第113話 防衛準備(1)


 都市の周辺に竹を植えたので、風で飛ばされてくる砂がさえぎられているようだ。

 いつもより、空が青く見える気がする。


 熱砂が街へと飛んでこないのなら、昨日よりも涼しくなるかもしれない。


(砂漠に植物を植えるのは、有用なようだな……)


 まだ気温の上がらない朝の内に、大男たちへは作物に水をあげるよう頼んだが、それなりの面積だ。人力で行うのは、俺が想定していたよりも手間だったらしい。


 大男の指示で二手に分かれて水をいていたようだが、それなりに時間が掛かっていた。都市の背面へ新しく作物を植え、街の正面側へと俺が戻ってくると、


「遅くなってすまない」


 と大男に謝られてしまう。別に謝る必要はないのだが、俺の作業の速度スピードが速いため、自分たちが遅いと思っているようだ。


 彼らの予定では、今の時間は収穫作業を行っている手筈てはずだったのだろう。

 俺は「気にするな」と告げ、パンパンと手をたたき、皆の気分を切り替えさせた。


 今日、頼みたい作業は作物の収穫に加えて、スライム粘土の製造がある。

 まずは収穫を行うグループと粘土を作るグループに別れてもらう。


 収穫を行うグループには、午後から『城壁』を建築する作業の方を手伝いに行ってもらうようにお願いする。


 一方でスライム粘土の製造は、街から少し離れた場所で行う。

 そのため、移動することにした。


 魔物モンスターおそわれる危険があるため、戦闘能力のある連中を中心にメンバーを編成する。しかし、作業に取り掛かる前に趣旨しゅしを説明しなければならない。


 まずは竹に対する簡単な説明だ。竹は武器や建築の材料になる。

 そのため、優先して収穫するのだが、今回は枝や葉を使わない。


 スライムを成長させるためのエサとして使用する。昨日、あの場にいなかったので、大男たちは何故なぜ、スライムを使うのか理解していないようだ。


 質問はあるだろうが、取りえず、黙って聞くように指示を出す。


(まあ、見せた方が早いだろう……)


 俺は昨日と同じ手順でスライム粘土を作成した。

 これを固めて建材とするむねを伝えると納得してくれたらしい。


 だが、俺の目的はソレだけではない。穴をることだ。

 スライム粘土を作ることで砂を消費する。


 街の中にある砂を使ってもいいのだが、今回は『街の外にある砂』を使う。

 消費した分の砂は当然減る。


 つまりは壁を作るのと同時に穴が作成されるワケだ。

 遣りたい事は街の周辺に高低差を作って、魔物モンスターの侵入を防ぐ事になる。


 壁は単純に防御の役割だが、穴は敵の突進力をぐのが目的だ。

 魔物モンスターが大量に雪崩なだれ込んできた場合、壁の防御力では防ぎきれないだろう。


 そこで高低差を作る事で、その突進力の流れに緩急をつけ、壁に集中する力を分散させるのが目的である。


「なるほど!」


 と大男。ポンッと手を打つと、


「オレらが掘った穴が袋小路ふくろこうじになるのか⁉」


 そう言ってあごに手を当てると、ウンウンと大男はうなずく。

 理解してくれたようで良かった。


「また、魔物モンスターが穴をけることで動きに影響が出る」


 と俺は補足する。つまりは地形を利用した戦術だ。

 ただ砂を掘るよりも『その砂を更に利用する』というだけの話である。


 分かっている主な魔物モンスターの種類はダークウルフとジャイアントスコーピオンだ。

 恐らくは機動力のあるダークウルフの群れが、都市目掛けて突進してくるだろう。


(その前に闇夜にまぎれた奇襲きしゅうがあるかもしれないが……)


 少なくとも初撃で壁を破壊されるのは、防がなくてはならない。

 また、物見台も作るのでスライム粘土が大量に必要となる。


 ただ砂を使うのではなく『計画的に砂を使う』と考えてくれればいい。

 念のため、道具や水と食糧、簡易便所トイレもあった方がいいだろう。


 大男は準備のため、一度、仲間たちを解散させる。

 俺と大男は一足先に竹を植えてある場所へと向かった。


「確かに、物見台があった方がいいな」


 と大男。『気が付かなかった』というよりは『言っても無駄だろう』。

 そんな風に考えていたようだ。


 無理もない。資材も労働力も足りなかった。

 必要だとは分かっていても対処の仕様がない。


「これで作る事が出来れば良かったんだがな……」


 俺はそう言って『豊穣ほうじょうの杖』をにぎる。

 物見台の代わりに『ツリータワー』とでもいうべき、太くて高いぐな大木。


 また、幕舎テントの代わりに『ツリーハウス』を作ることが出来る樹木があれば良かったのかもしれない。


 しかし、ここは砂漠だ。砂地で巨大な樹木を植えても、すぐにれてしまう上、自重じじゅうで倒れる可能性が高い。


 棒を倒したら負けの『山崩し』なら、誰もが子供の頃にやった事はあるだろう。

 砂地では――ちょっとした事で――あっさりと倒れてしまう危険性があった。


(その場しのぎの『ツリータワー』や『ツリーハウス』は却下きゃっかだ……)


「どうにも、そこまでの能力はないらしい……」


 俺は『ニンジン』の種をくと『豊穣ほうじょうの杖』を使用した。

 ミヒルへ抜いてみるように指示をする。


 俺からスルリと降りて、ミヒルが引っこ抜いたソレは人型をした『ニンジン』だった。最初はおどろいたようだが、その変な形をミヒルは気に入ったようだ。


 ニャニャッ!――と俺に見せる。

 次はセクシーな形の『ダイコン』でも作ってみようか?


 面白い形の野菜は、異世界でも受けがいいようだ。

 俺はミヒルの頭をで『ニンジン』を預かる。


 戦力として『樹木騎士ツリーナイト』や『樹木竜ツリードラゴン』。

 それらを創造出来れば良かったのだが――


(ある程度、形を変える事は出来ても、動く植物を作るのはむずかしいみたいだな……)


 俺のレベルが低い所為せいもあるのだろう。

 どうやら【神器】を成長させる必要があるらしい。


 具体的には熟練度を上げつつ、希少素材レアアイテムを吸収させ、特定の条件を満たせばいいようだ。ただ、苦労して成長させたとしても、思った効果が得られるとは限らない。


(今は時間がないので、後回しだな……)

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