第95話 衛生環境(1)


 さて、問題はMPの消費だろう。

 歩けば回復するとはいえ、微々びびたるモノだ。


 移動しながらの戦闘中ならまだしも、今は回復するための時間がしい。

 都市の周りを走り回るのも手だが、砂が盛大せいだいう事は用意に想像できる。


 迷惑なため、魔結晶を使用する事でMPの代用とする。

 今までは魔物モンスターを倒しても、換金する場所がなかった。


 結果、ゴブリンやウルフを倒した際、手に入れた魔結晶を大量に所持している。

 持っていても魔物モンスターってくるだけなので、しむ必要もない。


 本来は、この星の魔力エネルギーであり、それを魔物モンスターたちが奪った。

 ならば――俺は星へ魔力エネルギーを返すだけだ――そう考えることにする。


 割り切った俺は魔結晶を消費し、植物を成長させて、作物を実らせる作業を続けた。ただ、効率よく作物を増やすには種が必要となる。


「ご主人、ご主人♪」


 とミヒル。身軽な彼女には、その種を採取する作業を手伝ってもらった。

 俺が「いい子だな、助かる」とお礼を言うと、嬉しそうな表情を浮かべる。


 もっとめて欲しいのか、張り切っているようだ。まあ、今までの彼女の人生には、他者からめてもらえるような出来事はなかったのだろう。


 楽しかったり、嬉しかったりすると、子供の成長は早いようだ。

 すぐにコツをつかんだらしい。素早く実の部分だけをってくる。


 テキパキと作業を進められるようになった事で、俺の中でもサイクルが出来上がった。当然、作業の速度スピードは上がる。


 ただ、ミヒルがいるため、途中で休憩をはさむのを忘れてはいけない。

 果物を食べさせ、水分と糖分を補給させる。永久機関の出来上がりだ。


 気が付くと都市の正面側を緑でいっぱいにする事に成功していた。

 次は側面に作物を植える予定だったのだが――


(いつの間にか差が開いていたようだな……)


 大男たちのひきいる収穫チームの進捗しんちょくは、まだ植えた作物の半分程度のようだ。まあ、この炎天下の中、彼らはよくやっている。


 俺の作業速度スピードが彼らの収穫の速度スピードを上回ったのだろう。

 久し振りの単純作業だったので、俺の中で変なスイッチが入ってしまったらしい。


 ミヒルも疲れたようで立ったまま、うつらうつらと船をいでいる。

 俺としては、まだまだれるのだが――


(一旦、作業は中止にするか……)


 ここは砂漠だ。

 日中の炎天下の中、延々と作業するモノではない。


 今日中に終わらせるつもりでいたのだが、俺が張り切ると、彼らもまた『頑張らなければならない』と思うのだろう。


 それに、これだけの植物に与える水も用意しなくてはならない。

 俺はかがむと土をつかんだ。


 砂ではなくなっている。作物を植えた地面に変化があったらしい。

 『豊穣ほうじょうの杖』の効果は、単純に植物を成長させるだけではないようだ。


 劣化した土にも、活力を与えるらしい。


(色々と実験してみたい所だが……)


 ミヒルを背負い、俺は大男たちのもとへ移動する。

 同時に作物を植える作業から離れるむねを伝えた。


 彼らにも、適当な状況タイミングで切り上げるように指示を出す。

 食料は毎日必要だ。どうせ、明日も同じような作業を行うことになる。


 『結界草バリアリーフ』を植えることで『都市の安全性も確保できる』と思っていたのだが、強力な魔物モンスターを相手に何処どこまで効果があるのかは分からない。


 物理的な防御の方法も模索もさくしていこう。

 いや、すでに計画自体はある。


 そのためにも十分な水の確保が必要だ。

 俺は都市の中へ戻ると、貯水場を探すことにした。


(いや、その前にミヒルをトイレへ連れて行くのが先だな……)


 汗をいたので必要ないかもしれないが、果物ばかり食べさせてしまった。

 もし今、らされたのなら、俺が大ダメージを受けてしまう。


 まあ、エーテリアに浄化してもらえば済むのだが――


(女神に頼むようなことではない気も……)


 そんな俺の視線に対し、首をかしげるエーテリア。

 俺はイスカたちが拠点にしている区画へと戻った。


 老戦士たちの姿が見えない。代表として招集しょうしゅうを受けているのだろう。

 警備のための人員がわずかに残っている。


 ただ、いつもと違って、その表情には余裕があった。

 食料の配給があったようだ。


 食べ物の心配をする必要がなくなったので、他の事に思考をめぐらせる余裕が出来たのだろう。


 遊んでいる子供たちに話を聞くと、イスカたちはまだ、戻って来ていないらしい。

 また、果物のお礼を言われる。


 彼らにしてみれば、ひさりのご馳走ちそうだったのだろう。

 しかし、口にしたのは果物だけのようだ。すぐに、お腹が減るハズだ。


 それに今は満足しているが、果物だけでは栄養もかたよる。

 収穫した作物を飼料として、今度は家畜も飼育しなければならない。


 俺はいている幕舎テントを借りるとミヒルを寝かせた。

 猫の平均睡眠時間は14時間と聞くが、ミヒルもそうなのだろうか?


 よく寝ている気がする。

 夜目よめが利くなど、能力的には夜行性だ。


 『獣人族アニマ』がどの程度、動物に近いのは分からないが、猫は『寝子』とも言われる。寝ている時間が多い生き物だが、常に熟睡しているワケではないようだ。


(もう少し、観察してみるか……)

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