第100話 パン作り(2)


 モノためし――という事で『豊穣ほうじょうの杖』を使い、小麦を栽培する。

 みな一様いちようおどろいていたが、俺が【神器】を得た事は知っているらしい。


 特にうたがわれる事はなかった。

 信仰心が強いのか、むしろ協力的だ。


 早速、収穫して『パンを作ってくれる』と約束してくれた。

 だが、この人数なら小麦の収穫はすぐに終わるだろう。


 折角せっかくなので『ブドウ』と『タマネギ』『アボカド』も栽培する。

 ブドウのつた幕舎テントからめ、幕舎テントの入口にタマネギを植えた。


 アボカドは木にるので、幕舎テント同士の間でいいだろう。

 桃栗三年柿八年――という言葉がある。


 この手の植物は、本来なら収穫できるようになるまで何年も掛かるのだが――


(相変わらず、あっという間だな……)


 少し葉がしげり過ぎている気がするので、剪定せんていが必要だろう。

 一方でタマネギが発芽障害にならないのは助かる。


 だが育ち過ぎないように、調整には気を付けなくてはならない。


(まあ、その時は種を採取さいしゅすればいいのか……)


 俺はこれらの野菜をパンに使ってもらうように頼む。

 勿論もちろんあまった場合は好きにしてくれて構わない」と条件を付けた。


 ブドウを一粒り、ミヒルに与える。

 クンクンとニオイをいだ後、パクッと一口。


美味おいしいニャ♪」


 どうやら種はないようだ。理屈としては、受粉させなければ種は作られない。

 ジベレリン処理が必要なのだが、上手うまくいったらしい。


 種なしブドウは『レーズン』にしてもらうように頼む。

 こういった地域では――ブドウは生食用ではなく――主にワインの材料だ。


 そして、葉は塩漬けにして料理に使う。

 『ドルマ』が有名だろうか?


 ブドウの葉の中にピラフや肉などを詰めて細長く巻き、鍋に並べてスープで炊く。

 ロールキャベツのような料理だ。


 しかし『レーズンパン』や『オニオンブレット』は知っているが『アボカドパン』はあっただろうか?


(まあ、チーズと合わせれば大丈夫か……)


 女性はトーストに乗せて食べていそうだ。

 そういえば『アボカドディップ』があった。


 メキシコ料理で『ワカモレ』というのを聞いた事がある。

 日本のオッサンはアボカドを食べないので詳しくないのだ。


 だが、タマネギなら知っている。

 紀元前三〇〇〇年頃の古代エジプトの壁画にも、タマネギはえがかれていた。


 ピラミッド建設にたずさわる人々の栄養源だったらしい。

 人類とタマネギの付き合いは、かなり古いようだ。


 種は『黒ゴマ』に形が似ている。印度インド欧州ヨーロッパでは香辛料スパイスの一種として、もしくは料理の香りづけに使われるらしい。


 日本ではスプラウトの方が有名だろう。納豆やサラダ、マリネに混ぜるだけ、サンドイッチの具や炒め物に乗せるなど、ちょっとした使い方が出来て便利だ。


 また強いニオイのため『タマネギにはアリを遠ざける効果がある』といわれている。だが今の時代、虫除けスプレーを使った方がいいだろう。


 ゴキブリはタマネギのニオイが好きなようだし、傷んでいた場合、逆に虫が寄ってきてしまう。


(日本で販売した当初は『ラッキョウのお化け』と言われていたとか……)


 注目するのなら、殺菌効果の方だろう。

 風邪かぜやインフルエンザ、食中毒などをおさえる働きがある。


 ピラミッド建設にも一役買った――というだけあって免疫力を上昇アップさせてくれるようだ。風邪で身体が弱った際は『リンゴ』と同様に摂取したい所である。


 予防という意味なら、ビタミンEをふくむアボカドもオススメだ。


(取りえず、パンが出来るのは明日以降か……)


 大人おとなしく結果を待つとしよう。

 住民たちの健康維持にも役立ちそうだ。


 俺には俺の目的があって、労力として利用するつもりなのだが、お礼を言われてしまった。少し後ろめたい気もする。


 また、食料を扱っている商人からすると『商売がったり』だろう。

 そこは神殿に、あいだに入ってもらった方が良さそうだ。


 俺がお金を払って、商品を買い取れば解決する――というワケでもない。

 そもそも現状では物々交換が主流だ。


 新たな仕事を作り出し、安定した収入を得られるようにした方がいいだろう。


(まあ、それもすべて【終末の予言】を乗り越えられるかに掛かっている……)


 後は殺虫剤が欲しい所だ。『イミプロトリン』は即効性が高い。

 ピレスロイド系の毒なので、人やペットにもほとんど無害である。


 『選択毒性』という性質によるモノで、特定の種類の生物にとってのみ、致命的な毒性を発揮する。


 身近にあるモノならチョコレートだろうか?

 人が食べてもなんともないが、犬が食べると中毒を起こしてしまう。


 イミプロトリンは害虫が吸い込んだ場合、強い毒性を発揮する。

 勿論もちろん、過剰に吸い込んだり、誤飲したりすれば人間でも危険だ。


 哺乳類の場合はふるえや異常な興奮状態、流涎りゅうぜんや麻痺など症状が出る。

 通常はすみやかに消失するので、そこまでの心配は必要ない。


(だがそうなると植物に吸収されやすいのが欠点か……)


 使う量と場所を考えなくてはいけない。

 まあ、まずは『作る事が出来るのか?』を確かめよう。


 除虫菊の乾花から殺虫成分『ピレトリン』が抽出できる――というのは有名な話だ。しかし、現代では合成ピレスロイドを製造して使っている。


 今は鑑賞用として育てらているようだ。


めずらしい植物といえば……)


 丁度、食糧を持って行く約束もしている。

 俺は『竜のかご』に行ってみる事にした。

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