第73話 人間族の能力(3)


 職能クラスがない場合、種族が代わりとなる。

 ミヒルの時もそうだったが、レベルは最大10までしか上がらないようだ。


 彼女の時は『気が付かなかった』というよりも、本格的な戦闘要員としては考えていなかった。今後の成長に期待はしていたが――


魔物モンスターに狙われても抵抗できる力がつけばいい……)


 そんな考えの方が強かった気がする。

 どうやら、種族技能スキルというのを覚えられるらしい。


 俺も『余裕があれば、レベルを上げておこう』と思ったのだが、すでにレベルは10に達していた。


(まあ、中身はオッサンだしな……)


 ある意味、人として『これ以上は成長しない』と言われているようだ。

 覚えられる技能スキルもパッとしたモノがない。


 『人間種リーン』というのは、状況に応じて変化するバランスタイプなのだろう。

 取りえず、筋力や体力などを上昇させる技能スキルを習得する。


 HPが上がるだけでも、だいぶ違うハズだ。

 俺とミリアムの基本ステータスを底上げしておくことにした。


「おおっ! 力があふれてくる」


 とミリアムは大袈裟おおげさおどろく。

 まあ、今まで技能スキルやステータスを操作できなかったので仕方がない。


 この世界では、俺のような異世界人が持ち込んだ常識が反映されるようだ。

 ステータス画面も、その一種なのだろう。


 俺よりも前に召喚された異世界人が持ち込んだ概念がいねんらしい。

 辻褄つじつま合わせ――と表現した方がいいのだろうか?


 言葉が通じたり、呼吸が出来たり、時間の感覚が同じだったり、不都合が生じないようになっている。


 『異物を受け入れる』というよりも、世界は常に変化を求めているのかもしれない。今は戦うことを優先させるため、身体能力を中心に強化したが――


(その内、りたいことを見付けて欲しい……)


 現状、人類が『自由に未来を選べる』そんな日が来る事はない。

 しかし【終末の予言】を乗り越える事が出来たのなら――


(今日、習得した技能スキルは取りなおしだな……)


「さあ、先を急ごう」


 気を引きめる意味でも、俺はワザとミリアムをかす。

 大した時間は使っていないが、浮かれてばかりもいられない。


「ああ、ついでに『ガハム』もひろっていくか――」


 とはミリアム。


(ガハム?)


 俺は首をかしげた。

 名前だろうか? ひびきからいって蜥蜴人リザードマンのようだ。


 そう言えば、この辺にガタイのいい蜥蜴人リザードマンを1人〈シールドバッシュ〉で吹っ飛ばした気がする。色々あって忘れていた。


 まあ、ジャイアントスコーピオンも倒しきれなかった。

 たぶん無事だろう。俺はステータス画面から、道具アイテムの一覧を確認する。


 回復薬ポーションも、まだあるのでセーフだ。

 しかし、最初はずかしい気持ちもあったが――


(ステータス画面が使えるのは便利だな……)


 今までは仲間パーティーがミヒルだけだった。

 そのため、あまり気にしてはいなかったのだが、色々と応用が利きそうだ。


 だが、ためしている時間はないらしい。

 すぐに目的の場所へと辿たどり着いてしまった。


 正確には『視界にとらえた』といった状況だ。

 まだ、距離はあるのだが地走鳥ロックバードの群れが見える。


 日陰のため、植物があまり育たず、黒い土がき出しだったのだろう。

 そこへ地走鳥ロックバードが来て、み固める形になった。


 地面は学校の運動場グラウンドのようになっている。

 砂漠から砂を運び、ここへいたようだ。


 もしくは砂漠から戻ってきた際、ここで身体に付いた砂を落としていたのかもしれない。やはり、知能は低くないようだ。


 そこまで広くはないが、近くにはがけのように切り立った岩場もある。

 逃げる際に適している――といった所だろうか?


 地走鳥ロックバードが安心して、過ごせる環境のようだ。

 み入るのは気が引けるが、そうも悠長ゆうちょうなことを言ってはいられない。


 地走鳥ロックバードたちのれの中央。

 そこに1羽だけ、異質な鳥がいた。


 姿形は地走鳥ロックバード瓜二ふりふたつなので、遠目には気が付かない。

 しかし、その姿は真っ黒であり、影がそのまま形を作ったようだ。


 その体内では、白くぼんやりとしたかたまりがスイスイと魚のごとく泳いでいるように見える。どうやら、これが『白闇ノクス』らしい。


 俺の知識によると人型だったのだが、今は見付からないように擬態ぎたいしているのだろう。得体が知れない敵に対し、いつもなら石でも投擲とうてきする所だが――


地走鳥ロックバードたちに当てるワケにもいかないか……)


 今は沢山の地走鳥ロックバードに囲まれ、守られているような状態だ。

 上から奇襲を掛けようにも、近づく前に気付かれてしまうだろう。


 いや、それ以前に地走鳥ロックバードを使って監視していたように感じる。

 俺たちがしげみの中に隠れているのは、向こうも気付いているハズだ。


 だからこそ地走鳥ロックバードたちに自分を守らせているのだろう。

 相手の能力がいくつか分かってきた。


 後手に回るのは得策ではない。そのため、素早く動くことにする。

 小石の入った袋と投石紐スリングをミリアムへと渡すと、


「援護を頼む」


 と言って、しげみから飛び出した。

 同時に『白闇ノクス』は翼を広げ「ピキィーッ!」と甲高い声で鳴く。


 周囲の地走鳥ロックバードたちも反応し、同様に翼を広げると「ピーッ!」と鳴いた。

 俺は気にせず、そのまま地走鳥ロックバードたちの周りを走る。


 相手の狙いは分からなかったが『逃げなかった』ということは戦う意思があるのだろう。完全に地走鳥ロックバードしたがえている。


 数の上でも不利だが、爪とくちばしによる攻撃は厄介だ。

 オマケにあやつられているのでは、地走鳥ロックバードを倒すワケにはいかない。


 不利な状況だが、速度では俺の方が上だ。

 慌てる必要はない――と自分に言い聞かせる。


(残業はまだ、始まったばかりだ……)

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