第109話 機能材料(1)


 最初は職人たちに『さくや家具などを作ってもらえばいい』と考えていた。

 だが、砂漠にはデザートイーグルのような魔物モンスターもまだ残っている。


 今後の事を考えるのなら『都市を囲むかべ』を優先して作った方が良さそうだ。

 少なくとも警戒する対象を空にしぼることが出来るだろう。


 すべての魔物モンスターおびえて暮らすのは、精神的にも良くはない。


(確か『竹小舞たけこまい』といっただろうか?)


 まずは格子こうし状に竹を組む。

 『小舞こまい下地したじ』とも呼ばれる骨組みの作製だ。


 それに湿しめった土や粘土ねんどなどをって乾かす。

 あっという間に壁の出来上がりである。


 出来上がったモノは小舞壁と呼ばれ、構造的には鉄筋コンクリートと一緒だ。

 スライム粘土の大量生産が可能なら短時間で壁の建築が可能だろう。


 魔物モンスターの攻撃によって壊されてしまうだろうが『竹小舞』の状態が良ければ、再利用することも出来る。


 スライム粘土の弱点は『大量の水』となるが――


(ここは砂漠だ……)


 大雨が降る心配はまずない。

 少なくとも【終末の予言】にある魔物モンスターの襲撃までは大丈夫なハズだ。


 勿論もちろん、砂漠にも局地的な嵐やにわか雨、雷雨はある。

 極端きょくたんなモノで、降る時は1日で年間降雨量の半分以上の雨が降るそうだ。


 当然そんな雨が降れば、洪水となってしまう事もある。

 だが、その場合はどんな壁を作っても意味がないだろう。


 むしろ、壊して作り直すことを前提に考えた方がいい。

 再利用できる利点メリットがあり、すぐに作り直せる壁が砂漠の環境には適している。


 『つなぎ』にワラを使うことで、より強固に作れるハズだ。

 見た目は悪いが、現状ではソレが最善だろう。


 『豊穣ほうじょうの杖』を使用することで、竹の油と水分は飛ばせることが分かった。

 俺は残った職人たちを集め、状況を説明する。


 竹は軽さと丈夫さをあわせもった『天然の機能材料』だ。

 金属で例えるなら、軽量で強度が高いといえば『ジュラルミン』だろうか?


 他にも機能材料なら『水銀』の超伝導現象やびない鋼『ステンレス鋼』も有名だろう。


 竹は増えるため、簡単に加工する事も出来るので人海戦術とも相性がいい。

 日本人にとっては食材でもある。


 先程から竹をいじって相談していた職人たちも「面白い素材だ」と言っているので、気に入ったようだ。


 早速、竹を渡して作業に取り掛かってもらい所だが、基礎となる知識はあった方がいいだろう。


(俺も素人同然だが……)


 竹材を使ったリフォームやリノベーションの簡単な知識くらいならある。

 まずは『竹割り』についてだ。


 竹を割った性格――と言われるように、竹は割れ目を入れると繊維せんいに沿って勢いよく裂く事ができる。


 職人たちも、その性質については理解していたようだ。

 『竹割り』と『空洞』『節』についても把握はあくしていた。


(手間がはぶけて助かる……)


 俺は『み』『ヒゴ』についても説明する。

 竹ザルや竹カゴをむためには、竹ヒゴを作らなければならい。


 正直、これは見せた方が早い気がする。

 今は難しいので代用品を想像イメージしてもらった。


 『バスケット』や『カゴ』ならあるハズだ。

 素材でいうのなら『イネ』や『ナツメヤシ』を使っているのだろう。


 薄くした竹をむことで『バスケット』や『カゴ』を作れることを伝えた。

 まあ、今はあまり関係ないが――


(素材を理解した方が作る際に役立つだろう……)


 最後は『ぐ』『げ』『なおし』についてだ。

 『ヒゴ』を作るには当然、刃物で素材をぐ作業が必要になる。


 これも壁を作る際には必要なさそうだが、俺がいつまでも、この地にとどまるワケではない――


(役立ちそうな知識は伝えておいた方がいいだろう……)


 割った竹から均等な薄さの『竹ヒゴ』を作るのは職人技だ。

 厚さの調整には熟練の技術が必要になるため、今は機械を使うのが一般的だろう。


 次に『げ』だが、これは2通りの方法がある。

 火を使う方法と熱した金属の棒を押し当てる方法だ。


 つまり熱を使って竹を曲げる。ドライヤーを使ってもいいのだが――


(似たような道具が『この世界にあるのか?』は分からないしな……)


 後は『なおし』についてだ。

 竹も植物なので、真っ直ぐなモノはない。


 通常は『油抜き』の後、その熱を利用して竹の曲がりを一本一本矯正きょうせいして行く。

 理屈は『げ』と一緒だ。


 今回は『豊穣ほうじょうの杖』を使ってぐにしておいた。

 気が付くと、ちゃっかりカムディが戻ってきていて、俺の話を聞いている。


 どうやら、武器屋のオヤジに「聞いてこい」と言われたようだ。

 早速、役に立っているようでなによりである。


 折角せっかくなので、火をけると破裂する『爆竹』についても教えておく。

 魔物モンスターおどろかせるくらいは出来そうだ。


 後は職人たちの創意工夫に期待するとしよう。

 敵の主力はダークウルフとジャイアントスコーピオンだ。


 気休めかもしれないが――


(壁があるのとないとでは、安心の度合いが違うだろう……)


 今日の所は「持ち帰って、色々と試してみる」という事だったので、竹を渡して帰ってもらった。まあ、あの様子なら期待しても良さそうだ。


 後はパン作りをお願いしていた貧民区画の住人たちの様子を見に行くことにする。


「ニャッ♪」


 とミヒル。どうやら、ついてくる気のようだ。

 職人たちがけるのを待っていたようで、俺に飛び乗ってきた。


(そんなにしがみ付かなくても、逃げはしないのだが……)

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