第110話 機能材料(2)


 俺はイスカたちが戻ってきた時の事を考え、近くで遊んでいた子供たちにことづけを頼む。そして、貧民区画へと向かった。


「よし、行くか?」


 俺の問いに「ニャニャッ♪」とミヒルが元気良く反応する。

 取りえず『魔物の襲撃スタンピード』対策として、るべき作業は決まった。


 後は労働力の確保になるのだが、まずは砂漠を越えてきた連中の体力を回復させるのが先だろう。体力は気力にも影響する。


 そのためには、いつまでも果物ばかり食べさせているワケにもいかない。

 パンの出来できを確認することは重要な案件でもある。


 それに、この状況で楽しみといえば食事だろう。

 食料と水は手に入れたので、後は料理のレベルアップだ。


 栄養のバランスも考えなくてはならない。


(こういう時、参考にすべきは学校の給食だろうか?)


 昔の給食といえば、毎日のようにパンが出ていたそうだ。

 逆に今の時代、パンが給食に出る回数は激減しているらしい。


 地域にもよるのだろうが、週1回になってしまったようだ。

 令和の子供たちに「昭和の給食は毎日パン給食だった」と教えると「うらやましい!」と返ってくるらしい。


 俺の時代はご飯とパンが交互だったが――


(パンはそんなにいいモノではなかったハズだ……)


 たぶん現在のパンは美味しいのだろう。

 コンビニやスーパーのパンも美味しくなっている。


 街のパン屋さんのレベルも高い。

 小麦の品質に大きな差があるのだろうか?


 そういえば『セモリナ粉』や『全粒粉』なんて言葉は――


(最近になって、覚えた気がする……)


 昭和の給食のパンは味や香りがとぼしい印象だ。

 なによりパサついているため、牛乳がなければ飲み込むのも大変だった。


 ピーナッツバターやマーガリンが付いている日はラッキーといえる。

 苺ジャムやチョコクリーム、マーマレードが出た日は小躍こおどりしたい気分だ。


 計算して少しずつ使いながら、なんとか食べきっていた記憶はなつかしい。

 わば、僧侶の修行に近い気がする。


 今から考えるとパンなら『工場で一度に大量生産が可能』『軽いので、ご飯よりも配送が楽』みたいな理由だったに違いない。


 ご飯を主食とした給食は昭和51年(1976年)に始まったようだ。

 当然、小麦が余ったのだろう。


 パンに使う小麦を流用して「麺を作れないか?」と考えて作られたのが『ソフト麺』らしい。


 俺の通っていた北国の学校給食には出なかったが、東日本では人気メニューのようだ。逆に西日本では、提供されていない地域も多かった。


 『こなもん』文化があって『うどん県』も存在する。

 『博多うどん』や『長崎ちゃんぽん』など、九州の麺料理は挙げるとキリがない。


 小麦が余ることはなかったのだろう。


なにやら食べたくなってしまった……)


 当時の給食のパンは美味しくなったので――同じ小麦で作られたモノなら――俺もそっちが良かった。


 アレルギーや行き過ぎた完食指導もあったため、給食にはいい思い出がない。流石さすがにそんなのは昭和の時代だけかと思っていたが、今でも問題になっているようだ。


 給食を食べる事にすら、覚悟を必要とする――


(それが日本か……)


 そもそも昭和45年(1970年)の道路交通法で日本の歩道は自転車が走ってもいい事になっている。自転車が車道で車にかれる事故が多発したためだ。


 結果、日本の自転車事故は先進国最悪になったのだから笑うしかない。

 優生保護法が改正され、強制不妊手術を行っていたのも、その時代だろうか?


 氷河期世代が生まれた時代というのは――


なにやら混沌こんとんとしていたようだ……)


 まあ、就職した際も連日の『サービス残業』で終電帰りは当たり前。

 土日も『サービス出勤』。たまの休みは疲れ切って動けずに寝たきり状態。


 挙句あげくてに「若い時は勉強だ」「甘えるな」という上司の有難い言葉。

 女性は『女』という理由で面接を落とされていた。


 会社が利益を上げる方法も『非正社員を増やす事で正社員比率を下げ、人件費を抑える』という考え方が主流だ。


 そんな経験をした俺からすると、今の日本は『なるべくしてなった』としか言いようがない。


(せめて、この国は楽しく働ける国になって欲しいモノだ……)


 貧民区画へと着いた俺に気が付いたのか、住民たちは嬉しそうに集まってくる。

 神殿を目指して、砂漠を旅してきた連中なので信仰心は高い。


 昨日、食糧を提供し、怪我や病気を治したことも理由だが【神器】を手に入れた俺を歓迎してくれるらしい。


 約束した通り、かまが完成していた。

 丁度、パンを焼く実験をしていたようだ。


 なにやら、いいにおいがただよっている。

 だが、出来上がったソレは真っ黒で、お世辞にも美味おいしそうには見えない。


 ミヒルは食べたそうにしていたが、まだ火力の調整などが必要らしい。

 この後、何回なんかいか焼いてみるそうだ。


 俺は再び――小麦などの必要な植物の種をき――『豊穣ほうじょうの杖』を使用する。

 具合の悪くなった者がいないか確認したが、大丈夫なようだ。


 一応、水を補充した。次からは必要なモノがある場合は、神殿へ相談するように説明をする。俺は次の区画へと移動した。

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