第81話 社畜の帰還(4)


 砂漠を進んでいると、人工物的なモノが見えてくる。

 同じような大きさのモノが一直線に並んでいた。恐らくは、街なのだろう。


(それにしては、いびつな感じがする……)


 違和感を覚えつつ、俺はその場所を目指す。一応、速度スピードは落とした。

 急接近してもおどろかせる可能性が高い。


 ある程度、近づくことが出来たので、後は歩いて向かうことにする。

 石を積み上げた壁が所々にあり、それが城壁のようだ。


 ただ、かなりの間隔で隙間が空いている。

 それに所々くずれていてボロボロだ。


 これでは街を囲う壁としての意味がない。

 砂や風を防ぐにしては、心許こころもとないだろう。


 なんとなくだが、違和感の正体が分かってきた。

 俺は壁に近づくと、砂をってみる。


 バサッ!――技能スキルの効果だろうか?

 必要以上に砂が舞い上がってしまったが、今は気にしないことにしよう。


 それよりも――


(やはりか……)


 砂の上に作る石壁にしては、ブロックの大きさが小さいと思っていた。

 どうやら、壁は砂に埋もれているらしい。


 城壁の上の部分だけが、地面から姿を現しているようだ。

 つまり――氷山の一角――という事なのだろう。


(いや、砂漠なので、この表現も変なのだが……)


 元々、大きな街があり、ここは城のような場所だったのかもしれない。

 それが砂によって、もれてしまった。


 サンドワームが砂をいていた事から、砂漠化のいきおいは更に増していたようだ。

 今では、街のほとんどが『砂の下に埋もれてしまっている』というワケらしい。


 恐らく、埋もれてしまった城の上に幕舎テントを張って、街を作っているのだろう。

 石壁も本来の役割とは違うようだ。


 塔のような高い建物が残っていて――それが崩れたあと――と考えた方がしっくりくる。配置された幕舎テントや馬車は壁の役割をになっているようだ。


 真っ直ぐに並んでいるのも、違和感の正体の一つだった。

 壁の役割を果たしているらしい。


 俺の位置からでは分かりにくいが、上空から見ると四角く配置されているのだろう。

 そうすることで『街の中に砂が入らないようにしている』と考えることが出来る。


 しかし、これでは、ただの平地に存在する村と変わらない。

 多少、人口は多いが――


(この街を守るのは、難しそうだな……)


 サンドワームが襲撃をけていた理由の一つに、埋もれた街があるのかもしれない。地中を移動するのに、埋もれた建物は障害物となる。


 建物を飲み込めるほど、身体が巨大になるのを待っていたのだろう。

 あの様子では、全長が百メートルに成長していても、おかしくはない。


「まずは神殿に……」


 いや、ミヒルたちと合流するのが先か――と俺はエーテリアに声を掛ける。

 どうにも、独り言のように見えてしまうだろう。


 人目のある街中では、気を付けなくてはいけない。

 幕舎テント沿いに歩いていくと、内側に入れそうな場所へと辿たどり着く。


 見張りの兵がいるようだ。槍を持ち、白い布で全身をおおっている。

 正直、あまり強そうには見えない。


 ここが『アレナリース』である事を確認すると、兵士たちに事情を話す。

 そして、イスカたちの場所を聞く。着いたのは昨日か今日だろう。


 馬車を停めた場所は、街の外側のハズだ。

 兵士は「それなら」と場所を教えてくれた。


 また、規模に比べて、守りが手薄な気がしたので「なにかあったのか?」と聞いてみる。すると――


「近々〈神器選定の儀〉をり行うため、代表の選定中だ」


 と教えてくれた。人々の多くは、そちらに行っているらしい。

 どうにも【神器】を得るためには『選定者』になる必要があるようだ。


 急いだ方がいいのだろうか? だが、誰でも【神器】を得られるワケではない。

 取得には【根源】が必要となるハズだ。


 俺はエーテリアに視線を送ると――もう少し、情報を集めるよう――と合図をする。コクンと彼女はうなずいた。


 兵士に礼をいい、俺は教えてもらった方角へと歩き出す。

 すると見覚えのある馬車や幕舎テントが見えてきた。


(間違いなさそうだな……)


 ミヒルたちは無事に到着しているようだ。

 エーテリアも心配していたのか、胸をろす仕草をする。


 幕舎テントの設営も始めたばかりらしい。まずはイスカたちを見付けなくていけない。

 そう思い、周囲を見回しながら歩いていると、


「ニャー♡」


 なにかが飛び掛かって来る。まあ、声からしてミヒルだろう。

 俺の顔へ抱き付いているらしく、前が見えない。


「ご主人! ご主人! ご主人!」


 ニャニャニャニャニャニャニャーッ♪――とミヒル。

 ピンと立てた尻尾を小刻こきざみにふるわせているのだろうか?


 頭が揺れるので、俺は両手を使い、引きがした。


「ご主人、お帰りですニャー♡」


 とミヒル。すごく嬉しそうにしている。

 俺としては、随分ずいぶんと言葉が流暢りゅうちょうになっていたのでおどろいてしまった。


 周りの子供たちの影響だろうか? 一緒に遊ぶことで、学習したらしい。

 数日離れただけだが、子供の成長は早いようだ。


 悪いが、お土産はないぞ――と言っておけば、いいのだろうか?

 まるで出張帰りの父親の気分だ。


 離れたくはないのか、地面へ降ろそうとするとミヒルが抱き付いてくる。

 仕方なく、抱きかかえると、


「お帰りなさい」


 と女性の声。見るとイスカが子供たちと手をつなぎ、微笑ほほえんでいた。

 気恥きはずかしさもあったが、


「ただいま」


 と俺は答える。どうやら、ここはそういう場所らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る