第122話 迎撃態勢(1)


 経験値とドロップ品が手に入ったので、ダークウルフを撃破した事が分かった。

 このまま、敵へ奇襲きしゅうをかけるのも手だが、単騎では分が悪い。


 俺は一度、都市へと戻る事にした。

 エーテリアとイスカが心配するので、数時間だけ仮眠を取る。


 翌朝――ダークウルフがしげみなどに隠れひそんでいないか――大男たちに都市の周辺を探索してもらう。


 ついでに作物への水遣みずやりも依頼する。

 その間に俺は老戦士と神殿長へ、昨夜のことを報告した。


 また、今後の計画についても話をする。早くて今日、少なくとも明日明後日には魔物モンスターの軍勢が【終末の予言】の通り、この都市へと押し寄せるだろう。


 作戦自体は考えてあるし、そのための準備も進めてきた。

 問題は逃げるか、戦うかだ。


 実際、昨夜は無傷で勝利したが、兵士たちの疲労が目立つ。

 士気は高まっているが、体力はおとろえている。


 砂漠を越えるための過酷かこくな旅を続けた事も理由だろうが『不安からくる精神的な疲労が大きい』と考えるべきだ。


 今一度、都市に住む人々の意志を確認するように伝えた。


(少なくとも、俺の技能スキルを使えば移動は可能だろう……)


 俺は神殿での会議を早々に離脱すると、ミヒルをむかえに行く。

 正直、感知能力にかけては彼女の方が上だ。


 昨夜は魔物モンスター襲撃しゅうげきがあり、皆起きていたようで寝不足らしい。

 遅めの朝食をとっていた。


 今日からは小麦のパンではなく、ソルガムのパンとなる。

 トウキビのパンと考えればいいだろう。


 日本では確か、平安時代に渡来したと記憶している。

 高黍たかきびと呼ばれ、団子の材料として使われていたらしい。


 口に合ったようで、子供たちは満足そうにしていた。

 小麦のパンは柔らかくて美味おいしいのだが――


(まあ、同じ物ばかり食べていてもきるか……)


 街の外へ行くと伝えると、いつものように、ミヒルが勝手に俺の背中へと登ってきた。食後の運動には丁度いいだろう。


 作物を植え直すのと同時に魔物モンスターの探索を行った。

 だが、大丈夫なようだ。ミヒルは暢気のんきに大きな欠伸あくびをする。


 大男たちからの報告でも『見た』という連絡はない。

 ダークウルフは『すべて倒した』と考えて良さそうだ。


 俺がミヒルのあごでると「うにゃ~♪」と気持ち良さそうに声を上げる。


(信用して良さそうだな……)


 これで都市の外での作業が可能になった。

 職人たちには城壁の修理を頼む。


 ダークウルフの襲撃しゅうげきったが、被害は出ていないハズだ。

 それでも、念のため点検をしてもらった。


 兵士と大男たちにはほりの整地を頼む。

 街に近づくほど深く、離れるほど浅い造りにしてもらう。


 堀へと入った魔物モンスターたちは気が付かない内に深い場所へと降り、行きまりの壁へとち当たる仕組みだ。


 粘土や煉瓦レンガは十分なようらしく、午後になる前にキングスライムのコアは回収しておく。牧柵樹ジャトロファも堀に沿う形で植えたので、人が落ちることはないだろう。


 周囲も砂から土に変わったため、簡単にはくずれない。

 牧柵樹ジャトロファの根も地面を固めるのに役立ってくれているようだ。


 午後には蜥蜴人リザードマンたちが木材を持って、都市へと来ることになっている。

 魔物モンスターの進行度合いは、その際に確認する予定だ。


(交渉が上手うまく行けば、協力体制を取ることも出来るな……)


 皆が働く中、俺は都市の南西の砂地に回収したコアからキングスライムを復活させた。丁度、この場所に堀を作っておきたかった所だ。


 西に2つ、南に2つ、南西に1つの堀があれば、なにも知らない魔物モンスターたちの威力をぐことが出来るだろう。


 押し寄せた大軍勢が堀へと自ら入り、深くなった行きまりの場所で、後ろから来る仲間の魔物モンスターたちに押しつぶされる。


 当然、坂になっているためまるのはむずかしい。

 ヌーの大移動のような光景になるのだろうか?


 後ろから来るれの連中に踏み潰されるというワケだ。


(後は俺が上からトドメを刺せばいい……)


 勿論もちろん、そう上手うまく行く保証はないが、そうなるように確率を上げるだけだ。

 まずはキングスライムを4体復活させ、融合させる。


 えさとなる竹は熱砂除けとして植えていた竹をすべて引っこ抜いて与える。

 〈ウォーターウォール〉の魔法を使えば、巨大な災害級ディザスタースライムの出来上がりだ。


 暴れ出す前に退治しなければならない。

 俺は〈スカイウォーク〉で空中へ移動すると、用意していた竹槍を投げ込んだ。


 ねらうのは当然、コアである。

 数回の投擲とうてきで完全に破壊することが出来た。


 後は大量の粘液が残され、経験値と巨大な魔結晶の入手に成功する。

 大男と兵士たちに声を掛け、スライム粘土を回収させた。


 その粘土を使って――堀がくずれないように――形を整えるように指示を出す。


(まずは第一段階終了といった所か……)


 続いて、入手した巨大な魔結晶を使用する。まずは防御の手薄な北と東に回り込まれないように竹林を作り、加えて殺虫効果の香草ハーブの花畑を作った。


 今回は魔力の出ししみはしない。スライムから入手した魔結晶をすべて使用したので、かなりの広範囲に植物を植えることが出来た。


(これで第二段階も終了……)


すごいニャ♪ すごいニャ♪」


 流石さすがはご主人だニャ♪――と興奮するミヒルを都市へと連れて行く。

 本来はレベルも上がったので、戦力として数えるべきなのだろうが――


(子供を戦わせるワケにもいかないか……)


 俺は危ないのでイスカの言う事をちゃんと聞いて待っているように言い聞かせる。


「はいニャ! 分かったニャ♪」


 とミヒル。最近は俺以外の人間にもれたようなので助かる。

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