第119話 砂漠の夜戦(1)


 まばらだが、目印になる程度に牧柵樹ジャトロファを植えた。

 都市の人々が生活する上で、外へと出るための通路も確保する必要がある。


 考えも無しに『大きな穴を作ればいい』というモノでもない。

 俺は〈スカイウォーク〉で空へと上昇する。


 魔物モンスターが周囲に存在しないか警戒しつつ、目印として植えた牧柵樹ジャトロファの位置を確認するためだ。


(問題ないようだな……)


 俺は着地すると――牧柵樹ジャトロファに囲まれた範囲で――スライムを誘導するように、兵士たちへと指示を出した。


 本来はほりを用意すべきなのだろうが、砂の中には以前の都市が埋まっている。

 巨大サンドワームは俺が退治した。これ以上、砂が増えることはないだろう。


 後で街の人々が――かつての都市を――掘り起こす可能性もある。

 広範囲に穴を広げた方が、作業も楽になるハズだ。


 上手うま窪地くぼちが機能すれば、十分に要塞ようさいとして活用できるだろう。


(これで魔物モンスターが都市へと向かう通路も限定されるといいのだが……)


 いくら人間族リーンが弱いといっても、敵が来る方向が分かっていて、待ち伏せが可能なら、そこまでおくれを取る事もないハズだ。


 俺は再び、竹と麦を増殖させた後、日陰となるナツメヤシを植える。

 兵士たちには時折、休憩をして無理はしないように伝えた。


(さて……)


 今度は大男のたちのもとへと向かう。

 こちらを見ていたのなら分かると思うが、兵士たちを借りられたむねを伝える。


 一方で大男たちには、今日から夜の警備もお願いしなくてはならない。

 そのため、体力を温存しておくように指示を出す。


 職人たちにも、暗くなる前に撤収てっしゅうするように連絡をした。

 正直、今回の戦いでは、戦士よりも職人の方が重要だ。


 彼らを失うような事があってはならない。

 俺は竹と麦の生産を行った後、大男たちの方にも牧柵樹ジャトロファを植える。


 窪地くぼちも深くなった。万が一、誰かが落ちてしまったのなら危ない。

 日干し煉瓦レンガも、いつの間にか、たくさん作られているようだ。


 木枠にめられた粘土がズラリとならんでいた。

 壮観だが、物見台を4つも造るのであれば、数としては心許こころもとない。


(俺が作業に加わってもいいのだが……)


 ここは『自分たちで都市を守った』という成功体験を植え付ける方が良さそうだ。

 人は目に見える成果があると成長した気になれる。


 俺は一旦、街へと戻ることを告げた。『豊穣ほうじょうの杖』を使って色々としたい所だが、魔物モンスターとの戦闘を考えるとMPは温存しておいた方がいい。


 MPの回復もね、歩いて――といっても俺の場合は高速での移動になるのだが――都市へと戻った。


 まずは子供たちに頼んでいた案山子かかしの生産状況を確認する。

 思ったよりも数は少ないが、子供たちが一生懸命作ったモノだ。


 人型であればいいので、こんなモノだろう。

 誰かパンをかじったようだが――


(まあ、この位ならいいだろう……)


 えらいぞ――と言って皆をめておく。同時に「誰だ、パンをかじったのは?」と問うと、クスクスと笑い声がれた。


 仕方のない連中である。


「ニャー♪」


 とミヒル。「ご主人、頑張ったニャ!」と俺の足に抱き着いてきたので、頭をでると満足そうな表情を浮かべた。


 フンスッ!――とミヒル。満足そうに胸を張る。

 一方でイスカは食事の準備をしていた。


 聞き耳は立てていたのだろうが、俺は彼女に声を掛けた後、案山子かかしを回収する。

 まだまだ、数がりない。


(仕掛けるのは、もう少し数がそろってからか……)


 今夜か明日の夜には襲撃しゅうげきがあるだろう。

 その後にダークウルフが通りそうな場所へ仕掛ける事にする。


 ある程度、数がそろってからの方が『効果がある』とんだ。

 収穫作業が終わったのか、若手文官もやってくる。


 昨日も、この位の時間に戻ってきていたのだろう。

 子供たちの案山子かかし作りを監視していた俺は、切りのいい所で手を止めさせた。


 若手文官から状況を確認する。

 収穫作業の方は、特に問題なく終わったようだ。


 今は木材が不足している事の方が気になるらしい。

 竹で誤魔化してはいるが、やはり木を使った方がいいモノもある。


 俺が大量に作ってもいいのだが、建築などの材料となると問題があった。

 『豊穣ほうじょうの杖』で育てると年輪が出来ないのだ。


 年輪がないと、木材の強度が下がる。本来は山岳地帯から輸入していたのだが、魔物モンスター騒ぎで町や村から人が居なくなってしまった。


蜥蜴人リザードマンたちに頼むか……)


 どの道、彼らとの交流のタイミングを考えていた所だ。

 協力して事に当たった方がいいだろう。


 俺が居なくなった後も、交易を続けた方が、お互いに利点もある。

 若手文官へ、その事を相談した。


 砂漠の盗賊として活動していたようなので、討伐対象にされていては困る。

 また、宗教も違うので対立も起こるだろう。


 王族や商人の方に対処してもらった方がいい。蜥蜴人リザードマンたちに仕事を与えれば、盗賊稼業に戻ることもないので、悪い話ではないハズだ。


 本来の若手文官の仕事でもあったのだろう。


「そういう事なら、お任せください!」


 と珍しく張り切っていた。

 俺は子供たちと昼食をとった後、再び都市の外へと出掛ける。


 子供たちに案山子かかし作りの続きをお願いしたい所だが、流石さすがに同じ事を一日中させていてはきてしまう。


 続きは、明日以降にした方が良さそうだ。

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