第116話 動き出した軍勢(2)


 若手文官を神殿へと向かわせ、俺は産業区画エリアを再びおとずれる。

 先程とは違い、今回は家具職人たちが集まっている場所だ。


 丁度、武器屋のオヤジが出てきた。

 造った武器を荷車に積み込んでいる所のようだ。


 これからカムディと一緒に運ぶらしい。俺も手伝うことにする。

 竹で作れるモノは、試験的にここで開発しているそうだ。


 職人同士、互いに切磋せっさ琢磨たくまする形式なのだろう。

 竹槍もあるようだが、主力の武器は弓らしく、大量の矢が積んである。


 やはり魔物モンスター相手の場合、竹槍では強度が不足するようだ。

 あつかう人間のレベルが低いことも影響していると考えられる。


(やはり【根源】が失われている事の影響は大きい……)


 竹槍として使うよりも、とがった竹を並べて、罠として使用した方がいいのかもしれない。


 もしくは練習用だろうか? そういった意味でなら竹刀しないが有名だ。

 殺傷能力は低い。だが、そこが重要になってくる。


 剣術の場合、真剣での練習は勿論もちろん、木刀での試合すら危険だ。

 下手をすると打ち合いで死ぬこともある。


 竹刀しないを使うようになったことで、その可能性は格段に減った。

 結果、江戸時代の日本では剣術ブームが起きていたようだ。


 武士だけでなく、町人や農民も剣術の腕をみがいたらしい。


(今の日本で言うのなら、ベンチャービジネスだろうか?)


 試行しこう錯誤さくごと改良を重ね、竹刀と防具が完成したようだが、これによって実践的な訓練が出来るようになった。


 剣術は飛躍的な発展をげたと聞く。

 もし、今の日本で帯刀を許されていたのなら――


(『〇〇流』などと名刺に書いて置きたい気もする……)


 営業の際にネタで使えるかもしれない。それとも野球チームみたく派閥が出来上がり、ビジネスの場所では禁忌タブーとされる可能性もある。


 電車では刀の置忘れがありそうなので、指紋認証と音声入力で抜刀だろうか?


(ドローンで刀を届けるサービスもありそうだな……)


 武器屋のオヤジたちが向かった先は、都市の外周近くにある訓練場のようで、そこには青年狩人と女剣士がいた。青年狩人の方は弓を教えているらしい。


 こちらは経験者が多いのか、練度れんどもソコソコのようだ。

 弓を持った男たちは疲れてはいるようだが、まだ余裕のある感じがした。


 一方で女剣士が教えていたとおぼしき男たちは、息を切らせて地面に寝転がっている。全員歩兵だが、陸上部のような訓練を行ったらしい。


 武器や防具を身に着けたまま、その辺の走り込みを行ったようだ。

 確かに現状では、魔物モンスター相手に戦っても死者や怪我人が増えるだけだろう。


 体力を付けたり、集団での動きをおぎなう訓練の方が効果的だろう。

 俺は二人に調子のほどを聞く。


 実戦で使えるかは微妙びみょうなようだ。

 やはり、城壁を早く完成させた方がいいらしい。


 カムディたちと別れ、俺は城壁の作業場へと向かう。

 丁度、休憩に入ったようで、思い思いに昼食をとっている所だった。


 何人なんにんか顔見知りの職人を見付けたので、声を掛けてみる。

 取りえずは順調なようだ。


 午前中に資材をそろえたので「気にせず作業に没頭ぼっとうできるのは助かる」と言っていた。逆に言えば、資材をそろえないと――


(完成しないという事か……)


 陽がかたむくまでは気温が高いため、休憩するとして、今日は陽が沈むまで作業を進めた方がいいかもしれない。


 生憎あいにく、燃やすモノもあるので明りには困らない。

 夜でも作業は出来そうだ。予定よりも早いが、俺は神殿へと向かう。


 神殿長に都市の防衛について、進捗状況を報告した後、頼まれていた塩を渡す。

 また、水の補充も忘れない。


 保管しておける食糧については、まだ余裕があるらしい。

 一先ひとまず、俺も休憩することにした。


 MPを回復させるために歩いても良かったのだが、外は炎天下だ。エーテリアに心配を掛けてもいけないので、一旦ミヒルたちのもとへと戻ることにする。


 仮眠をとった後、ミヒルを連れて再び街の外へと向かう。

 午前中と同じ作業を行いつつ、MP回復のため、偵察ていさつも兼ねて周辺を歩いてきた。


 ジャイアントスコーピオンを見付けたので、これを撃退。

 想定していたよりも魔物モンスター襲撃しゅうげきが少ないのは良い事なのだろう。


(だが、嫌な予感がする……)


 俺とミヒルは、いつもより遅めの夕飯を済ませる。

 今日はミヒルも疲れたようで、気が付くと眠っていた。


 住民たちも寝ているようだったが、城壁を造っている職人たちは、もう少し作業を続けるようだ。


 今まではれる事が限られていた。

 そのため、手を動かせる今が楽しいのだろう。


 城壁が早く完成することは、俺にとっても有難ありがたい。

 放って置いても問題はなさそうだ。


 いつものようにミヒルをイスカへ預けると、俺は武器職人であるオヤジのもとへ向かう。理由を話して、いくつか試作段階の武器をもらった。


 そして『竜のかご』へと移動する。

 やはり悪い予感というのは当たるようだ。


 『オルガラント』の魔物モンスターたちに動きがあったらしい。

 今までは街中や、その周辺を自由に歩き回っていた。


 だが突然、都市の正門へと一斉に集まり始めたようだ。

 全速力で移動したのなら『アレナリース』へは3日ほど掛かるだろう。


 だが、それでは魔物モンスターたちの体力が持たない。

 到着には5日後を想定しておけば良さそうだ。


 蜥蜴人リザードマンたちには引き揚げさせ、明日に別件を頼むことにした。

 今日は食糧が少なめだが、その代わり頼まれた竹製の武器を持ってきている。


 性能はそれほど高くはないが、軽くて丈夫なため「槍の訓練に丁度いい!」と好評なようだ。


(後で武器屋のオヤジに報告しないとな……)


 ダークウルフの何頭なんとうかが、都市に威力偵察を行う可能性が高い。

 仕掛けるなら、闇にまぎれることの出来る夜だろう。


 明日か明後日の夜には、気を付けなければならない。

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