第87話 老害はそこにいる(2)


 『勝ち抜き戦バトルロイヤル』で優勝して――


(この街の人間を制御コントロールする方向で考えよう……)


 俺はそう考えた。正直なところ『街の人たちを逃がすのも手だ』と思っていたのだが、どうやら一部の人間たちは『ここを死に場所にする』と決めているようだ。


 戦える人間はそれでいいのかもしれないが、のぞまない人間――女子供、年寄り――に戦いをいるのはこくというモノである。


 また『勝ち抜き戦バトルロイヤル』になると明らかに実力差が問題になってくるハズだ。

 そうなると怪我人が出る可能性も高い。


 これから魔物モンスターたちと戦わなければならないのに、負傷者を出して戦力を減らすのもバカげている。


 今回の〈神器選定の儀〉が最後になると思い、上の連中は民衆とめるのをけたつもりなのだろう。


 自分たちが選んだ人間が〈神器選定の儀〉に失敗すれば、その責任や失望の矛先は神殿や上流階級へ向けられる。下手をすると暴動が起きかねない。


 上層部は疲弊ひへいしているが、集まった人間たちは魔物モンスターと戦う準備を始めている。

 恐らく、暴動が起きた場合――


(今の上層部にはソレをめる兵力は残っていないのだろう……)


 神殿側の人間は――自分たちが選んだ人間が失敗するより、民衆が選んだ人間が失敗する方がダメージは少ない――そう考えたようだ。


 一見『民衆に選ばせる』というていしてはいる。

 皆で決めた事なのであきらめよう。


 そんな空気に持って行く事は可能なのかもしれない。

 だが、俺から言わせれば――


(思考停止に近い……)


 恐らく、上層部の連中は最初からあきらめているのだろう。

 戦いは勇気のある者に任せ、自分たちはとみを持って逃げ出す。


 そして、新天地で『またり直せばいい』と考えていそうだ。

 一時いっときの平和を手に入れても、この都市が落ちれば人類は終わるだろう。


 今まで見てきた都市がそうであったように、敵は神殿をねらっている。

 神々の奇跡きせきなくしては、人類に勝利はない。


 それに今のままのり方では――


(結局、犠牲ぎせいになるのは弱い人間たちか……)


 ブラック企業に限った話ではないが、会社の役員が行き成りフロアの掃除やボランティア活動に目覚める事があるそうだ。


 当然、下の人間たちは、それに付き合わないワケにはいかない。

 管理職としては――部下を巻き込まないで欲しい――といった所だろう。


 しかし、役員の老害をめる手立てはないようだ。

 動物は基本的に、生殖機能がなくなれば寿命がきる。


 だが、人間は長生きをする。これは年齢を重ねた事で得た経験を後世に伝えることで『子孫を繁栄はんえいさせやすくする』という説があるようだ。


 分かっているとは思うが、現代の日本には当てまらない。他にも『自説を曲げない』『怒りっぽい』『価値観を押し付けてくる』などが有名な問題行動だ。


 令和の始め『○○警察』と呼ばれるような人たちが居た事が、いい証拠しょうこだろう。

 基本的に近寄らないようにするしかない。


(まあ、俺がいたブラック企業の場合……)


 「判断するのが早い!」「3年は働け!」と言われる事の方が問題だった。

 高齢者の場合は『孤独こどく感』や『自己じこ顕示欲けんじよく』が原因だが、これは違う。


 言葉の意味は「今、められたらオレが困るじゃないか!」「オマエは奴隷どれいでいろ!」だ。転職がむずかしかったため、相手も必死だったのだろう。


 この他にも洗脳の言葉としては「仕事をなめるな!」「仕事を楽しんでやれ!」「仕事に遣り甲斐がいを感じろ!」だっただろうか?


(「仕事を一回で覚えろ!」というのもあったな……)


 単純な仕事ならまだしも、仕事の意味を理解していないと難しい。

 だが「何故なぜこの仕事が必要なんですか?」と聞いても怒られるだけだ。


 結局は「前にも言ったよね?」「そん事も出来ないの?」と嫌味を言われてしまう。昭和上司の半分はパワハラで出来ているらしい。


 遣り方が決まっている仕事なら『手順書』や『チェックリスト』を用意しておくべきだし、新人相手なら作らせることで勉強になるだろう。


 仕事に対する苦手意識を植え付けて、なにが楽しいのか理解できない。

 当時はそれで良かったのだろう。


 だが、PCや携帯電話が普及した時代――昭和みたいに――仕事は単純ではないのだ。現代は更にリモートワークやスマホが普及している。


 会社をめた今なら分かるが正直、社員をダメにする言葉ばかりが浮かぶ。


(自分の価値は自分が決める!)


 と言い切る事が出来ればいいのだが、中々そうもいかない。

 世の中には『物差し』が存在する。


 学歴、年収、会社、友達の数など、世の中の『物差し』を意識しまうと、自分の評価が低い事が分かってしまう。


 大抵の人間は『自分は認められていない』と感じて、心をむ。

 誰だって最初は『誰かの役に立ちたい』と思っていたハズだ。


 『頑張れば出来る』と自分を信じたハズだ。

 そこに老害も新人も関係ない。


 人はいくつになっても『必要とされる人間でいたい』と願っている。

 俺はミヒルのステータス画面を操作しながら、そんな事を考えた。


「ニャニャ?」


 彼女の中で変化があったのだろう。

 種族レベルは10へと上がっていたので、種族技能スキルを設定する。


 本来なら将来を考えて、りたい事をばしてやる方がいいのだろう。

 だが、今は魔物モンスターとの戦いに勝たなければ、生き残ることすらむずかしい。


 ミリアムの時と同様に身体能力を中心に強化してみた。

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