第118話 社畜戦士(2)


 早速――老戦士から預かった――兵士たちに準備のための別行動をとらせる。

 俺は一足早く、都市の外へと向かった。


 敵が来るのは『オルガラント』のある南西の方角だろう。

 つまり、防衛を強化するのは都市の正面(南)と側面(西)になる。


 今日の作物の収穫は、都市をはさんだ反対側(東)で行われていた。

 作物を植える順番を最後にしたのは、襲撃の可能性が一番低いためだ。


 本来なら――巨大スライムと巨大サンドワームという――災害級の魔物モンスターが同時に攻めてきたのだろう。だが、その心配は要らない。


 魔物モンスター除けの効果がないため、魔物モンスター対策の意図で植えたワケではないが、竹が役に立ってくれそうだ。


 ダークウルフに対しては意味がないかもしれないが、身体からだの大きなジャイアントスコーピオンの侵攻を妨害できる。


 竹はすでに植えてあるため、熱砂に対しても、ある程度はさえぎってくれるハズだ。

 日本では厄介者としてあつかわれることもある竹だが――


異世界ここでは、予想以上の働きをしてくれる……)


 俺はキングスライムを1体作り出し〈ウォーターボール〉を使って誘導するとスライム粘土を製造する。


「いやー、流石さすがはマスター!」


 と指輪に封じ込めているナトゥムが声を上げた。

 周囲に誰も居ないので、話し掛けてきたようだ。


めてもなにも出ないぞ」


 と俺は淡々とした口調で返す。

 解放すると敵に回る可能性が高いため、身柄みがらを確保しているだけだ。


 傭兵としてやとうのは『敵に回らないため』という理由に似ている。


「いやいや、都市を壊滅させたスライムをこんな風に活用するとは……」


 流石さすがです!――と調子の良い事を言い出す。

 学習したのか、話し方も流暢りゅうちょうになっているようだ。


ですからね♪」


 ムフンッ!――と鼻息を荒く、得意気に胸を張るエーテリア。

 どこで張り合っているのやら――


(面倒なので、会話に入ってこないで欲しい……)


「ええ、ええ、素直におどろいていますよ……」


 いますとも!――とナトゥム。

 身体からだはないが、コクコクとうなずき、感心しているようだ。


 サンドワームにより作り出した砂を逆に活用してしまう発想力。蜥蜴人リザードマンたちを苦しめるハズだった植物も、人間たちの力に変えてしまう応用力。


 さらには砂漠の民を恐怖ではなく、信頼関係をきずくことで動かしている。

 ――そんな事を言った後、


「どれもワレには真似まねできません!」


 とナトゥム。素直に感心しているようだが、一つ勘違いをしている。


「これは俺の能力ではない……」


 ビジネスだ――と俺は答える。不要と思えるモノから信頼と金を生み出す。

 発想や視点を変えることで、新たな価値を創造する。


 誰もが持っている労働の力だ。


「それが社畜ちからです!」


 生命体が持つ精神エネルギーの一種です――とエーテリア。

 その設定、まだ生きていたようだ。


うの昔に忘れたモノだと思っていたのだが……)


「日本人は強い社畜ちからを持っています! よって『社畜ロード』を通り……」


 多くの日本人が異世界へと召喚されました――とエーテリアは語り出す。

 そんな設定だったとは初耳だ。


「やはりマスターは、あの伝説の『社畜戦士バトラー』……」


 異世界へと転移・転生するチート能力者!――とナトゥム。

 驚愕きょうがくしたような台詞セリフく。


 つらい仕事でも文句も言わずに『長時間労働』『低賃金』『必要以上の責任』で働くのは、日本人なら普通の事だ。


 スタグフレーションこそ、日本の誇る文化である。


(この指輪、さっさと捨ててしまおうか……)


 俺がそんな事を考えていると、準備を終わらせた兵士たちがやってきた。

 エーテリアとナトゥムは、うんともすんとも言わなくなる。


 俺は兵士たちに手本を見せるのと同時に、スライムへは近づき過ぎないように警告した。粘液を飛ばしてくる可能性も十分にある。


 砂を掛ければ小さくなるので、スライムの大きさを調整するようにも伝えた。

 金属以外は溶かすため、エサは植物だ。


 次に運搬班。彼らには竹やワラの収穫とスライム粘土の運搬を頼む。

 竹や藁はスライムのえさにもなるので、スライムの進行方向へ置くように伝えた。


 水と食糧の調達は補給班だ。あまり活躍の場はないだろうが、全員で動いてしまうと不測の事態が起きた際、対応できない。


 交代要員兼救護班の役割も兼ねてもらう。

 気力は回復したようだが、体力はまだ回復していないハズだ。


 兵士たちは我慢するよう訓練されているのだろうから、無理をして倒れる可能性が高い。そういった意味では補給班は全体のリズムを取るのが役目でもある。


 俺はもう1体のキングスライムを作り出すと、作業班へとあずけ、別行動をとった。

 技能スキル地図マップを見ながらジャトロファを植えて行く。


 種子は含油率が高い。そのためバイオ燃料として注目される植物だ。

 だが、今回の目的はそれではない。


 ジャトロファは乾燥や塩害に強く、非耕作地(荒れた土地)でも栽培できる。

 また、種子には毒を含むため、家畜に食べられることがない。


 牧柵としても使われるそうだ。

 今回は窪地くぼちへ人が落ちないように、柵の代わりとして使用する。


 折角せっかく窪地くぼちを作っても地面が砂のため、崩れてしまっては意味がない。

 砂を土に変え、土台を固める意味もあった。

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