第108話 スライム活用法(2)


 職人たちは「あーだ、こーだ」と言っている。

 少し時間が掛かりそうなので、俺はスライムのコアを取り出した。


 子供たちが以前、ボールの代わりにして遊んでいたモノと同じモノだ。

 昨夜、ミリアムのもとに出掛けた際に、干乾ひからびたコアいくつか用意してもらった。


 遺跡のような場所には、スライムがきやすいらしい。ダンジョンもそうだが、日光が届かず、暗くて湿度が一定に保たれている場所は要注意だそうだ。


コケが生える条件と似ているな……)


 案外、スライムを増やすのは簡単なのかもしれない。『リディエス』の神殿で災害級のディザスタースライム戦った俺としては、ゾッとする話である。


 俺は煉瓦レンガ作りの職人に声を掛け、近くに来てもらう。

 本来『日干し煉瓦レンガ』は、成型した粘土ねんどどろを天日で自然乾燥させて作ったモノだ。


 ただ、現状では粘土や泥を用意できない。

 そのため、砂にスライムの粘液を混ぜて、代用することにした。


 巨大スライムを倒した際、神殿がかわいた粘液ねんえきでカピカピになっていたのを思い出したからだ。


 干乾ひからびたスライムのコアに、以前『リディエス』の神殿で回収したスライムの粘液を掛ける。放って置けば元に戻るのだろが――


(時間が掛りそうだな……)


 俺は治癒魔法の〈ヒール〉でスライムを復活させた。

 プルプルとした見た目の小さなゼリー状の生物。


 成功したようだ。これが本来の姿なのだろう。

 だが、周囲が砂に囲まれている。そのため、動く事が出来ないようだ。


 砂に水分が染み込み、しぼんでゆく

 水を掛けてから竹をった際、ゴミになった竹の一部を吸収させる。


 スライムは少し大きくなったようだ。俺は手で砂を掛けた。

 すると砂に水分を取られちぢむ。


 なにやら小動物をいじめているみたいで気が引ける。

 だが『リディエス』の惨状を思い出すと、油断は出来ない。


(こんなに小さくても成長すると危険だ……)


 それに今回の目的は――スライムではなく――砂の方だ。スライムの出す粘液を吸収し、サラサラだった砂が粘土のようにネバネバになっている。


「これをかためて、煉瓦レンガを作りたい」


 と俺は職人に相談する。

 なるほどな!――と職人。ポンと手を打つ。


 彼の話によると、今はすたれてしまったが昔はスライムを使う方法で煉瓦レンガを作っていたらしい。


 『日干し煉瓦レンガ』については、地球でも古代から製造されてきた。少なくとも紀元前四〇〇〇年頃の古代メソポタミアでは、すでに存在していたようだ。


 粘土に『ワラ』や『小石』などを混ぜ、型抜きをしたモノを天日干しで乾燥させる。

 実に単純シンプルな方法だが、納期まで――ではなかった。


 魔物の襲撃スタンピードまでは時間がない。

 これが最も早く出来る方法だろう。


 コンクリートがあれば良かったのが、無いモノは無い。

 今回は異世界流をためしてみる。


「待っていろ」


 そう言って職人は居なくなった。どうやら、彼も乗り気のようだ。

 一方でミヒルは、興味深そうにスライムを見ている。


 まあ、こんなに小さいのが――


(神殿全体をおおくす程、巨大になるとは思えないのだろう……)


 危ないので、俺はミヒルへがるように忠告する。

 また、ここはオッサンばかりで、むさ苦しい。


 子供たちと遊んでいるように言うと――人混みが苦手なのか――素直に俺の言うことを聞く。俺は再び、スライムに水と竹を与え、大きくすると砂を掛けた。


 職人はすぐに戻ってきたようで、その手には木型を持っている。

 早速、試してくれるようだ。


 本来なら粘土で作るため、乾燥には2、3日掛かるのだろう。

 だが、今回はスライムの粘液が固まればいいので、1日放置すればいいようだ。


 問題なさそうな様子を確認し、すぐに量産体制に入ってくれると言ってくれた。

 やはり、都市の防衛力を気にしていたのだろう。


 俺は取り出したつぼにスライムを数匹入れると若手文官へ、それを運ぶように指示する。また、煉瓦レンガ職人は仲間へ声を掛けているようだ。


 スライムの増殖は勿論もちろん、物見台を都市の角に当たる位置に建設するため、設計図を描かせるつもりのようだ。


 俺は竹を成長させると「好きに持っていってくれ」と告げる。

 明日にでも大男たちを活用して、スライムの更なる量産体制を構築しよう。


 神殿へ物見台を作る許可も取らなければいけない。


いそがしくなりそうだ……)


 次に俺は武器屋のオヤジに話し掛ける。青年狩人も、いつの間にか合流していたようで、竹を使った弓の生産は問題ないようだ。


 後は弓をあつかえる人間を訓練する必要がある。

 大変だろうが、それも青年狩人にお願いした。


 食料が行き渡っているので「問題ないだろう」と青年狩人。

 配給作業で貧民区画に顔は売れている。


 狩りの経験がある者を集めるくらいなら、むずかしくはないようだ。

 物見台の建設に成功すれば、敵の早期発見と遠くへの攻撃が可能となる。


 現状『人間族リーン』は【根源】を封印されているため弱い。

 安全に効率よく戦うという意味でも、白兵戦の人員より弓兵をそろえる方が重要だ。


 一応、先程入手したデザートイーグルの素材と、以前ジャイアントスコーピオンから入手した『サソリの尻尾』を武器屋のオヤジに渡す。


 毒矢でも作る事が出来れば、有利になるだろう。

 久し振りの仕事なのか、武器屋のオヤジは楽しそうにしている。


 今回『自分は役に立たない』と判断したのか、カムディは武器屋を手伝う事にしたようだ。いや、子供用の弓でも作ってもらうつもりなのかもしれない。


(後は竹の加工か……)

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