第104話 復興準備(2)


 一夜にして見慣みなれない植物がえていたので、みな一様いちようおどろいていたようだ。

 竹について、俺が植えた事を説明すると、


「なぁんだ」


 といった感じで解散していった。

 カムディに対しては、武器になる事を教えると興味を持ったようだ。


 武器屋のオヤジへ相談してみるむねを伝えた。

 まあ、竹槍なら子供でもあつかえるだろうし、弓矢の材料にもなる。


 気を付けるべき点は、その繁殖はんしょくりょくなのだろうが――


(水がないから、心配する必要はないか……)


 砂地で竹が増えるとは思えない。放置しておいても竹害ちくがいになる事はないだろう。

 今はまだる事があるので、切るのは後回しにする。


迂闊うかつに切ると、人が転ぶ原因にもなるしな……)


 まずは軽めの朝食を済ませる事にした――とはいっても果物だ。

 パンは上手うまくいけば、今日にでも焼き上がるだろう。


 明日からの朝食に期待である。

 食糧問題は思っていたよりも、早く解決しそうだ。


 今は1日2食のようだが、力仕事が増え、活動時間がびれば自然と3食になる。

 初手として、食料の生産に力を入れるのは、間違ってはいなかったようだ。


 人々が解散する中、イスカの姿を見付けたので、


「おはよう」


 と改めて声を掛けたのだが、彼女は顔を赤くしてうつむいてしまった。

 エーテリアに身体からだを貸していたとはいえ、昨夜の出来事を覚えているのだろう。


 ずかしいようだ。


「おはようニャ~♪」


 と挨拶あいさつをするミヒルに対しては、普通に挨拶を返していた。

 先日まで、弟と同じくらいの年齢の男子。


 それが成長して年上になってしまったのだ。辻褄つじつま合わせの効果により、最初からそうだったように認識してはいるが、内心では戸惑いもあるのだろう。


 普通に接していれば――


(その内、れるか……)


 俺は気にしない事にする。


(こういう場合、変に気をつかうと長引きそうだしな……)


 予定としては、今日も作物を植えるつもりだ。

 『結界草バリアリーフ』で街を囲む目的もあった。


 気休めだが、都市の守りも考えなくてはいけない。

 だが、その前に老戦士のもと挨拶あいさつに行くことにした。


 昨日の会議の結果を聞くためだ。

 一度、ミヒルをイスカにあずかってもらい、幕舎テントへと向かう。


 老戦士はすでに起きて、着替えていたようだ。

 俺が来るのを分かっていたのかもしれない。


 幕舎テントの中へ通してもらった。

 まずは食糧の件について、お礼を言われる。やはり一番の問題だったようだ。


 しかし、俺が昨日の会議の内容について質問をすると、老戦士は『思い出したくもない』といった表情に変わった。


 予想はしていたが、貴族連中の腰は重いらしい。


(まあ〈神器選定の儀〉にも、顔を出してはいなかったからな……)


 俺が――いや、誰がやっても――儀式に失敗すると思っていたのだろう。

 元会社員サラリーマンであるため、その考えを責める気にはならない。


 日本は不景気な時代だったので、リスクを取っていては会社がつぶれてしまう。

 上の立場としては、早めに手を打っておくべきだろう。


 魔物モンスター脅威きょういというよりも、人類は弱体化してしまった。

 状況は絶望的だ。頭のいい人間ほど、そのことは理解している。


 むしろ、現状では老戦士のような性格タイプからさきに死ぬのだろう。

 戦争の勝敗は戦う前に決まっている。


 勝ち目のないいくさを仕掛けるのはおろかなことだ。


(まあ、その状況も……)


 食糧の配給を行ったことで変わるだろう。

 老戦士は今日も午後から、神殿へ顔を出す予定らしい。


 午前中に各区画エリアの代表たちと話し合い、意見をまとめるそうだ。

 昨日の時点では、撤退てったい派の意見が多かったようだ。


 だが、水と食糧に余裕が出来た。

 元々は【終末の予言】に対抗するために集まった信者たちである。


 そのため、意見の均衡バランスくずれるだろう。俺は老戦士へ、説得というていで『都市からの撤退を引き留める形での話し合い』をお願いした。


 取りえず、都市の防衛が先だ。

 俺としては、もう少しだけ『どっちつかずの状況』が好ましい。


 それに魔物モンスターむかえ撃つにしても、撤退するにしても、都市の守りを固めておくのは悪い手ではない。


(次は職人の手配だな……)


 老戦士の幕舎テントを後にすると、俺は武器屋のオヤジのもとへと向かう。

 整備を依頼していた武具を受け取るためだ。


 水と食料が行き渡ったお陰か、オヤジの機嫌がいいように見える。

 食料のない状況で鍛冶の仕事をした場合、周りはいい顔をしないのだろう。


 それがなくなったに違いない。カイトシールドなど一式を受け取ったのだが、ハルバートの方はもう少し時間が掛るらしい。


 一応、状態を見せてもらってから〈アンチポイズン〉と〈ピュリファイ〉の魔法を使用してみた。新品同様とはいかないが、ある程度まで綺麗きれいになる。


 やはり『死の谷デスバレー』に放置されていたため、毒をびていたようだ。


「これなら、今日中に終わる」


 と武器屋のオヤジ。引き受けた以上は矜持プライドがあるのか、納得のいく仕事をしたかったらしい。


 一応「竹による武器の製造もお願い出来ないか?」と相談してみた所、後で素材である竹を確認してくれるそうだ。


 また、柵や家具なども作りたいと言うと「知り合いにも声を掛けてみる」と言ってくれた。


 最初は無口な職人かと思っていたのだが、れると結構、話してくれるらしい。


(相変わらず、口数は少ないが……)

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