミヒルをひろって、残りの竹槍をかつぐ。

 そして、急いで空中へと逃げた。


 7体の巨人の内、1体はくしゃみを連発しているようだが、全員の注意をこちらへ向けさせる事には成功したようだ。


 振り返ると1体を残し、巨人たちは一斉に俺を追い掛けて来る。

 百メートルは離れていたハズだが、体格差を考えると十分な距離とは言えない。


 まあ、それは俺が普通の人間だった場合だ。更に上へと逃げる。

 巨人の跳躍ジャンプ力が、どの程度のモノかは分からない。


 だが、人型の魔物モンスターだ。得意ではないだろう。

 身長の半分でも、飛ぶ事が出来ればいい方だ。


 相手が『とどきそうだ』と思える高さで、俺は適当に動き回る。

 だが、俺の目的は敵の攻撃を回避する事ではない。


 明らかに弱点と思える目をつぶす事にあった。

 怒りの感情をあらわにして、こちらに向けてくる今が好機チャンスだ。


 太陽を背にする事も可能だったが、それでは目を閉じてしまうため意味がない。

 目を見開き、空中に居る俺へ飛び掛かってきた所に、竹槍を投げつける。


 先程は『当たればいい』という感じで――ある程度、力を抜いて――投げていたのだが、今回は本気だ。


 グサッ!――と気持ちのいい音を立て、その大きな目玉を串刺しにした。

 目を押さえるように両手で顔をおおい、地面へと転がる巨人。


 盛大に砂が舞う中、仲間が苦しむ姿を唖然あぜんとした様子で見詰める巨人たち。

 反撃されるとは思ってもいなかったのだろう。


 おどろいた様子だったが、俺には絶好の機会チャンスだ。

 驚愕きょうがくしている、2体目の巨人の目をねらう。


 咆哮ほうこうのような声を上げ、2体目の巨人は顔を押さえてひざく。

 やはり、目が弱点らしい。


(いや、大抵の生き物はそうか……)


 残りの巨人たちは慌てて顔を手で防御ガードする。

 そこで香辛料爆弾の出番だ。


「ミヒル」「はいニャッ!」


 俺はミヒルから受け取った香辛料の入った袋を巨人の顔目掛めがけて投げつける。

 効果はすでに確認済みだ。


 香辛料爆弾が命中した巨人から、くしゃみを連発する。

 見ろ! 巨人が花粉症のようだ。


 しかし、日本の花粉症はこんなモノではない。

 世界でも花粉症が深刻なのは日本だけである。


 花粉症はまさに、日本が世界へほこる文化だ。

 我が日本の花粉症は世界一ィィィ!――と漫画のネタでもあった気がする。


 日本が抱える社会問題の前に、巨人など脅威きょういですらない。

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