第93話 食糧問題(1)


 さて、最初になにを始めるのかといえば――


(食糧の生産だろう……)


 小麦を作りたい所だが、アレは十分な量を作るのに場所が必要となる。

 収穫も大変だし、粉にするには風車もあった方がいい。


 まずは、果実を育てることにした。

 そのまま食べることが出来るし、をつけた木は木陰こかげ風除かぜよけにもなる。


 加工することで保存も効くだろう。

 場所は街の周囲を囲む形で設置することにした。


 砂地だが『豊穣の杖』があれば問題なく育てることは出来る。

 水もないので、すぐにれてしまうだろうが一週間ほど持てばいい。


(土壌改良が必要だが、それは後で考えよう……)


 果物はイスカに頼んで分けてもらっている。

 『デーツ』が手に入ったので、まずはこれが中心だ。


 『ナツメヤシ』と言った方が分かりやすいかもしれない。強い日差しをける傘の役割をしてくれるので、ナツメヤシの下では野菜や穀類の栽培が可能となる。


(まあ、まず植えるのは『結界草バリアリーフ』なんだが……)


 余った実は、ジャムやドライフルーツにするのが良さそうだ。

 その他にもペーストや粉末、調味料や漬物など、加工も可能だ。


 日本では『お好み焼きのソース』の原料として使用されているのが有名だろう。


「広島人の血にはソースが流れよる」


 とネタにされるほど、有名なソースを造っている会社がある。その会社のサイトにも情報が掲載されていたので、多くの日本人が口にしているハズだ。


 また、デーツは『パンケーキ』や『プティング』などのお菓子に使うことも出来る。ワインにする地域もあるそうだ。


 しかし、用途は食べるだけではない。

 ナツメヤシの葉を利用して、バスケットなどを作ることが出来る。


 また、葉は屋根の材料に、幹は木材として活用するらしい。

 なかなかに有用な植物である。


(たくさん植えておこう……)


 後は『オクラ』や『ソルガム』と呼ばれる植物を成長させた。

 オクラは傷みやすいが、たくさん採ることが出来て、栄養的にもすぐれている。


 日本では『夏バテ防止』や『スタミナ補給』の食材として有名だろう。

 普及したのは70年代になってからのようだが、今では夏野菜の代表である。


 種子はコーヒー豆に似ていることから、かつてはコーヒーの代用品として栽培さいばいされた事もあったらしいのだが、味は本物には程遠いようだ。


 やはり野菜として食べる方が向いているのだろう。

 個人的には『天ぷら』で食べるか、細かくきざんでなまで使いたい所である。


 だが、今はそんな余裕はないし、醬油しょうゆもない。

 今回はスープの材料にするのがいいだろう。


 ソルガムは『かゆ』や『クスクス』にして食べるのが一般的だ。

 『チャパティ』のような酵母の入っていないパンを作ることも出来る。


 同じパンなら『ナン』の方が有名だが、チャパティの方が印度インドでは馴染みがあるらしい。チャパティが焼ける事は『花嫁修行の一環』としてとらえられているそうだ。


 生地を発酵させているナンは『パン』で、チャパティは『ガレット』(そば粉で作るクレープ)をイメージするといいかもしれない。


 まあ、早い話がソルガムは『トウキビ』だ。

 当然これも酒の原料になる。


 いやむしろ、人によってはそっちがメインだろう。

 日本では小麦アレルギーの人向けの代用食材としても有名だ。


 の生育段階は水熟すいじゅく期、乳熟にゅうじゅく期、糊熟こじゅく期、黄熟おうじゅく期、完熟かんじゅく期、過熟かじゅく期と進行するのだが、ソルガムは乳熟期から糊熟期の収穫となる。


 ちなみにヤングコーンの収穫は水熟期で、トウキビは黄熟期だ。

 『リンゴ』を成長させた時とは違い、微調整びちょうせいが必要となる。


しばらくは、これで大丈夫だろう……)


 また神官たちに果実を用意するように指示を出すと『マンゴー』と『ミカン』『バナナ』を持ってきてくれた。


 この場合、バナナは主食としてのあつかいなのだろうか?

 確か『生食用』と『料理用』に分かれたハズだ。


 緑色であることから、黄色くなるまで完熟させない方が良さそうだ。

 また『茎や葉も建材として利用できる』と聞いた事がある。


 葉の方は食器の代わりにする外、つつみ焼きにも使えたハズだ。

 SDGsで『バナナペーパー』というのを聞いた事がある。


(日本にいると意識しないが、改めて考えると使い道が多いな……)


 問題は種がない事だ。

 そのため、根子ねっこわきから出てくる新芽を使って育てなければならない。


 比律賓フィリピン馬来西亜マレーシアでは、種のある野生のバナナが残っているようだ。


(取りえず、試してみよう……)


 種から芽が出るイメージではなく、葉や茎が再生するイメージだ。

 するとヘタの部分からニョキニョキとバナナの茎が生えてくる。


 どうやら、成功したらしい。種がなくても成長させることが出来るようだ。

 植物の細胞が無事なら、再生が可能らしい。


 ただ感覚として、俺が『その植物についての知識を持っている』という前提条件が必要なのだろう。やはり、種を集める方が確実らしい。


 だが、色々と応用が利きそうな気もする。

 後で砂漠の緑化に適した植物を探して、育ててみよう。


 ジャトロファやゴムの木に似た植物など、面白そうだ。

 まさか異世界に来て、砂漠の緑化を考える事になるとは思ってもみなかった。

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