第89話 猫散歩(2)


「行くニャ♪ 行くニャ♪」


 とミヒル。退屈なのは分かったが、さわぐのなら俺の背中から降りて欲しい。

 身体能力ステータスを強化したので、力が有りあまっているようだ。


 彼女自身が身体からだの使い方にれるまでは、子供たちと遊ぶのはひかえさせよう。人間相手に力を使ってしまった場合『うっかりり過ぎてしまった』では済まない。


「じゃあ、行ってくる」


 俺が言うと「行ってくるニャ♪」とミヒルも真似まねをした。


「はい、暗くなる前に帰ってきてくださいね」


 イスカにそう言われ「分かっているさ」と俺は返したのだが――本当ですか?――そんな目で彼女に見られてしまう。やれやれ、信用されていないらしい。


 俺はエーテリアに視線を向けると「大精霊にちかって」とイスカよくやっている姿勢ポーズ真似まねする。


 イスカは――仕方ないですね――そんな表情を浮かべると、


「夕飯を準備して待っていますからね」


 そう告げる。俺としては、そこで初めて食事を抜いていた事に気が付いた。

 昼を食べていないが、それはミヒルたちも一緒のようだ。


 食糧が足りていないのもあるが、食事は朝と晩の『2回のみ』なのだろう。

 子供たちに関しては量を少なくして、回数を増やした方が良さそうだ。


(オヤツにドライフルーツみたいな物があるといいのかもしれないな……)


 そうなると『デーツ』みたいな植物を探した方が良さそうだ。

 食物繊維とマグネシウムを豊富にふくむ。


 その事からダイエットや美容に効果があり、人気だと聞く。

 日本ではドライフルーツで売られていたのを、よく目にした。


 『自然のキャンディー』と呼ばれているようで栄養価が高い。様々なミネラルとビタミンもふくんでいて、登山家やスポーツ選手の間でも食べられているようだ。


 乾燥地帯に住む砂漠の遊牧民や、オアシスに住む人たちにとっては大切な食糧らしい。『リンゴ』があったことから探せば、この辺りでも手に入る可能性は高い。


 後で商業区画エリアのぞいてみよう。だが――


(明日のためにも、まずは情報収集だ……)


 居住区画エリアといっても砂の上だ。四角く幕舎テントを並べ、生活する場所に風や砂がこれ以上、入らないようにしている。


 どうやら、日が暮れてからは居住区画エリア間の移動は制限されるらしい。

 治安維持の観点からだろう。


 四角い配置の幕舎テントたがいに監視もしやすそうだ。

 そういった意味では、むしろ内側の守りに強いのかもしれない。


 俺とミヒルは子供たちに見送られ、中央にある神殿へと向かっていた。

 行きう人々の姿がめずらしいのか、ミヒルは落ち着かない様子だ。


 また、基本的に大人が怖いらしい。機敏きびんに動けるようになったにも関わらず、俺の背中から降りようとはしなかった。


 幕舎テントは四角い形のモノが多く、道も舗装ほそうされていない。

 区画エリアごとに四角く区切られてはいるが、同じような景色が続く。


 日本によくある碁盤目ごばんめ状の街路がいろもうだ。

 目印になるようなモノがないため、逆に迷いそうになる。


 日本の場合は8世紀末の平安京が起点だろうか? 縦長の国土を考えると『蜂の巣状』や『三角形』の方が隈無くまなく区画化できそうな気がする。


 まあ、容易に目的地へ辿たどり着ける事が理由なのだろう。

 豊臣秀吉も都市建設で、中心市街は碁盤目状の街路網にしたようだ。


 徳川家康の都市建設にも、そのような傾向けいこうが見られる。

 そのため、大阪や名古屋の中心市街は碁盤目状の街路を基礎としているそうだ。


 ただ、江戸の場合は火事が多かった。

 被害を防ぐために家を取り壊し、また復興も行わなければならない。


 街を碁盤目状にする方が利点メリットがあったようだ。

 この街の連中が、そこまで考えているかは分からないが――


(中央に見える神殿を目印にして歩くか……)


 ある程度、人の流れが決まっているようだ。商業区画エリアがあるのだろう。

 興味はあったのだが、今は後回あとまわしにする。


 人の流れから外れてしまったので、やや不安にはなった。

 だが、中央の神殿を目指して歩いたおかげか、迷わずに神殿へと辿たどり着く。


 外敵から街を守るために迷路状の街が誕生した話は有名だが、土地勘がなければ迷ってしまうだけだ。難民が多いようなので、碁盤目状の方が合理的なのだろう。


 人の管理も容易だ。しかし、これでは守備が弱い。

 急いで城壁を作った方がいいだろう。


 ただ、それには壁を造るための材料がない。


(まあ、無いなら作るだけだが……)


 神殿の周囲にはまだ緑が残っているらしく、砂の影響も少なかった。

 これが『神のせるわざ』というヤツだろうか?


 入口のある門の前には、見張りの兵が2人立っていた。

 早速、話しをしてみたのだが『立入禁止』だそうだ。


 出入りを自由にしてしまうと幕舎テントではなく、神殿で寝泊ねとまりするやからが出るらしい。

 本来なら神殿が積極的に、そういった人々を支援しそうな気もするが――


(今は、その余裕すらないようだな……)


 ヤレヤレである。俺とミヒルも根無ねなし草の同類だと思われたのかもしれない。

 もう少し情報を聞き出したかったが、目を付けられても面倒だ。


 早々に引き下がる事にした。


「帰るのかニャ?」


 ご主人?――とミヒル。

 俺が兵士に会釈えしゃくをし、あっさりと引き下がった事を疑問に思ったのだろう。


「いや」


 俺は短く答えると、適当な物陰に隠れる。

 同時に周囲を警戒けいかいし、誰にも見られていない事を確認した。


 目の前にあるのは神殿を囲む壁だ。

 そこまで高くはないが、ゆっくりと登っていたのでは、すぐに見付かってしまう。

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