第127話 決戦開始(3)


 魔物モンスターからすると突如とつじょ、出現した『落とし穴』のようなモノだ。

 加えて、後方ではダークウルフたちがするどい牙をき出しにしている。


 そのため、フレンジーオリックスは窪地くぼちへ飛び込むしかない。

 窪地くぼちが出来た事に気が付かなかったダークウルフたちも数体、巻き込まれた。


 フレンジーオリックスを罠にめることは出来たが、ダークウルフはなんのがれた個体がほとんどのようだ。


流石さすがに都合よくはいかないか……)


 一方で俺は天高く、せり上がった『竜殺花』クリムゾンカルネージを真っ二つにしようと準備をする。

 戦斧バトルアクスの出番だ。


 その前にミヒルへ、しっかりとつかまっているように伝える。〈スカイウォーク〉を使用し、上昇すると空中からの〈アクセルターン〉を発動した。


 物の見事に――スパンッ!――と真っ二つになった『竜殺花』クリムゾンカルネージ

 植物なので、それで死ぬ訳ではない。いまだ根によって支えられている。


 俺は『豊穣ほうじょうの杖』で根を操作して、左右の窪地くぼちへと倒す。

 中々に巨大な植物だ。それだけでも十分な威力いりょくがある。


 窪地くぼちへと落ち――怪我けがをしたのか、それとも砂に足を取られたのか――い上がれずにいるフレンジーオリックスとダークウルフは見事に下敷したじきとなった。


 だがさらに、俺は追いちをかける。

 『竜殺花』クリムゾンカルネージらすと、火を点けた。


 牧柵樹ジャトロファの実から油は抽出している。

 収納していた油の入った袋を取り出して振りかければ、着火自体は問題ない。


 ワラたばを取り出し、燃料として投下。

 残った油も袋ごと投げ込む。


 空気が乾燥しているためか、風が吹くと――あっという間に――火は燃え広がった。倒れた木の根は上手うまい具合に、窪地くぼちふさいでくれている。


 メラメラと燃える炎に魔物モンスターたちの進軍も止まった。

 折角せっかくの戦車作戦だったようだが、これで終わりだろう。


 しかし、油断をしてはいけない。

 空中で魔物モンスターたちの様子を観察していた俺に対し、巨大な棍棒が飛来してきた。


「ご主人っ!」


 ニャアッ!――とミヒルが教えてくれた。

 俺は回避するのと同時に『豊穣ほうじょうの杖』を使用する。


 巨大な棍棒――と表現はしたが、見た目は丸太まるたと変わらない。

 なんの植物かは分からないが、植物である以上、操作は可能だろう。


 本来ならければ『それで終わりだった』のだが、何処どこに飛んで行くのか分からない巨大な棍棒は危険だ。


 回避と同時にりを入れる事で、クルクルと回転させる。

 技能スキルのお陰で、俺の脚力は異常な事になっているので、このような応用も可能だ。


 そのすきち果てさせた。こんな攻撃をしてくる魔物モンスターはダークウルフでも、ジャイアントスコーピオンでもない。


 例の巨人だろう。俺はミヒルへ目をつぶるように指示すると、そのまま〈ホーリーウォーク〉を使って、一度身を隠す。


 砂漠なので、風で砂が飛ばされると〈ホーリーウォーク〉が発動できない可能性もあったが、大丈夫なようだ。


 無事に地面から幾本いくほんもの光の柱が空へと伸びる。

 肉体を持つ魔物モンスターには、それほど効果はないらしい。


 精々せいぜい、二の足をんでひるむ程度だ。

 それでも目眩めくらましの効果はある。


 俺は素早く地上へ降りると竹林を抜け、身を隠した。

 竹林の中に身を隠せるのなら、それでも良かったのだが――


(スカスカなんだよな……)


 ジャイアントスコーピオンの進軍を防ぐのが主な役割のため、それほど密集させる必要はなかった。


 それよりも、ダークウルフが通り抜けられるように竹を切っている。

 さらに竹の先端せんたんは、するどい槍のようにとがった状態だ。


 人間でも転ぶと危ない。上手くいけば、ダークウルフを串刺しに出来るだろう。

 また巨人が裸足で踏んだ場合、足に刺さってくれれば御の字だ。


 俺はミヒルを背負いなおすと、竹林のはしの方へと駆け出した。この段階まで来たのなら、ダークウルフとジャイアントスコーピオンは都市の連中に任せた方がいい。


 俺の仕事は7体の巨人を倒す事である。

 まずは――このまま地上を走って――背後へと回り込む。


 魔物モンスターたちの目的は都市を攻撃する事だ。弱い人間族リーンに背後からおそわれる事になるなど、微塵みじんも思ってはいないのだろう。


 簡単に回り込めそうだ。

 一方でダークウルフたちは助走をつけ、燃えている窪地くぼちを飛び越える。


 失敗した仲間がいれば、それをみ台にしているようだ。

 あっという間にダークウルフの集団が竹林を抜ける。


 その先には香草ハーブが広がり、パンで作った案山子かかしの集団が待ち受けていた。

 竹林で怪我けがをしたダークウルフも何体なんたいか居たようだ。


 相当、怒っているのか案山子かかしを人だと思っておそっているらしい。

 さわがしいうなり声がひびいていた。


 俺は燃えている『竜殺花』クリムゾンカルネージの煙を利用して、隠れながら進む。火の威力は収まっているようで、ダークウルフから遅れる形でジャイアントスコーピオンが動き出した。


 やはり竹林を通るのが苦手なようで、ハサミを振るうが――別にするどいワケではないため――しなる竹を上手じょうずに切りく事は出来ない。


 結局は、俺がえて作っておいた隙間から竹林を抜ける。

 残っているのは7体の巨人たちだ。


 仲間である魔物モンスターつぶさないように距離を取っていたらしい。

 進軍が遅かった理由は、それだったようだ。


 身体からだが大きい――というのも良い事ばかりではない。やっとの事でジャイアントスコーピオンがいなくなったため、巨人たちは動き出す。


 律儀に待っていた事には感心するが、俺たちが背後に回り込むには十分な時間だった。一応『白闇ノクス』の存在には警戒けいかいしたが、それらしい姿は見当たらない。


 ボスは最後に出て来る――


(まさか、そんな定石セオリーでも守っているのだろうか?)

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