第84話 少女と林檎(3)


 俺は素早く移動すると、くずれかけた幕舎テントの隙間から砂漠へと出た。

 まだ遠くにいる――というよりは、なにかを追いかけているようだ。


 そして、追いかけてられているのは商人だろうか?

 馬車に荷物を積んでいるようだが、重いためか速度スピードが出ないようだ。


 随分ずいぶんと砂煙を巻き上げていた。

 追いかけているのは、ジャイアントスコーピオンが3体。


 この分だと、すぐに追いつかれるだろう。

 ジャイアントスコーピオンは決して弱い敵ではない。


 だが、俺としては戦いれた相手でもある。更に速度を上げ、移動したつもりだったが、ジャイアントスコーピオンの内1体が馬車に追いついていた。


 その大きなハサミで馬車を押さえる。

 当然、馬車の速度が落ち、急停止した。


 馬車をいている地走鳥ロックバードよりもジャイアントスコーピオンの方が力は上のようだ。

 急停止した反動で、馬車から人が落ちる。


(子供だろうか?)


 砂の上なので、怪我はないと思いたい。

 ジャイアントスコーピオンの内、残りの2体がそちらへと向かった。


 俺はそのジャイアントスコーピオンの間をうように移動し、子供を拾うと御者台の男へ「落とし物だ」と言って渡す。


 ジャイアントスコーピオンとしては、獲物を横取りされた感覚なのだろう。サソリに人間のような感情があるとも思えないが、両手のハサミを振り上げ威嚇いかくしている。


(まるでカニだな……)


 でると赤くなるのだろうか? 勿論もちろん、食べるつもりはない。

 ただの興味きょうみ本位ほんいである。


 俺はただ相手に接近したワケではない。

 迫ってきたジャイアントスコーピオンに対し〈ホーリーウォーク〉を発動させた。


 地面から伸びる光の柱により、2体の動きを封じた後、馬車の後ろに取り付いていた1体を戦斧バトルアクスで両断する。


 生命力は強いようで、身体からだを真っ二つにされても、しばらくは生きているらしい。

 頭をつぶしたい所だが、サソリ相手に正面から突っ込む勇気は、俺にはなかった。


 エーテリアに頼めば、解毒はしてくれるのだろうが――


(やはり毒針は面倒だ……)


 HPが減るだけならいい。

 だがき気がしたり、呼吸が出来なくなったり、手足がしびれたりしそうだ。


 恐らくだが、サンドワームが食用として利用しなかったのも、ジャイアントスコーピオンの持つ毒を警戒しての事だろう。


 そして、その行動が、あの巨体へと成長した最大の理由だ。

 地球にも『ジンベエザメ』や『シロナガスクジラ』が存在する。


 彼らは巨体でありながら、水中の小さなプランクトンをエサにしていると聞く。

 プランクトンが主食であるからこそ、身体からだが大きいそうだ。


 巨体であるため、一度に沢山の海水を飲み込める。

 結果、効率良くプランクトンを食べることが可能だ。


 プランクトン同様に、ゴブリンも群れでいるため、一度に捕食することが可能となる。ゴブリンばかり狙っていたのも、そう考えると納得がいく。


 また、この方法なら他の魔物モンスターとエサの取り合いをする必要ない。

 身体からだが大きいという事には、それなりの理由がある。


 ただ、ゴブリンが居なくなってしまったため、他の魔物モンスターがエサに困ったのだろう。


 砂漠で他の種類の魔物モンスターたちと遭遇そうぐうしなかったのは、そういう理由なのだと思われる。


 巨大サンドワームが居なくなった今、砂漠で最強なのはジャイアントスコーピオンだ。他の魔物モンスターたちはサソリのエサになったと考えるのが自然だろう。


 現在、この砂漠ではエサの奪い合いが起こっているようだ。ジャイアントスコーピオンたちは群れで行動していたワケでなく、限られた食糧を奪い合っていた。


 そんな所だろう。行動原理が分かれば、対処法もおのずと見えてくる。

 今回は駆除してしまって問題ないだろう。


 残りの2体を始末しようとして近づいたのだが――


(死んでいる?)


 戦斧バトルアックスを振り上げたが、誰かが急所に一撃を加えたらしい。

 弓矢のようだ。ジャイアントスコーピオンの頭部がつらぬかれていた。


 考えるのは後にして、最後の1体を俺は仕留しとめた。

 一先ひとまず、これで安心だ。


 御者台に居たのは老人で、街へと水を運ぶ途中だったらしい。

 そこを運悪く、ジャイアントスコーピオンに見付かってしまった。


 危険ではあるが、簡単な仕事であるため、役に立たない老人やお金に困った子供が引き受けているようだ。


 思うところはあったが、取りえず、2人に怪我がないことを確認する。

 まあ、老人の方は自分のことよりも、馬車を心配していた。


 大丈夫なことに安堵あんどしている。

 街の方から「おーい」と声が聞こえた。


 先程の女剣士だ。こちらへ走って向かってくる。

 だが、それよりも、いつの間にか近くに立っている男の方が気になった。


 恐らく、矢を撃ったのは彼だろう。

 いつ、何処どこから現れたのかは分からない。青年のようだが、


「必要なかったようだな」


 と言いつつ、消えていくジャイアントスコーピオンの死骸しがいを調べているようだ。

 ドロップアイテムでも探しているのだろうか?


「ほら」


 と言って俺は魔結晶を渡す。

 〈アイテムボックス〉へ勝手に入ってしまうのだから仕方がない。


 男は一瞬、おどろいた表情を浮かべたが、矢を回収するとっていった。

 悪い人間ではなさそうだが、なんとも取っ掛かりがない。


「君、すごいな!」


 とは女剣士だ。青年と入れ替わる形で現れた。

 わざわざ、ここまで走ってきたようだ。ハァハァと息を切らせている。


(これから、また街へ戻るのだが……)

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