第112話 嵐の前の静けさ(2)


 『竜のかご』へと〈ワープ〉で移動した俺は、食糧を渡すと同時に状況を確認する。


 魔物モンスターに占領されてしまった都市『オルガラント』の様子は変わらないようだ。

 このままの状況が続くのなら、俺が乗り込む事も考えた方がいいだろう。


(まあ、そう簡単には行かないか……)


 嵐の前の静けさ――という言葉もある。今がその時なのだろう。

 俺が食糧を持ってきたため、蜥蜴人リザードマンたちにも余裕が出来たらしい。


 だが、油断は禁物きんもつだ。偵察に出ている彼らの仲間には、危険を感じたら、すぐにその場から撤退てったいするように指示を出して置く。


 また、状況によっては『アレナリース』への援軍を蜥蜴人リザードマンたちに頼む予定だ。

 砂漠において地走鳥ロックバードの機動力はかなりの武器となる。


 地図を確認して、経路ルートも照らし合わせておく。

 俺としても魔物モンスターに対して、罠を仕掛ける予定だ。


 助けに来てくれた彼らを巻き込んでしまっては元も子もない。

 大切な作業である。


 また、ミリアムに用意してもらっていた植物も受け取った。

 これでジャイアントスコーピオンへの対策も、どうにかなるだろう。


 もう少し話していたい所だが――


(俺が休まないと、エーテリアがまた変な事をしそうだ……)


 ビジネスでも一緒だが、世間話から拾える情報もある。

 だが、今日は必要な話だけにしぼった。


 少し多めに持ってきてしまったようで『食糧は減らしてもらっても構わない』という話だ。明日からは武器や香草ハーブ、薬草を持って来る約束をする。


 『人間族リーン』の街の様子に興味があるのだろう。

 ミリアムは名残なごりしそうにしていたが、俺はすぐに『アレナリース』へと戻った。


 とはいっても、今から休むワケではない。

 都市を囲むように植えた作物。


 残りの側面と背面に『結界草バリアリーフ』を植え、都市をおおう。

 これで明日から『城壁』を作る作業を、安全に進める事が出来るだろう。


 護衛につける事が出来る人数も限られている。

 足りない部分は『結界草バリアリーフ』でおぎなう必要があった。


 後はスライムを増殖させるためのエサであり、建築材料としての竹を街の外に植える。竹は地面の下でつながっているため、あっという間に増殖した。


 その分、かなり魔力を消費してしまったようだ。

 寝ても回復するのだろうが、今は習得した技能スキルのお陰で歩いた方が早く回復する。


 見回りを兼ね、エーテリアと一緒に月の砂漠を散歩することにした。

 怪我けが功名こうみょう――というヤツだろうか?


 なにやら、エーテリアが嬉しそうにしている。

 そういえば、街の作業がいそがしくて、今日はあまり相手をしていなかった。


(女神の機嫌がなおってくれたのは良かった……)


 翌朝、馬車に戻って休んでいた俺は、再びミヒルに起こされる。

 昨日と同様、便所トイレのようだ。


 まだ外は暗く、砂漠の朝は肌寒い。

 らされても困るので、俺は急いで便所トイレへと連れて行った。


 ミヒルもれたようなので、次からは補助がなくても大丈夫そうだ。

 ただ、子供が一人で出歩くには危険な気もする。


 太陽は、まだ登ってはいない。

 周囲は真っ暗だが、静寂せいじゃくというワケではなかった。


 食糧が行き渡ったおかげで、住民たちに活力が戻ったようだ。

 昨日よりも、外に出ている人の数が多い気がする。


 俺はイスカにミヒルをあずけると技能スキル〈ワープ〉を使って『リディエス』の街へと移動した。


 『塩』を取って来るのは勿論もちろんだが、居住区にある畑で野菜の採取をこころみる。

 根菜類や葉野菜を育ててから、持って帰ることにした。


 数匹だがミミズも採取する。

 そのため、少し時間は掛かってしまったが――


(まあ、問題ないだろう……)


 俺が『アレナリース』へ戻ったのは、太陽が顔を出し、空が明るくなった頃だ。

 なにやらにぎやかになっている。


 周囲を観察すると、皆でパンを食べていた。どうやら、貧民区画の連中が――俺が喜ぶと思って――パンを持って来てくれたらしい。


 安定したパンの製造に成功したようだ。

 俺の依頼した通り、パンの中にはオニオンやレーズン、アボカドが入っている。


(ちょっとしたパンブームが来るかもしれないな……)


 次は各区画エリア石窯いしがまを作ってもらい、パンの作り方を教えに行ってもらえないか、お願いしてみよう。そうなると貧民区画から移り住む理由にもなる。


 都市の改造計画の始まりだ。

 魔物モンスターの襲撃に備え、四隅には戦力を分散させておいた方がいいだろう。


 ミヒルの歯磨きと洗顔を終えると、俺はカムディをつかまえた。

 伝言を頼むためだ。


 昨夜、街の外に竹を植えたので――必要な材料はそこから持っていくように――職人たちへ伝えてもらうようにお願いする。


 気が付くと若手文官も来ていた。俺は作物を運搬するための手配を頼む。

 また、塩が手に入ったむねを神殿へ伝えてもらった。


 午前中は昨日と同じで、作物の生産を行う予定だ。

 ミヒルと一緒に街の外へと出掛ける。


 今日は大男たちが先に来ていた。

 最近は腹いっぱい食べているためか、最初の頃より血色がよくなっているようだ。


 今日は午後から別件を頼みたいむねを伝える。

 また、収穫作業の前に――街を囲むように植えた――作物への水きを頼んだ。


「おうっ! 任せてくれ」


 と大男。テキパキと仲間に指示を出す。

 収穫作業は水撒きが終わってからだ。


(今日は街の背面に作物を植えよう……)

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