第126話 決戦開始(2)


 するど鉤爪かぎづめを持つデザートイーグル。

 空を埋めくすというワケではないが、全部で60体はいるのだろうか?


 決して多い数ではない。

 だが成人男性をつかみ、軽々と飛び去るくらいは余裕で出来そうだ。


 そんな魔物モンスターを相手に、今の人間族リーンが勝つのは難しい。

 俺は巨大な魔結晶を取り出す。


 サンドワームの時もそうだったが、予想通り標的ターゲットを俺にさだめたようで、次々に襲撃しゅうげきしてくる。数が数だけに、一人ではけるのも面倒だ。


 しかし――〈キャットウォーク〉を習得していたおかげか――空中での回避はそれほど難しくなかった。


 一々ねらいを定めてもいられないので、適当に種をくと『豊穣ほうじょうの杖』で発芽、つたからめ取る。


 空さえ飛ぶ事が出来なければ、そこまで警戒する敵でもない。

 まずは確実に数を減らす。


 そもそも――タカワシのような猛禽もうきん類は――強いためれる必要がない。

 獲物えものである俺をうばい合う事はあっても、連携を取る事はなかった。


 そのため、集団での攻撃はていしていない。

 連携が取れていない事もあり、俺が攻撃ダメージを受ける事は無かった。


 ただ困った事に、途中で〈スカイウォーク〉の持続時間が切れそうになる。

 何度なんどか地上へと降り、カイトシールドで攻撃をふせぐ。


 引きつけてから〈ウォーターボール〉をち込み、複数をまとめて撃破げきはした。

 一度戦った事のある相手なので、対策も心得ている。


 落ち着いて対応すれば、問題のない相手だ。

 それに――魔物モンスターの軍勢へ加わる可能性も――考慮こうりょはしていた。


 むしろ、想定していたよりも数が少ないため、楽ではある。

 俺も都市を守る兵士たちも、慌てる理由はなかった。


 だが蜥蜴人リザードマンの情報では、オルガラントの街にデザートイーグルの個体を確認していなかったハズだ。


 この都市へ来る途中に『即席そくせきれに加えた』と考えるべきだろう。


何処どこから集めてきたのかは知らないが……)


 デザートイーグルの数が少ない事と魔物モンスターたちによる都市への進行が遅れたのは、それが理由のようだ。


 だとするなら、間抜まぬけな話である。

 俺に魔物モンスターの軍勢を迎撃げいげきするための時間を与えたに過ぎないのだから――


(それとも、他に本命があるのだろうか?)


 この分なら想定外の出来事が、まだ起こるかもしれない。

 デザートイーグルを都市へ近づけないために引きつけて戦っていた。


 そのため敵を全滅させるのに、想定よりも時間を浪費ろうひしてしまったようだ。

 上空から魔物モンスターの軍勢へ視線を向けると、進行速度がヤケに早い一団が目に付く。


 どうやら、城壁を破壊するつもりのようだ。2本の長いツノを生やした細身の牛型の魔物モンスターをダークウルフたちが追い立てている。


 牛型の魔物モンスターは喰われないために、必死に逃げているだけのようだ。

 このまま行けば、都市の城壁へとぶつかるだろう。


 魔物モンスター魔物モンスターを利用する。

 狼型の魔物モンスターであるダークウルフは、他の魔物モンスターよりもかしこいらしい。


 いや、これも『白闇ノクス』の指示だろうか?

 牛型の魔物モンスターを〈鑑定〉すると『フレンジーオリックス』と表示された。


 額の硬質化した部分が赤い事から、興奮している事が見て取れる。


(なるほど、巨体に加えて頑丈がんじょうそうな身体からだをしている……)


 詳しくは調べなかったが――名前から推測するに――要は激高げっこうした魔物モンスターを戦車のように使う気なのだろう。


 このまま突撃を許せば、折角せっかくえた竹林や牧柵樹ジャトロファぎ倒されてしまいそうだ。

 そうなった場合、次は城壁の破壊だろう。


 生憎あいにくほりを作っているため、助走できる場所は限られている。

 フレンジーオリックスの巨体では、加速しての体当りは難しい。


 放って置いても、そこまで脅威きょういにはならないのだろうが――


魔物モンスターが一斉に攻めてくると厄介やっかいだな……)


 作戦としてはダークウルフとジャイアントスコーピオンを分断させる事が目的でもあった。そのために色々と罠を準備している。


(まあ、こんな事もあろうかと……)


 俺は数ある罠の1つを使用する事にした。

 巨大な魔結晶を消費したため、温存しておくのも勿体もったい無い。


 ここが使い所だろう。

 俺は竹林の先にある1本の大きな切り株の上へと降りた。


 正面には魔物モンスターの軍勢が見えている。

 壮観そうかんな景色だ。


(いや、普通は『絶望的な景色』と思う場面シーンか……)


 砂漠であるため、生き物が存在する事に感動してしまった。背中にしがみ付いているミヒルが恐怖でらす前に、俺は『豊穣ほうじょうの杖』を使用する。


 まずは根を動かす。植物の名前は『竜殺花』クリムゾンカルネージ

 あの時、採取した種を使わせてもらった。


 俺が立っている切り株は、成長させた『竜殺花』クリムゾンカルネージを切り倒したモノである。

 勿論もちろん、花は咲かせていない。


 ただ成長させるのに大きな魔結晶を消費してしまっている。


(十分に活躍してもらうとしよう……)


 俺は杖で――切り株をコツンと――たたくと、地中深くに張りめぐらせた根を一気に動かす。


「ニャニャッ!」


 とおどろくミヒル。それもそのハズだ。

 俺たちが立っていた切り株が空へ向かって、急激にせり上がって行く。


 同時に――植物の根が地中から無くなった事で――砂地が変化する。

 フレンジーオリックスの進行方向に突如とつじょとして、窪地くぼが出現した。


 上から見ると『巨大なみぞ』と表現した方がいいのかもしれない。

 流石さすがに『死の谷デスバレー』のような深い谷を作るのは無理だ。


 だが、全速力で走っているフレンジーオリックスにとっては脅威きょういだろう。

 砂地では足を取られ、突然の出来事に立ち止まる事もできない。


 いきおいを殺せず、次々に窪地くぼちの中へと落ちていった。

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