第74話 人間族の能力(4)


 地走鳥ロックバードが一斉に走り出す。

 俺目掛けて――ではなく『白闇ノクス』の周囲をグルグルと回っているようだ。


 地走鳥ロックバードたちの周囲を回っていたので、はたから見ていたミリアムには、俺が追走されているように見えたのかもしれない。


 一応、警戒はしてみたがおそってくる気配はない。

 どうやら、地走鳥ロックバードを使って一度、身を隠すつもりらしい。


 向こうも『天空の女神エーテリア』の存在は感知しているのだろう。

 彼女の力を警戒しているようだ。


 巨大スライムと巨大サンドワームが倒された事は『相手も知っている』と考えた方がいい。『白闇ノクス』は、すべて女神エーテリアの仕業だと思っているのだろう。


 つまり、地球で起こった出来事について、詳しく把握できていない事になる。

 逆にいえば『俺は警戒されていない』と考えて良さそうだ。


 これは機会チャンスかもしれない。

 〈スカイウォーク〉の技能スキルで上昇しつつ、高い位置から周囲を確認。


 『白闇ノクス』を見付けると同時に、岩陰に隠れていた蜥蜴人リザードマンも視認する。

 状況は理解できてないが『出るに出られない』といった所のようだ。


 一方で『白闇ノクス』の形状は地走鳥ロックバードと同じでも、真っ黒な身体からだと嫌な気配は誤魔化しようがない。俺は『白闇ノクス』目掛けて石を投擲とうてきする。


 勿論もちろん有効打ゆうこうだになるとは考えていない。

 情報を集めるための――文字通り――布石である。


 ズポッ!――まるで、そんな音がひびきそうな具合で、小石が『白闇ノクス』の身体にしずむ。ダメージはないのだろう。


 小石は身体の中をゆっくりと通り、そのまま体外へ排出される。

 体外へ出た小石は速度を取り戻し、いきおいよく地面へと減り込んだ。


 多少の闇をまとっているようだが、小石自体に変化は見られない。『白闇ノクス』は、


「ピギィッ!」


 と声を上げると、走り回る地走鳥ロックバードの中へと溶け込んだ。

 砂煙の所為せいもあるが、影にもぐったのだろう。


 俺は上空から観察しつつ〈ホーリーウォーク〉を発動。

 走り回る地走鳥ロックバードの足元から、青白い光の柱が何本なんぼんも出現する。


 物理的なダメージはないようだ。ただ、動きが制限されるらしい。

 おどろいた地走鳥ロックバードたちは、慌てて立ちまった。


「ピーッ!」「ピキーッ!」「ピキャー!」


 と様々な声を上げ、くちばしを大きく開きつつ、バサバサと翼を広げる。

 中には片足を上げて硬直こうちょくした地走鳥ロックバードも居たが、転倒はしなかったようだ。


 軽く溜息ためいきき――


上手うまく、発動して良かった……)


 と俺は胸をで下ろす。これならエーテリアも許してくれるだろう。

 愛の試練に打ち勝った俺は『白闇ノクス』の姿を探した。


 案の定、光の影響えいきょうを受け。地面の中から押し出されるように姿を現わす。

 そのあわてっぷりから〈ホーリーウォーク〉の光は苦手らしい。


 地走鳥ロックバードたちを見捨て、逃げるように距離をとる。

 一方で地走鳥ロックバードたちは正気に戻ったようだ。


 キョロキョロと周囲を見回していた。

 一時的かもしれないが『白闇ノクス』による支配の影響から外れたのだろう。


 俺は声には出さず、ミリアムへ指示を出した。ステータス画面の応用だ。

 仲間が多少離れた場所にても、簡単な命令コマンドが可能らしい。


 ミリアムは片手で投石紐スリングを回しながら、ふところから笛を出し、


「ピッピキ、ピーッ!」


 と鳴らす。丁度〈ホーリーウォーク〉の光も弱くなっていた。

 次第に消失してゆく。技能スキルレベルが低いので持続時間が少ないらしい。


 また、一度発動させると、同じ場所に結界を展開させるには待機時間クールタイムが必要となる。俺は〈ホーリーウォーク〉の技能スキルレベルを上げた。


 これで持続時間が増え、消費コストや待機時間クールタイムは減るハズだ。

 地走鳥ロックバードたちは顔を上げたかと思うと、一斉に散開する。


 どうやらミリアムの笛は『逃げろ』の合図だったらしい。

 地走鳥ロックバードたちを遠ざけて欲しい――と指示したのだが、上手く伝わったようだ。


 ――ダダダダダ!


 地走鳥ロックバードたちは蜘蛛クモの子を散らすように居なくなってしまった。

 1羽――と言っていいのか疑問ではあるが、ポツンと『白闇ノクス』が取り残される。


 〈ホーリーウォーク〉で作り出した結界の光はすっかり消えていたので、再び威勢いせいるう気のようだ。


「ピギャーッ!」


 と声を上げ、翼を広げると、逃げた地走鳥ロックバードたちを追走しようとする。

 しかし、そこで俺が『白闇ノクス』の前に着地した。


 同時に一歩分の〈ホーリーウォーク〉を発動。俺の足元が光る。

 おどろいて、『白闇ノクス』はった。


 俺を警戒しているワケではなく〈ホーリーウォーク〉による結界を警戒したのだろう。余程、苦手のようだ。


 だが、相手の身体からだに触れるのは、俺にとっても危険な行為こういと考えていい。

 素早く石で小石をはじく。


 相手は〈ホーリーウォーク〉を警戒したのだろう。

 目があるのか分からないが、俺から視線をらさずに器用な動作で小石をけた。


 手加減したとはいえ、少しみょうだ。ける必要などないハズである。

 つまりダメージは受けないが――


(体内に異物が混入している状態だと、なんらかの制限が掛かる……)


「コイツが遺跡に植物を繁殖はんしょくさせた犯人だ!」


 俺は声を上げると三投目をかぶり、


「力を貸せ!」


 大きく曲がるように投げた。狙いは『白闇ノクス』ではない。

 だが、相手は俺がはずしたと思ったようだ。


「グエグエッ!」


 と愉快ゆかいそうに笑った。まるで人間のようで、少しイラつく。

 しかし、その余裕もすぐになくなるだろう。


 ガハムが仲間になりました――とメッセージ画面が表示される。

 作業工程フローは完成した。

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