第117話 社畜戦士(1)


 一夜明け、再び作業に取り掛かる。

 俺はミヒルと一緒に、作物を繁殖はんしょくさせた。


 これで都市を取り囲むように、四方へ作物を植える作業が完了した事になる。

 熱砂の風をさえぎるので、だいぶ人が暮らしやすくなるだろう。


 その間、大男たちには都市を囲む作物に水遣みずやりを頼んだ。

 終わったのなら、昨日の作業の続きとなる。


 若手文官には今、俺たちが植えた作物の収穫作業――その監督かんとく――をさせる。

 細かい管理作業の方が、彼には向いているようだ。


 続いて竹を増殖させなければならないのだが、大男たちの頑張りで正面側の作業は終わりつつある。


 都市の正面側に植えた竹を増殖させつつ、今度は側面に竹を植え、繁殖はんしょくさせた。

 後は同じように、側面にも窪地くぼちを作ってもらう必要がある。


(時間的に、この辺りが限界だな……)


 魔物モンスターが攻めて来る可能性が高いので、今後は都市の内側での作業が基本となるだろう。援軍はないが、俺が居れば水と食糧には困らない。


 籠城ろうじょう戦でも、早々に士気が下がる事はないハズだ。スライム粘土の生産性が上がったので、都市を取り囲む城壁の建築速度スピードも向上している。


 昨日、作っておいた日干し煉瓦レンガかわいたらしく、物見台がそれらしい形になってきた。


 〈スカイウォーク〉で上昇し、周囲に魔物モンスターが居ないことを確認すると、俺は一旦、都市へ戻る。新しい作業を開始するためだ。


 上空から見ると良く分かるのだが、イスカたちと暮らしている区画エリアも形状を変えつつあった。


 老戦士が全体の指示をっているため、本部を中央の区画へと移したためだ。

 また、城壁を造っているので若い連中が、そちらの作業を手伝っている。


 人が動いたことで、幕舎テントの配置も変わったらしい。


「あら、ユイトくん……どうしました?」


 とイスカ。午前中の内に俺が戻ってきたので、おどろいたようだ。

 今日は子供たちに頼みたいことがある。俺が簡単に説明すると、


「それで、あんなに沢山のパンが……」


 山のように積まれたパンへ、イスカが視線を向けた。計画自体は以前からあったのだが、優先順位が低かったため、実行に移すのが遅れたのだ。


 俺は細い竹を植え、増殖させると、案山子かかし作りをお願いする。

 竹で十字の骨組みを作り、そこに複数のパンを刺す。


 子供でも出来る簡単な作業だ。

 後は竹やワラんだモノを、帽子や衣服のように身に着けさせればいい。


 遠目には人の姿に映るだろう。

 追加でパンが届くハズなので、出来るだけ多く作ってもらうように頼んだ。


 ミヒルも置いてゆく。俺はしっかり働くように言いつけた。


「分かったニャ♪ ご主人!」


 とミヒル。大人たちにまぎれて作業をするよりも、子供たちと一緒に作業をした方がいいだろう。


 俺は昼になったら戻るむねを伝えて、居住区画エリアへと移動した。

 ここには薬草や香草ハーブの他に香辛料となる植物も植えている。


 怪我人や病人を治療したので、俺に対しては住人も好意的だ。

 俺は『豊穣ほうじょうの杖』を使って香辛料を増殖させると収穫を頼む。


 主に胡椒こしょうを作ったので、乾燥させておく。

 これらをくだいて粉末状にしたのなら、小袋に分けてもらうよう指示を出した。


「構いませんが、なにに使うのですか?」


 と代表の男がたずねてきたので、


「これを魔物モンスターに投げつける」


 俺は素直に答えた。敵はダークウルフだ。

 闇にまぎれて姿を消し、奇襲きしゅうを仕掛けてくるだろう。


 普通の人間には、姿を目視で探すのは不可能だ。

 そこで胡椒爆弾の出番となる。香辛料により、その嗅覚をつぶす。


「なるほど!」


 と代表の男はうなずいた。俺は武器屋のオヤジに作ってもらった――スリングショットの付いた――籠手こてを見せる。


 城壁の上から、これで小袋を飛ばせば、誰でも安全にダークウルフを撃退げきたいできるというワケだ。


「早速、作りましょう!」


 代表の男は住人たちを集めてくれた。


(老戦士に伝えて、後で城壁の守備隊に配備させよう……)


 だが、俺は老戦士のもとへ向かう前に、生産区画エリアへと向かう。

 案山子かかしの材料となるパン。それを作るための素材の提供だ。


 念のため、まきとなるオークも植え、生産体制を強化した。

 悪いが敵は動き出している。今日と明日が正念場だろう。


 子供たちが案山子かかし作りをしている事を伝え、手が空いたのなら手伝ってもらうように頼む。食糧にも余裕が出てきたので――小麦のパンも――そこまで必要ではない。


 俺は老戦士のもとへと向かうと、夜の防衛体制の強化をお願いした。

 暗闇に乗じて、ダークウルフの威力偵察が来る可能性が高い。


 迎撃手段も伝えておく。篝火かがりび松明たいまつの準備も必要になるだろう。

 問題は城壁の完成が間に合うかだ。老戦士は俺に兵士たちを貸してくれるという。


 どうやら『スライム粘土の生産を急いでくれ』という事のようだ。

 俺は兵士たちを補給、運搬、作業のグループに分ける。


 補給班の仕事は水と食糧の運搬だ。また、本部との連絡係でもある。

 人数は少なくてもいいので、足の速い者を選ぶ。


 次に作業班だ。スライムを使って粘土を作るのが仕事となる。

 一番長い時間、都市の外にいるため、危険を伴う。


 それなりの経験と判断力の高い者にお願いした。

 残りは運搬班となる。


 スライム粘土と収穫した竹を都市へ運ばなければならない。

 体力を必要とする仕事だ。

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