第99話 パン作り(1)


 後頭部をきながら俺がり返ると――見習みならい神官は――2人そろって神へいのりをささげる姿勢ポーズを取っていた。


(余計に声が掛けにくいな……)


 一呼吸置いてから「おいっ!」と俺が声を上げると、


「ありがとうございます、救世主様っ!」「早く神殿長様に知らせなくては」


 そんなことを言って、2人の見習い神官は居なくなってしまった。

 たがいに顔を合わせ、肩をすくめる俺と首をかしげるエーテリア。


「お水がいっぱいニャー♪」


 ご主人、すごいニャ!――とミヒルが俺の足に抱き付いてくる。

 俺はそんな彼女の頭をでると、この場から立ちる事にした。


 見習い神官たちの様子をかんがみるに、神殿長とやらがやってきそうだ。

 面倒なことになる前に――


撤退てったいするに限る……)


 ミヒルをきかかえ、素早く神殿から逃げ出した俺は、イスカたちと合流することにした。再び〈スカイウォーク〉で空へと上がる。


 上空から探せば、見付けるのもむずかしくはない。

 き出しをやっているハズなので、人集ひとだかりを探す。


 案の定、貧民が多く見られるすみの区画に人の列が見えた。

 俺はミヒルをかついだまま、静かに着地する。


 技能スキル〈キャットウォーク〉のお陰だろうか?

 だいぶれてきた。


「ニャー♪」


 とミヒル。イスカは気が付いたようで「あらっ♡」と笑顔を浮かべる。

 やけに嬉しそうに見えたが気の所為せいだろうか? 俺は近づくと、


「手伝うことはないか?」


 と質問をした。イスカは「大丈夫です」と言って、静かに首を左右に振る。

 まあ、みんな順番を守って並んでいるようなので問題はなさそうだ。


 青年狩人も神官たちにざって、果物の配給を手伝っていた。

 器用なのか、手際がいい。


(確かに俺の出番はないな……)


 俺は近くにいた女剣士に話しを聞く事にした。


「様子はどうだ?」


 漠然ばくぜんとした質問に対し、


「最初は果物が人気だったが、今はスープが好評だよ」


 あっという間になくなってしまう――と教えてくれた。

 その口振りから、何度なんどか料理を作り直しているようだ。


 確かに香辛料スパイスの効いた、いいにおいがただよっている。


(これを食欲をそそらてしまうな……)


 汗をくため、塩分の補給も必要なのだろう。地球でも東南アジアや中南米など、暑さのきびしい国では、香辛料スパイスを使った料理が人気だ。


 日本でからいモノを食べる時といえば、食欲がない場合か、寒い季節に食べて身体からだを温める場合といった時だろう。


 しかし、ここでは汗をくのが重要ポイントらしい。

 いた汗が蒸発し、体温が下がることで涼しく感じられるようだ。


 暑い国で辛い料理がよく食べられる理由である。

 一時的に身体は温まるが、それよりも汗を掻いて身体からだを冷やす事が目的らしい。


 その他にも香辛料スパイスには防腐効果がある。

 暑い夏には食品が傷みやすい。


 そのため『香辛料スパイスの効いた料理が作られるようになった』という説もあるようだ。


(まあ、り過ぎると胃腸を痛めてしまう可能性もあるが……)


 今後は香辛料スパイス香草ハーブも育てた方がいいのかもしれない。

 俺はこの場をイスカたちに任せることにして、神官へと話し掛けた。


 病人や怪我人の一覧リスト確認チェックするためだ。

 急いで準備する神官から一覧リストを受け取ると治療へ出掛けることにする。


 神官には引き続き一覧リストの作成を命じた。

 すると丁度、大男たちが収穫を終え、作物を持って合流したようだ。


 俺はねぎらいの言葉を掛け、怪我人や具合の悪いヤツがいないかを確認する。

 どうやら、魔物モンスター襲撃しゅうげきなどはなかったらしい。


「張り切って、腰を痛めたヤツがいるくらいだ」


 と答える大男。まあ、そのくらいなら回復魔法は必要ないだろう。

 大丈夫だと判断し、俺はミヒルを連れ、病人の多い区画へと移動した。


 怪我や病気を治すのと同時に綺麗きれいな水を提供する。

 便所トイレの浄化も忘れない。


 また、料理の得意な人間と、かまや調理道具などを作ることの出来る職人を紹介してもらう。意外にも多くの人が集まった。


 道具や食料のない状況では、特技をかせなかったらしい。

 そのため、くすぶっていたようだ。


 まずは職人にパンを作るためのかまと必要な道具の作製を依頼する。

 場所も余っているようなので、石窯いしがまなら明日には出来るという話だった。


 必要なモノなので、お願いしておく。


(後は小麦か……)


 確か、小麦を石臼いしうすいて、ふるいに掛ければいいハズだ。

 網の目を通り抜けたモノが小麦粉になる。


 ただ、この方法だと小麦の皮の部分が粉に混ざってしまい、折角せっかくのパンがごわごわしてしまう。食感が台無しである。


 栄養は皮にもあるので、食物繊維やビタミンを摂取したいのなら、それでもいいのだろうが――


(白くて、ふんわりとしたパンにこだわる必要もないか……)


 『高級食パン』ブームもいつの間にか終了していた。まあ、アレは感染症パンデミックの時代に『事業再構築補助金』が活用できた部分も大きい。


 補助金バブルだ♪――と多くの経営者が浮足立っていたようだ。

 『無人販売所』や『高級食パン』の店とは相性が良かったのだろう。


 街中に似たような店が急増していた。

 感染症パンデミックが続いても終わっても『一定の需要がある』ということで、コンサルタントたちが経営者に進めていたらしい。


 通常の補助金の額はせいぜい数十万円。高くても1千万円なのに対し、最大で1億円ものお金が補助金として受け取れるとあっては、経営者が飛びつくのも無理はないだろう。


 閉店した店も多いようだが、チェーン店となっている店もある。どうやら『個人の事業』から資本力のある『外食企業の事業』へと変化しているようだ。


(市場が飽和ほうわしてサバイバル状態に突入したと見るべきだろうか?)

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