第96話 衛生環境(2)


 俺は副職能サブクラスを魔法使いである【メイジ】から聖職者である【クラージ】へ変更する。これで回復魔法を使う際、補正が入るようになったハズだ。


 魔力への補正が高かったので副職能サブクラスを【メイジ】にしていたが、【クラージ】は精神への補正が高いようだ。


 【メイジ】が魔法使い版の【ウォリアー】なら【クラージ】は【ナイト】といった所だろうか?


 魔法への抵抗力が上がっている。精神系の状態異常にも強そうだ。

 試しに回復魔法を使ってみたい所だが、周囲に怪我人はいない。


 先に浄化魔法を覚えて、使用してみることにする。


(どの道、旅には必須だしな……)


 俺はエーテリアに頼んで『精霊族ソリス』を呼び出してもらった。

 【癒の精霊】と【光の精霊】だ。


 契約することでSPスキルポイントさえ消費すれば、魔法を習得できるようになる。

 ただ、習得できる魔法の数は限られていた。


 精霊との相性のようなモノが関係あるのだろう。

 この世界の人間は神殿などで働き、修行を積む。


 そうする事で自然と力を貸してもらえるようになるらしい。

 つまり女神を頼る俺の習得方法は、反則ではあるのだが――


(まあ、許して欲しい……)


 基本となる初期魔法は〈ヒール〉と〈クリエイト:ライト〉のようだ。

 これは自動で習得する。


 また、条件を満たしたらしく、新たに〈ライトヒール〉を習得した。

 この分なら〈水〉や〈土〉の魔法を習得すると〈ウォーターヒール〉や〈アースヒール〉が使えそうだ。


 一般的には『海神』や『武神』など、どの神を信仰するかで、習得できる魔法が異なる。理由は集まってくる『精霊族ソリス』が異なるからだ。


 現状、習得できる魔法の数は限られているがSPスキルポイントという概念がある以上、習得できる魔法は更に限られてくる。


(必要なモノだけを選んでいかないとな……)


 主職能メインクラスが【バランサー】の俺は攻撃と回復、両方使えた方が良さそうだ。

 攻撃や魔法に特化した成長をしても、本職と比べた場合、能力はどうしてもおとる。


 むしろ、支援職として割り切り、本職の補佐サポートてっした方がいい。

 前衛はそろっているので、何処どこかに魔法使いはいないだろうか?


 魔法と言えば『妖精族ルーナ』や『魔人族デモン』が得意そうだ。後は定番の――


(そういえば、まだエルフやドワーフにも会っていない……)


 今更ながら、俺の異世界生活は間違っている気がしてきた。

 取りえず〈癒〉と〈光〉の初級魔法を2つずつ習得できるようだ。


 まずは〈癒〉の魔法から――解毒魔法の〈アンチポイズン〉と麻痺対策の〈アンチパラライズ〉を習得する。


 街の住民たちへの病気対策にも使えるだろう。

 複数の状態異常を回復できる〈アンチドート〉の魔法は中級魔法らしい。


 続いて〈光〉の魔法だが――浄化魔法の〈ピュリファイ〉と防御の基本である〈プロテクション〉の魔法を習得した。


 中級魔法に〈ピュリフィケーション〉があるので、アンデット系の魔物モンスターの浄化には、こちらが有効なようだ。


 物足りない気もするが、支援能力が大幅に向上した。

 突っ込むべき所は、補佐サポートすべき前衛がいない事だろうか?


 まあ、俺は機動力に特化している。


(手数を増やすこと自体は間違ってはいないだろう……)


 俺はミヒルを起こすと「一緒に神殿へ行くか?」と聞いた。

 嫌なら、ここへ置いて行った方がいいだろう。


 子供たちと遊んで待っていればいい。

 ミヒルは「うみゅ~っ!」と両手を挙げ、身体からだを伸ばすと、


「一緒に行くニャ♪」


 と答える。眠ったので、元気になったらしい。相変わらず『子供は電池で動いているのではないか?』と思ってしまう程、切り替えが極端きょくたんである。


(首の後ろにスイッチでも付いているのだろうか?)


「なら、先にトイレを済ませよう」


 俺はそう提案して、ミヒルを共同のトイレへ連れて行く。

 勿論もちろん、水洗式ではない。終わったら、砂を掛ける方式だ。


 木箱が置いてあり、そこに用を足す。

 後は定期的に、離れた場所にある処理場へ持っていく。


 簡単にいうのなら、ゴミ捨て場だろう。

 日本ならば肥溜こえだめで一度発酵させる所だが、ここは砂漠なので乾燥している。


 あまりにおいがしないのは助かるが、発酵は難しいようだ。

 今回、作物がれたので、葉や野菜くずなどと混ぜて放置するのがいいだろう。


 要はコンポストに近い。上手く発酵すれば、堆肥たいひにもなる。

 衛生面を心配していたが、これなら大丈夫そうだ。


(やはり、問題は水になるのか……)


 地球でも水問題は世界中で起こっていた。

 多くの途上国では、水道施設などインフラが整備されていない。


 維持費やノウハウも必要になるので、難しいのだろう。

 原因は『内戦』や『紛争』も含まれるが、結局はお金になる。


 富の一極集中というヤツだ。

 仕組みは簡単。現地情勢を不安定化させ、大国が兵を送り込む。


 政情不安の中、治安維持の名目で武器供給を行う。

 後は武器で脅して『地元の金取引のビジネスを奪う』というワケだ。


 天然資源のある国なら、なおの事いい。

 送り込まれた兵士たちは殺人、強姦、投獄して拷問と遣りたい放題なのだろう。


 また邪魔になる存在は、徹底的につぶす。

 例えば酒の製造工場など、格好の標的だ。


 工場をつぶして酒が不足した所へ、大国が自分たちの国で造った酒を買わせる。

 しかし、輸入した酒は高い。


 ならば――と頃合いを見て、酒の製造工場を、その国に造ればいい。

 酒が安く手に入るとなれば、反対する人間も減るだろう。


 そうやって軍事的支配だけでなく、商品や教育を通じたソフトパワーを使い支配する。現地の住民は、いつまで経っても生かさず殺さず、貧困というワケだ。


 関係ないが、日本は経済が低迷し、物価が下がり続けている。

 日本を敵視している国があるのは、日本人なら誰しもが理解しているだろう。


 だが安心していい。日本は防衛費増額に伴う財源確保法を成立した。

 足りない部分は増税だ。防衛費増額のために国債は発行しない。


(どうやら、普段から貧困に慣れておく作戦のようだな……)

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