第79話 社畜の帰還(2)


 俺たちは一度、遺跡の近くまで戻る。

 戦闘があったことは把握はあくしていたようだ。


 グガルとダタンが警戒しつつ、心配そうな面持ちで待機していた。


(表情の変化が分からないので、俺が勝手に想像しているだけだが……)


 状況を報告するため、眠っている蜥蜴人リザードマンたちを起こすことにする。

 俺は顔にかぶせていた花を取り、焚火たきびの中へとてた。


 一方でガハムは大人しくしている。

 なにか言われる――と思っていたのだが、拍子抜ひょうしぬけだ。


 だが、完全に納得してくれたワケではないのだろう。

 しかし、他の蜥蜴人リザードマンたちを説得してくれるのを手伝ってくれるらしい。


 『竜殺花』クリムゾンカルネージの駆除については強行する予定だったが、反対されないのであれば、精神メンタル面で仕事はりやすくなる。


 『白闇ノクス』と対峙たいじした今、危険な存在だと認識したようだ。『竜殺花』クリムゾンカルネージが『白闇ノクス』の仕業であるのなら――このままにはしておけない――という判断なのだろう。


 蜥蜴人リザードマンたちが起きるには、まだ時間が掛かりそうだ。

 俺はミリアムと一緒に遺跡の中へと入る。


 取りこぼしのないように確認してもらうためだ。

 遺跡にえた『竜殺花』クリムゾンカルネージを順番に駆除して行く。


 この作業を何回なんかいか繰り返さなければならない。

 花粉の影響があるため、残念ながら蜥蜴人リザードマンたちは遺跡の外で留守番だ。


 一度に終わらせたい所だが、それでは大量の毒煙が発生してしまう。

 また、大人数で入るのは得策ではない。


 最初の予定通り、数カ所の『竜殺花』クリムゾンカルネージを駆除しつつ、時間を置いて、毒煙が消えるのを待ちながら作業をする。


 遺跡から出ると、蜥蜴人リザードマンたちが意識を取り戻していた。ガハムにも手伝ってもらい、状況の説明と『竜殺花』クリムゾンカルネージの駆除を行うことについて説得する。


 半信半疑といった様子だったが、ミリアムの言葉も大きかったようだ。

 特別な力を持っているのか、何度なんど蜥蜴人リザードマンたちの危機を救ったことがあるらしい。


 グガルとダタンが教えてくれた。水のある場所が分かったり、嵐のおとずれを言い当てたり、敵が来るのを察知したりしているようだ。


「『精霊族ソリス』の声が聞こえるのかもしれませんね♪」


 とエーテリア。誰にも聞こえないハズだが、えて俺の耳元でささやく。

 皆の手前、平静をよそおう必要がある。


 くすぐったくはないが、今は十代の少年の身体からだだ。

 すぐに反応して顔に出るので、過度の接触はめて欲しい。


(イスカと同じく、彼女も巫女みことしての資質を持っているのだろうか?)


 いや、エーテリアのことは見えていないようだ。

 【精霊使い】といった能力なのだろう。


 この世界はレベルやクラスアップの概念がある。

 条件を満たすことで、資質のある者は能力が覚醒かくせいするのかもしれない。


 俺とミリアムは再び遺跡へと入り『竜殺花』クリムゾンカルネージの駆除を行う。

 周囲への影響はないようなので、この分なら後2回で作業は完了する。


 再び、遺跡の外へと出た。

 人体に影響があるといけないので、お互いに顔色や脈拍を確認する。


 や頭痛も大丈夫なようだ。


「アタイよりも……」


 とミリアム。彼女の視線の先には蜥蜴人リザードマンたちがいる。

 まだ、花粉の影響が抜け切らないらしく、本調子ではないようだ。


 地面に座り込んだまま、ぐったりとしている。

 もう少し休息が必要らしい。


「俺たちも休憩するか?」


 とうながしたのだが、ソワソワしているようだったので理由を聞く。

 どうやら、ミリアムはりに逃げた地走鳥ロックバードたちの事が心配なようだ。


 遺跡内の毒煙が消えるまで、まだ時間がある。

 俺は地走鳥ロックバードを探して『竜のかご』を探索することにした。


 グガルとダタンも周辺を見て来てくれるそうだ。

 『竜殺花』クリムゾンカルネージの駆除に加えて、地走鳥ロックバードの探索。


 すべての作業が終わったのは、すっかり日も落ち、月がのぼった頃だ。

 花粉の影響もようやく消えたようで、蜥蜴人リザードマンたちも元気になっている。


 俺たちは夕食をとりつつ、今後の方針について話し合った。

 そして、眠りにく。


 少し期待していたのだが、こちらも食糧不足のようだ。

 流石さすが地走鳥ロックバードの肉は食べないらしい。


 食用として、地走鳥ロックバードを育てている牧場もあるが、ここでは大事な移動手段だ。

 大切にされているのだろう。


 『白闇ノクス』から地走鳥ロックバードを解放したことは、思った以上に感謝されているらしい。

 翌朝、遺跡内の毒煙が消えたことを確認すると、全員で掃除をした。


 黒く炭化した『竜殺花』クリムゾンカルネージは袋に詰め『死の谷デスバレー』へと捨てるように指示する。


(本当なら俺が、運んだ方が早いのだが……)


 蜥蜴人リザードマンたちにも、仕事を残しておいた方がいいだろう。

 また、黙って持ち去る予定だったのだが、俺は『竜殺花の種』を見付けていた。


 『椰子やしの実』に近い形状を想定していたのだが『大きな栗』といった風体だ。

 流石さすがに『イガ』はない。


 ちなみに栗の場合、渋皮や鬼皮の部分が『実』に当たる。

 俺たちが普段、食べている部分は『種』らしい。


 栗のトゲトゲでもある『イガ』の部分は『皮』だそうだ。

 別にでて食べるつもりではないが「持っていってもいいか?」と確認する。


「ああ、構わないが……」


 と言われたのだが、どうにも様子が変だ。

 理由を聞くと、俺に「祭壇へ座って欲しい」と言った。


 外から来た者に対しては、それが仕来しきたりらしい。

 神様へ『この地へ入れてもいいのか?』おうかがいを立てるようだ。


 まあ『ごうに入ってはごうしたがえ』という言葉もある。


(もう、出て行くつもりだったので、順番が逆のような気もするが……)

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