第125話 決戦開始(1)


 蜥蜴人リザードマンたちとの交渉が終わった――その翌々日。

 皆で朝食をとっていた時のことだ。


 かすかに食卓テーブルの上の食器がれ始める。

 最初は地震かと思ったのだが、それにしてはれ方がおかしい。


 まるで集団の足音のような――


(来たか⁉)


 そう思い立ち上がると、俺は〈スカイウォーク〉で上空へと駆け上がる。

 同時に――状況タイミングを計っていたかのように――ミヒルが飛びついてきた。


 少しおどろいたが、いつもの事なので気にせず、駆け上がる。急いで南西の方角を確認すると、地響きと共に砂煙を巻き上げ、魔物の軍勢が押し寄せてきていた。


 正直、波状攻撃を警戒していた俺としては拍子ひょうしけだ。

 物見台の兵士も気が付いたようで――カンカンカン――と警鐘けいしょうを鳴らす。


 その音に街の住民たちはおびえ、神へといのるようにひざを突いた。

 戦えない者は事前に神殿へ避難するように伝えてある。


 神殿長と老戦士にも、事前に話しはしていた。

 兵士たちが非戦闘員を順次、避難ひなんさせるために動いてくれるハズだ。


 俺は一旦、イスカたちのもとへと戻る。目が合うや否や――分かっています――とでもいうように、彼女は真剣な表情でうなずいた。


 子供たちはすでに彼女のそばへと集まっている。

 指示にしたがって、神殿へと避難するだろう。


「ミヒルも戦うニャ!」


 と言って、置いて行かれまいと俺の背中にしがみ付く。

 先日のスライム退治の際、一緒に居たため、レベルは20に達していた。


 そこらの人間族リーンに比べるとはるかに強い。

 目を離したすきに、勝手に動かれても困るので連れていく事にする。


(他にも役に立つしな……)


 カムディは武器屋のオヤジと一緒に裏方の仕事をするようだ。

 皆、それぞれに自分のるべき事を決めていたらしい。


「また、あとで会おう」


 俺はそれだけ告げると、再び空へと駆け上がる。魔物モンスターの特性を活かした波状攻撃であれば、兵士たちが疲弊ひへいし、使い物にならなくなっていただろう。


 そうなる前に、俺一人で敵陣へと乗り込む事も考えていた。

 指揮官である『白闇ノクス』と一騎打ちをするためだが――


(この分なら、そんな危険をおかす必要もないか……)


 すで作業工程フローは完成している。

 一斉攻撃の方が、俺にとっては都合が良かった。


 砂煙が巻き上がっている所為せいもあるが、単純に距離があるため、目視ではまだ魔物モンスターの姿を正確には認識できない。


 しかし、人外の黒い影が見えていたので間違いないだろう。

 警鐘けいしょうが鳴らされるのと同時に、兵士たちはそれぞれ持ち場につく。


 戦闘が始まる。城壁の内側で装備を確認している大男に手を振り、物見台の上で待機していた青年狩人に「行ってくる」と告げる。


「おーい」


 と下から声が聞こえた。

 見下ろすと、女剣士が地走鳥ロックバードまたがり手を振っていた。


「頼んだぞ!」


 女剣士の言葉に、


「任せておけっ!」


 とガラにもなく、俺は声を上げた。

 どうにも、体育会系のノリが移ってしまったようだ。


 魔物モンスターが攻めて来るまで時間はあった。

 そのため仕掛けは十分用意できている。


 食糧に関しては、むしあまるくらいだ。神殿都市『アレナリース』の周りにはほりが作られ、俺が植えた香草ハーブが咲き乱れている。


 また、街への道をふさぐように牧柵樹ジャトロファを植えたので、自然と堀の方に入る仕組みになっていた。


(お陰で魔結晶をだいぶ使ってしまったがな……)


 その向こうには竹林を作り、ジャイアントスコーピオンの侵入を防ぐようにしている。ただ、隙間すきまを空けている。


 えて、そこを通るように間隔かんかくを作っていた。

 更に、その向こうにはパンと竹で作った案山子かかしを並べている。


 対策としてはダークウルフ用だ。

 俺は魔物モンスターの集団よりも、空を警戒していた。


 注意すべきはデザートイーグルだからだ。

 そのため、感知能力にすぐれたミヒルを連れて来たといってもいい。案の定、


「ニャニャッ!」


 とミヒル。敵の接近を教えてくれる。

 鳥にしては大きすぎた。デザートイーグルのれだ。


 れるような習性があるとは考えにくいので、あやつられているのだろう。


(でも、どうやって?)


 複数の魔物モンスターを一度に、それも器用に操ることが出来るとは思えない。

 ナトゥムが他の『白闇ノクス』よりも低級だという可能性は十分にあるが――


なにか仕掛けがあると考えた方が良さそうだな……)


 それよりも今はデザートイーグルだ。

 とは言っても、すでに一度戦っている。


「しっかりつかまっていろよ」


 そうミヒルへ告げると――俺は更に上昇し――デザートイーグルたちの上を取る。

 後はブドウの種をばらくだけだ。


 『豊穣ほうじょうの杖』を使い、ブドウの種を発芽させるとつたを成長させ、縛り上げる。

 次々に落下していくデザートイーグル。


 街へと近づいたデザートイーグルも当然いたが、クルリと反転する。

 恐らく、香草ハーブを植えたのが効いたのだろう。


 ミントの香りなどは苦手だと聞く。

 物見台で様子を見ていた青年狩人が、その内の1体を撃つ。


 丁度、大男たちが待機していた場所へと落ちたようだ。

 デザートイーグルは袋叩きにっていった。


(俺も負けてはいられないか……)


 再びブドウの種をき、Uターンしてきたデザートイーグルを拘束する。

 落下した個体には、スリングショットで石をお見舞みまいした。

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