第106話 社畜の威を借る仔猫(2)


 大男が引き連れてきた連中には、昨日と同じくグループごとに分かれてもらう。

 今日は作物の種類によって収穫するグループを分け、それらを運搬するグループを作った。


 各グループにはリーダーを決め、作業の範囲を指示する。

 途中で果物を食べ、水分補給と適度な休憩を忘れないように伝えた。


 戦える連中には、主に護衛をお願いする。


警戒けいかいしすぎかもしれないが……)


 そんな事を考えていると、


「ニャニャッ!」


 俺の背中でミヒルがさわぐ。

 どうやら、なにかを発見したらしい。


 旋回せんかいする鳥影に気が付いたのは、大男のようで空を見上げながら、


「あれはデザートイーグルじゃあ……」


 自信無さげにつぶやく。

 日差しが強いため、地上からではよく見えない。


 俺は素早く上空へとけ上がると、そのまま怪鳥の上を取る。

 日光がまぶしいため、太陽を背にする姿勢で周囲を見回した。


 習得した〈キャットウォーク〉による空中での曲芸アクロバットだ。ミヒルはしっかりと背中にしがみ付いている――というより、こういう動作アクションは楽しいらしい。


 他に魔物モンスターの気配はない。どうやら、この1羽だけのようだ。

 偵察ていさつという感じではなさそうだが――


(子供なら簡単に、連れ去られてしまいそうだな……)


 地味な茶色の羽におおわれ、地走鳥ロックバードよりも一回り小さい。かぎ爪は見えないがくちばしが大きくするどいことから、凶悪な爪を隠し持っているのだろう。


 技能スキル〈鑑定〉を使用すると魔物モンスターと判定されたため、小石を――


(いや、外すと下の連中にぶつかる危険もある……)


 種として採取していた干しブドウを取り出し、投擲とうてきした。

 鳥の視界が人間よりもすぐれているのは有名な話だ。


 ワシタカフクロウなどの猛禽もうきん類の目には、映像を拡大する『くし状体』と呼ばれる増幅器もある。


 それにより、人間の10倍の視力を持つ個体も存在するらしい。

 木々の間を飛び回ることだって出来る。


 人間は赤、青、緑を感知するために、3種類の光受容錐体細胞を目の中に持っている。すべての色を作ることが出来る三原色だ。


 一方で、鳥の場合は4種類の錐体細胞を持っていた。

 人間よりも多いそれは、紫外線領域の感知を可能にしている。


 大抵の存在は紫外線を反射する。

 そのため、エサや仲間の識別に便利なのだろう。


 カラフルな鳥は紫外線を反射して――ライトアップされたクリスマスツリーのように――鳥の目には映るらしい。


 だが、イケメンを見付けるために目がいいワケではない。

 獲物えものを素早く発見し、狩りをするためだ。


 尿の中には紫外線を反射する『リン』が含まれている。

 上空から地上を見下ろす鳥からしてみると、立派な獲物えもの痕跡こんせきだ。


 野ネズミなどの小動物でも、見付けるのはむずかしくない。

 ただ、目がいいからといって、良い事ばかりではないハズだ。


 人間もそうだが、太陽を直視するのは危険である。

 わざわざ視力を上げている状態で、太陽を見る鳥はいないだろう。


(つまり、飛行中は頭上が死角になっている……)


 俺は『豊穣ほうじょうの杖』を使い、投擲とうてきしたブドウを発芽。

 つるからませ、デザートイーグルの動きを封じる。


「ピッ! ピギャッ!」


 当然、身体からだ拘束こうそくされたデザートイーグルは上手く飛べない。

 俺は先回りをすると、りをお見舞みまいし、誰もいない砂地へと墜落ついらくさせた。


 技能スキルの効果か、高速で落下し、盛大な砂煙をげた。


(これは追撃の必要はないな……)


 魔結晶と羽根の素材が手に入ったようだ。

 素材の方は弓矢に使えるかもしれない。


 歓声を上げる大男たちのもとへと戻った俺たち。

 何故なぜか背中のミヒルが「エッヘンだニャッ!」と得意気にしていた。


何処どこで教わってきたのやら……)


 やはり護衛は必要なようだ。皆を落ち着かせて、収穫作業の話をする。

 まずはグループごとの動きを確認しつつ〈ピュリファイ〉の魔法で浄化した。


 昨日は運搬を神官たちが担当してくれたが、神殿長には別の仕事を依頼している。

 準備でいそがしいようなので、今日は俺たちで対応しなければならない。


 運搬班には神殿から馬車を借りてきてもらい、収穫した作物を一度、神殿へと運ぶように指示した。後は住民に対し、神殿が配布してくれるだろう。


 なにかあった時の保存食として、あまった作物の加工も重要になる。

 そのためにはまとまった数の収穫が必要になるだろう。


 ただ張り切り過ぎて、イザという時に大男たちが動けないのでは意味がない。

 収穫の状況を見て、午前中で終わらせていいむねを伝える。


(――とは言っても、頑張りそうな雰囲気だな……)


 デザートイーグルを仕留めた事で、俺の株が上がってしまったようだ。

 ここは俺が早めに切り上げた方がいいのだろう。


 作物を植えるため、俺は作業へと戻った――いや、その前に、


「明日にはまた、別の作業を頼むかもしれない」


 とほのめかしておく。

 空からの襲撃しゅうげきがあるのでは、物見台が必要になる。


 現状、街には展望台のような施設が皆無なように映る。

 俺は自分の仕事を1時間程で終わらせ、早めに切り上げる。


 途中、エーテリアも復活したので、街中での治療を行う事にした。

 今日向かうのは、元々この都市に住んでいた連中の区画エリアだ。


 幕舎テントではなく家が建っている。

 木材は使わずに『日干し煉瓦レンガ』を使っているようだ。


(これならスライムを利用してアレが作れそうだな……)


 実は昨夜、ミリアムから乾燥したスライムの核をいくつかもらっていた。

 遺跡などには、時折スライムが自然発生するらしい。


 大抵は水やエサがないため、勝手に干乾ひからびているそうだ。

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