第115話 動き出した軍勢(1)


 昼になったので、作業は一旦中止だ。

 食事をとって昼寝をした後、夕方頃の作業へと切り替える。


 思ったよりも作業が進んだこともあるが、午後の作業は危険だ。

 涼しい場所で休んでいた方がいいだろう。


 俺はキングスライムに砂を掛け、干乾ひからびさせておく。

 再利用するので、コアは回収する。


 子供がサッカーをするには『丁度いい大きさ』といった所だろうか?

 ゾロゾロと男達が都市へと戻る中、俺は上空へと駆け上がった。


 空から周辺の様子を確認するためだ。

 魔物モンスターを警戒するに越したことはない。


 ミヒルにも聞いてみたが、魔物モンスターが出現する気配はないようだ。


(昨日のデザートイーグルは、たまたま出現しただけか……)


 俺はミヒルを連れて、そのまま寝所としている馬車へと戻った。

 そこで若手文官とも合流する。俺が戻ってくるのを待っていたようだ。


 イスカが子供たちに食事を用意していたので、俺たちも一緒にご馳走ちそうになる。

 パンがある事で、食事のバランスも安定したらしい。


 いつもだったら物足りなさそうにしていた子供たちだが、すぐにお腹がいっぱいになったようだ。これから昼寝だというので、ミヒルをイスカへとあずける。


 俺は若手文官を連れ、街の様子を見に出掛けることにした。

 まずはパン作りだ。


 都市の四隅に配置されていた貧民区画は改装工事中で、物見台を建設しつつ、城壁作りにも着工していた。


 戦場になる可能性が高いため、住んでいた人々は中央の方へ移動したようだ。

 俺は指揮をっているとおぼしき戦士へたずねる。


 老戦士と一緒に居るところを何度なんどか見たことある。

 向こうも俺を知っているようで、移動先を教えてくれた。


 どうやら、産業区画エリアへと移ったらしい。

 若手文官に案内してもらい、俺が産業区画エリアへ向かうと人集ひとだかりが見えた。


 ちょっとしたパン工場になっているらしい。

 パンの焼けるいいにおいが、そこかしこからただよってくる。


 俺の姿を目にすると、何人なんにんかが集まってきた。

 最初の頃とは違い、みんな目が生き生きとしている。


いそがしいところ悪い」


 と俺が謝ると「そんなことはありません」そう言ってみな一様いちように首を横へ振る。

 どうやら、仕事が見付かって嬉しいようだ。


 必要なモノはないか? 困った事はないか?

 俺が質問すると、やはりまきと材料が足りないらしい。


 少なくとも『魔物が攻めてくるスタンピード』までに、保存の利く食料は確保しておきたい。

 パンに関しては別の用途も考えてある。


 まずはいつものようにブドウなどの植物を植える。

 ある意味、砂が土に変わるので、そちらの方も有難ありがたがられているようだ。


 次にスライム粘土の作成時に収穫した麦を渡す。

 それから、塩と水だ。


(後はまきだったな……)


 確かに竹だとすぐに燃えつきてしまうだろう。基本的に日本では、まきとして使うのは広葉樹(ナラ、クヌギ、カシなど)のイメージだ。


 梅吉が「サッカーやろう」みたいなノリで「ピザを作りたい」と言い出した時、ナラのまき何処どこからか持って来たのを思い出した。


 強く燃えるわりけむりが少ないらしい。

 その時、梅吉は偉そうなことを言っていたが、後で薪割をやらされていた。


 きっと、ぬすんだのがバレたのだろう。

 冬はスキー場だが、夏はキャンプ場として活用している場所がある。


 積んであるまきをくすねたようだ。


(手持ちの植物にオーク(ナラ)とクルミがあったな……)


 火付けには針葉樹(ヒノキ、マツ、スギなど)が適しているのだが、今回は必要なさそうだ。砂漠なので十分に乾燥している。


 竹でも十分だろう。取りえず、オークを成長させると技能スキル〈キャリーウォーク〉の効果で引っこ抜いた。


 十本もあればいいだろうか? 後は『豊穣ほうじょうの杖』で乾燥させる。

 悪いが薪にする作業は住民たちへ頼んだ。


 また、今後の展望も聞いておく事にする。『魔物の襲撃スタンピード』が終わった際、この街に残るのか、住んでいた場所に戻るのか、考えておく必要がある。


 故郷はもうないので、この街で暮らしてゆくつもりのようだ。今は神殿を倉庫代わりにしているが、安定して生産できるようになれば、倉庫を作る予定らしい。


 そういう事なら、出来る限りの支援をしようと思う。

 だが今は俺の頼んだ通り、パンの生産を続けてもらうようにお願いした。


 空いている場所にブドウやタマネギ、アボカドを植えた他、虫除けに香草ハーブも植える。パン自体は余っているそうだが、乾燥させれば保存も利く。


(十分な量が出来たのなら、次の段階に移っても良さそうだな……)


 明日はパンを多めに持ってきてくれるように頼んでおく。

 次に俺たちは居住区画エリアへと移動した。


 元々、この都市に住んでいる人々が集まっている区画だ。

 怪我人や病人の治療が終わったので、薬草や香草ハーブなどを育ててもらっている。


 今朝、ミミズを入手したのでコンポストの作製を頼んでみた。

 『野菜くず』や『果物』『卵の殻』などを入れるといいだろう。


 ただし『柑橘類』や『タマネギ』『ニンニク』なんかを入れるのは禁止だ。

 ミミズが苦手なためである。


 他にも『香辛料』はNG、『肉』や『油』の類も別の虫がってくるので禁止にしておく。


(これで土壌が改良できるといいのだが……)


 俺はミミズの入った残りのツボを若手文官へと渡す。

 虫系は苦手なのか、すごく嫌そうな顔をしていたが仕方がない。


 神殿にも同様のコンポストを作るように指示を出しておく。

 まあ、苦手なら別の人間に作業の指示を出せばいいだろう。


 そんな俺の台詞セリフに「そ、そうですね」と若手文官。

 土いじりは苦手なようだ。


(『城壁』の進捗具合も確認しなければいけない……)

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