第六章 砂漠の都市

第91話 変化(1)


「ワレの〈絶望のオーラデゼスプワール〉を使用すれば……」


 人間たちを無傷で倒すことなど容易たやすいデス――とナトゥムが俺に提案する。

 何故なぜかフランス語で翻訳される。


 お洒落しゃれに聞こえるからだろうか?

 当然、俺は却下きゃっかした。


 あの舞台ステージの面積で、相手を無傷で倒すには、確かに有効な方法だが〈絶望のオーラ〉など使われては、その後、俺が魔王のようなあつかいを受けてしまう。


 かといって真面目に武器を使って戦ったのであれば、惨劇の始まりである。

 武器には『砂』を使用し、動き回る作戦をとる事にした。


 石畳の舞台ステージの上に砂漠で集めた砂をき『足場を不安定する』というだけの作戦だ。スライムの時のように、相手にぶつけるのが目的はではない。


 だが、俺が取り出した砂は――技能スキルの効果で勝手に――進行方向へと飛び出す。

 まずは床へ向けて発射する。


 更に俺が高速で動き回ることによって、いた砂はい上がるハズだ。

 目に入ると厄介だろう。


 舞台ステージの上の参加者は手で顔を防御ガードする必要がある。

 片手がふさがってしまうので攻撃力、防御力ともに半減だ。


 加えて足元の砂が動くため、転びやすくなっている。

 要は相手の手数を減らす作戦だ。


 俺には〈ワイドウォーク〉があるため、短時間なら足を取られる事もない。

 後は適当に押し出すことで参加者を場外へと突き落とし、失格にする。


舞台ステージを掃除しなければならない見習い神官たちには申し訳ないが……)


 勿論もちろん、俺がった手立てはソレだけではない。街を襲撃しゅうげきしたジャイアントスコーピオンの内、1体を倒した狩人の青年をやとい、味方に引き入れた。


 魔結晶を渡すと、簡単に引き受けてくれたので助かる。

 一人で戦わなければならない――という規定ルールではないので問題ないだろう。


 むしろ、集団での『勝ち抜き戦バトルロイヤル』なので、他にも徒党を組んでいる連中はいるハズだ。また、あの時一緒にいた女剣士にも声を掛ける。


 こちらは舞台ステージの上の人数が減るまで「お互いに協力しよう」という協定を結ぶ。

 敵に回らなければいい――という判断だ。


 戦争でも傭兵ようへいやとうのは『敵に回るのを防ぐため』と聞く。

 2人には事前に作戦を伝え、防塵眼鏡ゴーグルを用意してもらっていた。


 俺がジャイアントスコーピオンを倒したのは知っているので、実力は理解しているようだ。特に俺をうたがう様子はない。


 そして、翌日の会場――苦戦したワケではないが――厄介な大男にからまれる。

 試合が始まる前に、


「お前みたいな子供が出るのか?」


 と見下される。「中身はオッサンだ」と言っても信用されないだろう。

 親切心かもしれないが、余計なお世話である。


 狩人の青年も女剣士も俺の実力を知っているためか、助けに入るような素振そぶりりは見せなかった。


 まあ、協力関係にあるのなら、直前まで関係ないフリをした方が効果的だ。


「悪い事は言わない、帰ってママのおっぱいでもってな……」


 アッハッハ!――大男にお約束ともいうべき因縁を付けられてしまう。

 一目置かれている戦士だったようなので、放って置くことにする。


 戦いが始まれば、他の選手を場外へと落としてくれるだろう。

 最後まで残しておく事にする。


 ――以上が俺の作戦だ。


作業工程フロー完了……)


 砂をく作戦で舞台ステージの上の参加者を半数倒した後、その大男と対峙することになった。


 手強てごわいかと思い、つい打撃を加えてしまったのだが――数名の参加者を巻き込み――場外へと吹っ飛んでしまう。


(しまった……)


 り過ぎたと思い後悔したが、大男は生きているようだ。

 頑丈がんじょうだったようで安心する。


 貴重な戦力を失う所だった。

 どうやら、意識した打撃は体術にふくまれるらしい。


 その様子を見て、狩人の青年と女剣士は舞台ステージから降りた。

 共闘という約束だったが、俺に勝利をゆずってくれるようだ。


 他の連中もソレに続き――結果、俺が優勝してしまう。どうにも参加者たちの間では、俺がジャイアントスコーピオンを倒した事がうわさになっていたらしい。


 この結果が予想外だったのは俺よりも、主催者側である神殿の連中だったようだ。なにやらさわがしい様子だった。


(これは選びなおしか?)


 俺が子供ということで『選定者としての権利を剥奪はくだつされるのでは?』とも心配したが、それは大丈夫だったようだ。


 流石さすがに大勢の人間の前で実力を見せた俺を失格にするのはむずかしいらしい。

 イスカの祖父である老戦士は神殿側の幹部と知人だったようだ。


 なに口添くちぞえしてくれたのかもしれない。

 結論から言えば『勝ち抜き戦バトルロイヤル』を制した。


 そして『神器選定の儀』を受けた俺は無事に【神器】である『豊穣の杖』を手に入れる。


 手始めに少女からもらった『リンゴ』の種を取り出す。

 果実がみのるには色々と条件があるのだが、そこは魔法のある世界だ。


 神の御業みわざといっても過言ではない。

 無事に果実をみのらせることに成功した。


(これで食糧の心配をする必要はなくなったな……)


 ただ、予想以上にMPを消費してしまったようだ。

 俺には〈ウォーキング〉という技能スキルがあり、最初に習得している。


 歩くと経験値が手に入る〈ウォーキング:EXP〉。

 HPが回復する〈ウォーキング:HP回復〉。

 MPが回復する〈ウォーキング:MP回復〉。


 本来なら、これらを活用することで、のんびりと旅をしながら強くなるハズだったのだが――


何処どこで、どう間違えたのやら……)

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