第114話 防衛準備(2)


(もう少し、増やしておいた方がいいだろうか?)


 俺が『豊穣ほうじょうの杖』の力で竹を増殖させていると、


「お待たせしましたーっ!」


 大きく手を振りながら、大男の仲間たちがやってくる。

 荷車を数人がかりで押していた。


 竹を切るためのノコギリや、枝葉を落とすためのナタ

 砂をるためのスコップなどを持ってきたようだ。


 職人も何人なんにんか付いて来たようで、資材も積まれている。

 俺の方も準備が終わったので、まずは竹の採取をお願いした。


 切った竹は後で真っ直ぐに加工するので「並べて置いてくれればいい」と伝えておく。


(次は穴掘りか……)


 砂に埋もれる前の街の地図は先日入手している。

 なるべく、建物がない場所を掘る予定だ。


 2、3メートルは砂に埋もれているようなので、深く掘っても大丈夫だろう。

 落とし穴ではないので『適当てきとうに掘ればいい』というワケでもない。


 都市に住む人間たちが安全に使える通路も残しておく。

 まずは都市の正面に対して、真ん中を通路として残し、右側と左側を掘ってみる。


 一旦、ミヒルには離れてもらい、俺はスコップで勢いよく砂を掘った。

 〈キャリーウォーク〉の効果だろう。ほぼ、重さを感じない。


 掘った砂は勝手に前方へと飛んで行ってしまうので、ちょっとしたコツがいるようだ。問題は掘ったそばから、砂が穴へと流れ込んでくることだろうか?


 深く掘っても、すぐに砂でふさがってしまいそうだ。

 仕方なく、俺は遣り方を変える。


 スライムを3匹ほど合体させ、巨大化させてから魔結晶を一つ放り込む。

 すると光を放ちつつ、ブクブクと泡を立てるようにふくれ上がった。


 家を飲み込める程の大きさはある。

 ラージスライムからキングスライムへ進化した――といった所だろう。


 俺は砂を掛けつつ〈ウォーターボール〉を放つ。

 また竹を植え、増殖させると直接、スライムへと与えた。


(まるでデカいナメクジを相手にしているようだが……)


 スライムは巨体を維持したまま、ゆっくりと俺の方へと移動してくる。

 地面にある砂は粘液と融合して、粘土になっているようだ。


 このままトラクターとして活用することにしよう。キングスライムが通った後には『大量のスライム粘土が製造される』というワケだ。


 近づくのは危険だが、一定の距離を保つ必要がある。

 水分がなくなっても干乾ひからびてしまうので、注意しなければならない。


 スライム自身も本能で理解しているのか、食いつきがいいのは〈ウォーターボール〉の魔法だ。竹は進路上にあるから、吸収しているだけなのだろう。


 大男は俺の意図を理解したらしく、何人なんにんかに声を掛け、出来上がったスライム粘土を回収させる。職人は集めた粘土を確認すると、指示を出し始めた。


 どうやら、この場で粘土を作成するらしい。

 型に入れて、日干し煉瓦レンガを作るようだ。


 確かに、街中では場所が限られている。

 ここで作ってから、運んだ方が効率がいいのだろう。


 俺は『つなぎ』に使うワラを準備するため、麦をいて成長させる。

 スライムを誘導しつつ、麦を収穫するように指示を出す。


 予定とは異なったが、臨機応変に対応すべきだろう。

 キングスライムを誘導しつつ、大量のスライム粘土を作ることに成功した。


 思ったよりもMPを消費してしまったが仕方ない。

 スライムは砂の上だと上手うまく動けないようなので、適当な場所に放置しておく。


 収穫した竹の『油抜き』を行い、使えない竹はスライムの進行方向へと集めさせる。小麦も収穫したようなので『豊穣ほうじょうの杖』を使い、らしてわらを作った。


 後は職人の指示で、日干し煉瓦レンガを作成するようだ。

 簡単なのか、ミヒルも手伝っている。


 俺は再び、竹を増殖させると、大男たちへ休憩きゅうけいするよう指示を出す。

 今、増殖した竹は収穫するよりも、砂除けとしての意味が強い。


 流石さすがに炎天下の中での作業は大変だ。

 ナツメヤシを成長させ、俺は日陰を作った。


 実を食べてもいいが、糖質過多になるので1日3~5個までだった気がする。

 ほどほどにするように告げた後、俺は竹を数本担いで、空へと移動した。


 竹を槍のように投げ、目測で地面に突き立ててゆく。地上にいるとぐに歩いているつもりが、どうにも曲がってしまうので、穴を掘る場所に目印を作った。


(もう少し時間が掛るかも――と思ったが……)


 この調子なら、今日中には形になりそうだ。

 上空から見てみると、想像していたよりも作業が進んでいる。


 思い付きで始めたトラクタースライム作戦だったが、効率がいいようだ。

 街の方を見ると『物見台』と『城壁』を作る作業が進んでいた。


 この調子なら2、3日もあれば完成しそうだ。


(まあ、そのためには材料が必要か……)


 水を使えばスライムは誘導できるようなので、そちらは大男の仲間たちに任せる。

 俺は収穫した竹の加工と、麦の生産を重点的に行う。


 気が付くと人が増えていた。

 資材となる竹とワラ、スライム粘土を受け取りにきたらしい。


(これはもう少し、作業速度スピードを上げた方が良さそうだな……)


 俺は大男と相談してキングスライムをもう1体作り出すことにした。

 想定していた穴だが、これならもう1つ作れそうである。

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