第98話 水不足(2)


 見習みならい神官たちは――俺の突然の出現に――おどろいたようだ。

 舞台ステージを掃除する手をめ、目を丸くする。


 彼らが今、いそがしく働いている原因――それは俺がいた砂である。

 少し負い目を感じるが、俺は貯水施設の場所を聞くことにした。


 大きなかめに水をめているワケではないだろう。

 神殿には緑がある事から、雨水を溜めておくような場所があるハズだ。


 だが、水も潤沢じゅんたくにあるようには思えない。

 もしそうなら、わざわざオアシスへ水をみに行く必要はないだろう。


 貧困層へ仕事を与えているようにも見えるが、魔物モンスターおそわれるように仕向けて食い扶持ぶちを減ら――いや、判断するにしても、まずは現状を確認する必要があった。


 一応、こんな俺でも【神器】に選ばれたという事で、英雄のようなあつかいになるらしい。見習い神官たちは「救世主様!」と言ってひざり、いのりをささげる。


(まあ、俺の後ろにはエーテリアがいるので、構わないのだが……)


 正直、相手が下手したてに出て来る場合、ろくな目にった記憶がない。

 つい警戒してしまうのは、俺の悪いクセだろうか?


 君にしか頼めない仕事なんだよ――と言う腹黒い上司を多く見てきた記憶がよみがえる。話を鵜呑うのみにすると十中八九、ひどい目にう。


 見習い神官たちの話によると貯水槽が神殿の地下にあるようだ。

 地下といっても――砂漠化する前――神殿は高台にあったと思われる。


 作った当時は地下ではない可能性が高い。

 井戸も一緒にあり、以前は水をみ上げ、めていたようだ。


 だが今は、その井戸の水もれかけている。

 長い間、雨が降っていないのでは仕方がない。


 本来なら管理している高位の神官がいるようだが、今は会議中だ。


(待っている時間はないか……)


 むしろ好都合かもしれない。


「責任は俺が取る!」


 そう言って無理矢理、部屋へと案内させ、中へと入った。

 鍵は必要ないがMPを消費するタイプだったらしい。


 神聖魔法に分類される魔法が必要だったので〈ホーリーウォーク〉で開けた。

 足で扉をったように見えるため、少し行儀が悪い。


 水の気配があるためか、通常よりも更に涼しい気がする。部屋のあかりには魔結晶が動力エネルギーとして使われているようなので、俺の持っている魔結晶を使用する。


 青と緑の中間のような淡い光が室内を照らす。

 俺は『リディエス』の神殿にある地下を思い出した。


 石のタイルがかれた部屋は予想よりも広く、まるで銭湯のようだ。

 貯水槽が3つあるのだが、その内の2つはからだった。


 残っている貯水槽も残り半分といった所だろうか?

 井戸はれかけているという話だから――


(なるほど、この状況は口外できないな……)


 水がないと分かれば、神殿への敬意も減少するだろう。

 これでは魔物モンスターと戦うどころではない。


 俺は〈クリエイト:ライト〉で光を作り出し、井戸の中をのぞいてみたが、聞いた通りの状況だった。


 まずは貯水槽の掃除――いや、エーテリアに浄化を頼もう。


(でも、その前に……)


 見習い神官たちが部屋の外から俺の様子をうかがっていたので、


「もういいぞ」


 と指示を出す。「助かった」と俺は告げたのだが、彼らに動く気配はない。

 どうやら、見届けて報告する義務があるらしい。


 俺は肩をすくめるとエーテリアに部屋の浄化をお願いする。

 ミヒルは興味があるのか、俺から降りてからになった貯水槽をのぞいていた。


 水がないので、落ちても大丈夫だろう。猫なので、着地は得意そうだ。

 俺はミヒルに目を閉じているように言う。


「うにゃっ♪」


 ミヒルが両手で顔をおおったのを見て、エーテリアが浄化の光を放つと――ここが神殿だからだろうか?――いつもよりもまぶしくかがやく。


「うわぁっ!」


 と言って腰を抜かしたのは、見習い神官たちだ。

 2人して尻餅しりもちいている。


 それから、綺麗になった貯水場を見て目を丸くすると「これは……」そう言いながら、2人は部屋へと入ってきた。


 上司からは部屋に入る事を禁止されているようだったが、好奇心には勝てなかったようだ。キョロキョロと周囲を見回している。


 俺はミヒルに「もういいぞ」と告げ、エーテリアには「ぎじゃないのか?」と問う。今はどう考えても日本にある銭湯のようだ。


 年季の入った壁の汚れも、罅割ひびわれていたタイルも新品のように輝いていた。


「ぴかぴかニャー♪」


 と喜ぶミヒルを見て、サムズアップするエーテリア。

 だから遣り過ぎだと――いや、やってしまったモノは仕方がない。


 場所が神殿なだけあって、女神である彼女の能力に補正が掛かるのだろう。

 実際は手加減したハズなのだが、予想以上の効果になってしまったようだ。


 俺は彼女に【水の精霊】を呼び出してもらった。

 勿論もちろん、契約するためである。


 俺は見習い神官たちへ待っているように告げると〈クリエイト:ウォーター〉の魔法を試してみた。水を作り出す魔法だが、上限は魔力量に比例するようだ。


 大きな水球を空中に作り出した後、魔力を込めるのをめた。

 ビシャッ!――と音を立て、空だった貯水槽へ水が落ちる。


(この分なら、3つの貯水槽を満たすのは難しくないな……)


 地味に『豊穣ほうじょうの杖』の魔力が役に立っている。

 折角せっかくなので〈ウォーターボール〉と〈ウォーターウォール〉の魔法も試す。


 出現した水は勿体もったいないので貯水槽へと入れて置いた。


(さて、見習い神官の2人はどう説得しようか……)

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