第82話 少女と林檎(1)


「カムディはどうしたんだ?」


 姿が見えなかったので、俺は聞いてみる。すると、


「〈神器選定の儀〉へユイトくんを参加させるため、申し込みに行っています」


 イスカは答えた。


「ご主人なら、ゆーしょーニャ♪」


 そう言って、頬をせてくるミヒル。いつもなら――勝手に登録しないでくれ――と思う所だが、今回に限っては助かる。


(いや、それよりも……)


「今、優勝と言わなかったか?」


 俺の質問に対し「うにゃあ?」とミヒルは首をかしげた後、


「ご主人、強いニャ♪ さいきょーニャ♪」


 満足そうに笑みを浮かべた。

 意味が分からない――というよりも、嫌な予感しかない。


 それではまるで、俺が戦うみたいだ。

 イスカへ視線を送ると、


「頑張ってください!」


 まるで「ファイトですよ♪」とでも言うかのように微笑ほほえんでいる。

 どうやら俺は対人戦をらされるようだ。


(別に戦闘狂ではないのだが……)


 それに人間相手なら、手加減がむずかしい。

 死人が出た場合、エーテリアに復活を頼めばいいのだろうか?


 3秒ルールでなんとか――いや、手加減をする練習をしないといけない。

 取りえず、カムディが戻ってくるのを待って、種目を確認しよう。


 まずはイスカの祖父でもある老戦士に報告をするのが先だ。

 魔結晶を見せれば、サンドワームを退治した事も信じてくれるだろう。


「ミヒルちゃん!」


 と子供たち。いつの間にか、俺の足許あしもとに集まってきている。

 その瞳を見る限り――遊ぼう――と言いたいようだ。


 ミヒルは一瞬、悩んだようだが、


「い、いそがしいニャ」


 と断る。俺がまた『何処どこかへ行ってしまう』とでも思っているのだろう。

 ギュッとしがみ付いてきた。


 この調子でくっつかれたのでは、動きにくい。俺の方も困るので、


何処どこにも行かないから、遊んでこい」


 俺はボールを〈アイテムボックス〉から選択し、取り出すと放り投げる。

 条件反射だろうか? 「ニャっ!」と言って、ミヒルはボールへ飛びつく。


 見事にキャッチし、着地したミヒルに対し、俺とイスカは拍手を送った。

 気分を良くしたのか、


「絶対ニャ? いなくならないニャ?」


 と質問するミヒル。どうやら、遊ぶ気になったらしい。


「用事を済ませてくるだけだ……」


 報告に行くだけだから、付いて来ても退屈だぞ――と付け加えると、


「分かったニャ♪」


 そう言って、ミヒルは子供たちと遊び始めた。

 だが、チラチラと俺を見てくる。


 どうやら、俺がこの場にいると気になるらしい。

 集中できないのは怪我けがの元でもある。


 ミヒルが子供たちと遊んでいる姿を見てから出掛けよう――と思っていたのだが、子供たちの面倒はイスカに任せた方が良さそうだ。


 俺は早々に老戦士のもとへと向かう事にした。

 『オルガラント』の状況も知らせなくてはならない。


 あの巨人たちと戦うには、この街の防衛機能では難しいだろう。

 問題は山積みだが、街の人たちと連携をとっていかなければならない。


 そのためにも、老戦士へ顔繫かおつなぎを頼む必要がある。

 幕舎テントの並びは、四角くなるように配置されていた。


 外からの風や砂の侵入を防ぐための配置だろう。

 そのため、空白となった広場の中央で見回せば、目的の幕舎テントはすぐに見付かる。


 しかし、老戦士は幕舎テントの中ではなく、外に居た。

 指示を出していたのだろうか? 近くには見たことのない人物も居た。


 身形みなりからいって、街の人間のようだ。

 来客中のようなので、俺は老戦士の補佐役に、また後でくるむねを伝える。


 老戦士も俺に気が付いたらしく、互いに会釈えしゃくわした。

 予定はくるったが――


(次は武器の手入れか……)


 折角せっかく、ハルバートを手に入れたので、使えるようにしておきたい。

 今の俺には攻撃力が足りていない。


 また、いくつか素材も集めてある。

 どんな使い道があるのか、把握はあくしておくだけでも役立つだろう。


 俺は鍛冶屋の馬車を見付けると、武具の手入れを頼んだ。

 特にカイトシールドは、本来と異なる使い方をした。


 優先して作業をしてもらうように依頼する。

 この街にも武器や防具を扱っている連中はいるらしい。


 場所を教えてもらったので早速、行ってみることにした。


(後は食糧の備蓄びちくか……)


 状況によっては『リディエス』へ探しに行くことも想定していたが、街に居る人口を考えると効率が悪い。別の方法を模索した方がいいだろう。


 まずは状況を確認するために、他の区画エリアにも行ってみることにする。

 基本的に四角く区切られているため、時計回りで順番に見て回るのが効率的だ。


 改めて気が付いたことは、中央にある建物が神殿だということだった。

 砂にもれていない――つまり、いい場所に建てられていたようだ。


 今まで見てきた他の街の様子からも、神殿が優遇されていた。

 この世界は神々の影響が――


(余程、強いらしい……)

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