第107話 スライム活用法(1)


 予定よりも少し早いが、俺は副職能サブクラスを【クラージ】に変更すると魔法による治療を始めた。


 昨日、貧民区画エリアでも同様のことを行ったので、うわさになっていたようだ。

 神官に作成してもらった一覧リストを頼りに治療して回っていると声を掛けられる。


 この区画エリアの代表のようだ。市長といった所だろうか?

 治療のための場所を提供してくれた。


 一覧リストによると重症患者はいないため、患者を連れて来てもらう事にする。

 俺は診察まがいの治療を開始した。まあ、俺は医者ではない。


 問診と技能スキルによるステータスの〈鑑定〉を行う程度だ。

 健康状態が良い――とは言えないが、貧民区画に比べると健康的といえる。


 彼らは砂漠をえてきたので、疲労がえていないのだろう。

 治療を済ませると同時に、困っている事などを聞く。


 最初は警戒されていると思っていたのだが――信仰心が高いためか――【神器】に選ばれた俺に協力的なようだ。


 最初は手伝う気、満々だったミヒルだが、る事がないため眠ってしまった。

 エーテリアが微笑ほほえんでいる。


 ミヒルの事は彼女に任せ、治療を続けることにした。

 ここが簡易治療所に指定されたようで、近くの区画エリアからも人が来ているようだ。


 一覧いちらんにあった患者の治療も終わったので、退散しようとすると代表から「お礼をしたい」と言われてしまう。


(さて、こういう時はどうしたモノか……)


 建物の中を見渡すと地図があったので「アレが欲しい」とお願いしてみる。

 街を防衛するために――砂にもれてしまう前の――街の様子を知りたかった。


 可能であれば、砂を取りのぞく予定であるむねを伝えると納得し、昔の街の地図をもらった。俺の技能スキルでは、現状の街の様子しか分からないので助かる。


(これで何処どこればいいのか見当もつく……)


 ミヒルが起きたようで「キュウ~」とお腹を鳴らした。

 市長の申し出もあり、俺は昼食をご馳走ちそうになることにする。


 本来、この街では香辛料スパイスを使った料理が基本らしい。

 水がないのでは、育てるのも難しいだろう。


 俺は話を聞くと『豊穣ほうじょうの杖』を使って、手持ちの香辛料スパイス成長させる。

 ついでに香草ハーブや薬草も植え、管理してもらう事にした。


 街の医療レベルが上がった♪――という所だろうか?

 香辛料スパイスは食べ物の腐敗を防ぎ、薬草は人々の怪我を治す。


 香草ハーブは『消化器官活性』や『リラックス効果』、『滋養強壮』に『ストレス軽減』など、様々な効能が期待できるだろう。


 彼らと一緒に街の歴史を聞きながら昼食をとっていると、噂を聞いたらしく文官の青年がやってきた。王族の命令らしい。


 新人のようで頼りない感じがする。大方、上司が大した仕事ではないと判断し、どうでもいい若手を寄越よこしたのだろう。


 日本の会社でも良くあることだ。

 人材不足といいながら、若手を育てない。


 嫌な仕事を押し付けているようでは、ヤル気を失い会社をめてしまうだろう。


「老害管理職には、それが分からんのです!」


 企業戦士たちが戦う作品で、そんな台詞セリフがあった気がする。

 俺が神殿側にばかり肩入れしているので、王族が警戒したのだろう。


 だが、彼の上司には、それが伝わらなかったらしい。

 あわよくば俺に新人教育をさせる気のようだ。


 すでに役人は国としてのていを成していないような気もするが――こういうのは形が大事なのだろう――俺は彼を補佐役へと任命した。


 王族の顔を立てる必要もある。


(かといって、教育するつもりもないが……)


 まあ、スマホもないので、逆に『見て覚える昭和式』の方がいいだろう。

 昔は会社に入社し、仕事をこなしていれば、自然と仕事を覚えられた。


 しかし、今の日本は違う。その一因は内製化にある。

 企業の中だけで育てる人材育成では荷が重いらしい。


 いわゆる『ゆるブラック』だ。

 今は仕事があふれていたバブルの時代とは違う。


 失われた30年と言っているが、昭和から抜け出せなかった30年に変えた方がいいのではないだろうか? 企業はかつての成功体験を脱却できなかったようだ。


 『企業が若者を育てる時代』から今は『若者が企業をかす時代』だ。

 ネットワークが発達したため、若者の情報を収集する能力は格段に上がっている。


 結果、若者を育成する難易度もね上がっていると思うのだが、未だに企業は現場任せである。


「OJTでは、企業が持たん時が来ているのだ!」


 若さに敗北したグラサンノースリーブの企業戦士も、そんなことを言っていた。

 この仕事さえやっていれば出世できる――そんな時代でもない。


 50代でも出世街道から外れたのなら、転職を考えなければならない。

 挑戦し、失敗しても、それをかてに頑張れる環境が必要となる。


(ただ、社畜には言われたくないだろうから黙っておこう……)


 俺は若手文官を連れ、拠点としている区画エリアへと戻った。

 すると待ち伏せしていた職人たちにつかまってしまう。


 今日の朝、武器屋のオヤジに話した件のようだが、予想以上に興味を持たれたようだ。俺は早速、竹を切って『豊穣ほうじょうの杖』を使い水分を抜く。


 一応、『油抜き』の方法として『湿式』と『乾式』がある事を伝えたのだが、手間が掛かってしまう。


 そのため、急いで作業しなければならない現状には向いていない。

 まずは武器として使えるか、職人たちへ竹を渡す。


 また、家具や大工の職人たちにも同様に竹を切って渡した。

 若手文官には、俺のやっている事を記録してもらう。


 興味のある職人たちや手のいている連中を集めるために、情報を公開するの必要だろう。

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