第92話 変化(2)


 俺は休憩と称し、少し考えた後〈ウォーキング〉の技能スキルレベルを上げておく事にした。


 理由としては『秩序の根源』と『混沌の根源』が覚醒した事が大きい。

 職能クラスに【クラージ】と【メイジ】を設定できるようなった。


 どう考えてもMPが重要になる職能クラスだ。

 また、魔物モンスターを倒している時間はない。


 そのため、歩く事で『少しでもレベルアップを行う必要がある』と考えた。

 同時に『回復も重要になってくる』というワケだ。


 また新たに【根源】が覚醒した事によって、エーテリアの姿も大人へと成長する。

 ともいえる、オリエンタルな衣装では目のり場に困ってしまう。


 別に――露出ろしゅつが多いエッチなおどり子姿――それが嫌いなワケではない。

 どうしても、その大きな胸に目がいってしまうからだ。


 戦闘中に「女神のおっぱいが気になって集中できませんでした」ではカッコワル過ぎる。露出の少ない神官の衣装へと着替えてもらった。


「フフフ♪ 男の子は清楚系や清純系が好きですからね☆」


 と謎の解釈をするエーテリア。

 どうやら、日本に居た時に余計な知識を得たらしい。


「清楚系女神ですよ♡」


 似合いますか?――と楽しそうにしている。『〇〇系』と付けた時点で、清楚ではなくなってしまう気がするのだが、俺はえて突っ込まない。


「――思わず、息をんでしまうくらい綺麗だ」


 と返しておく。回答が遅れたのは『突っ込むべきかいなか』を考えていたからなのだが、エーテリアは「えへへ♡」と嬉しそうしている。


なんとか誤魔化ごまかせたようだ……)


 実際に汗をいたワケではないが、俺は額の汗をぬぐう仕草をする。

 また『エーテリアが成長した』ということは俺自身も成長したのだろう。


 一つの【根源】が覚醒すると2歳程、成長するようだ。

 恐らく、今は18歳くらいのハズだ。


 例の辻褄つじつまわせで、身につけている衣服が変化する。

 ステータスの数値も高くなったようだ。少し筋肉質になっていた。


 周りの人間は、この変化に違和感を覚えないようだ。

 ただ、ここまで成長するとイスカも俺を男性として意識するらしい。


 いつものように近づくと距離を取られてしまった。

 少し悲しい――いや、高校生の頃にも経験した事がある。


 それまで普通に接していた女子に、露骨ろこつに距離を取られた。

 まあ、嫌われているワケではなく、接し方が分からないだけだろう。


 その内、落ち着いたので――イスカの件も――今は深く考えないことにする。

 そもそも、あの当時は俺も緊張して、上手く女子と話せなかった。


 別に好きとか嫌いとか、そういうワケではないのだが、不思議なモノである。

 まあ、自分の個性キャラも確立しなければいけなかったので、それも原因の一つだろう。


 男友達と話すノリでOKだよ!――という女子もいるのだろうが、れしいのを嫌がる女子もいる。


 優しく丁寧な接し方の方がいい――というのも一理あるだろう。男子の方が力は強いし、大人しい性格の女子からすると『怖い』と感じるのかもしれない。


 姉や妹が居ると良かったのだろうが、一人っ子なので、その点の配慮が俺には難しかった。


 今なら漫画やアニメの話でいいのだろうが、当時のオタクは犯罪者予備軍である。

 オタクを隠しつつ、流行りのドラマを観て、カラオケで歌う歌を練習しなければならない。


 今から思えば、中学高校と無理をしていたモノだ。

 だが、集団生活をする上で皆に合わせなければ、イジメにってしまう。


 クラスに一人はヤンキーがいたような時代だ。

 目を付けられないようにする必要もあった。


 勉強や運動が出来てもダメ。女子に人気があってもダメ。

 個性を殺しつつ、個性をみがくというのが、俺の学校生活だった。


 この時『本気で好きだ』という趣味と出会うことが出来ていれば、ブラック企業などに入らなくても済んだのだろうか?


 当時は『女子という生き物は男子と違うのだ』と考えていたのだが、結局は同じ人間だと気付く。


 どうも、年齢が若いほど、異性の存在は意識してしまうらしい。異性と接する経験も少ないため『上手く話すことが出来ない』というのは普通のことだろう。


 男子の視点でしか考えていなかったが、実際に男子と楽しそうに話している女子は、全体からすると少ないようだ。


 男子同様、多くの女子も男子と上手く話せなくて悩んでいるらしい。

 結果、自分から会話を盛り上げ、相手を楽しませようとするから失敗する。


(主に梅吉が……)


 今思えば全然、そんな事をする必要はない事が分かる。ただ、女子の場合は男子から話し掛けられるパターンが多いので、その辺が男子と女子の違いだろうか?


 男子という生き物は単純なので、自分の話をしっかりと楽しそうに聞いてくれるだけで、相手の女子を好きになってしまう。


 女子の方がイージーだと言われる原因は、この辺にあるのかもしれない。

 上手く話せなくても、笑顔で聞いていれば、相手の男子は勝手に好意をいだく。


 女子からすると男子もそうするといいのだろう。

 だが、そう上手くはいかない。


 まずは『他人ひとから話し掛けられやすい』と思われる努力をする必要がありそうだ。


(後でイスカに花でもプレゼントするか……)


 一方で子供であるミヒルの方は相変わらず、甘えん坊のようだ。

 俺の背中に飛び乗ってくる。背が伸びたので、以前ほど邪魔にはならない。


 取りえず、体格差もあるので肩車をする事にした。

 こっちの方が安定するようで、ミヒルも気に入ったらしい。


(想定していた以上に、時間が掛かってしまったが……)


 これでようやく【終末の予言】に対し、手を打つ事が出来る。

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