第75話 人間族の能力(5)


 俺の三投目は小石ではなく、回復薬ポーションだった。

 ねらいは岩陰に隠れていたガハムだ。


 〈スカイウォーク〉で上昇した際、位置は確認している。

 上手うまとどいたようだ。


 ガハムは負傷ダメージ回復薬ポーションで回復させたのだろう。

 俺はステータス画面から仲間になるようにメッセージを送った――というワケだ。


 『白闇ノクス』は人類共通の敵である。

 女神への信仰による『聖なる光の柱』と、その戦いを目撃したガハム。


 彼が戦士であるのなら、力を貸してくれるだろう――というのは俺の単純な思い込みだったが、読み通りとなったワケだ。


 蜥蜴人リザードマンたちが管理していた遺跡。『竜殺花』クリムゾンカルネージを駆除するために入った際、そこが古代の神殿であることは理解できた。


 種族や形が違えど、信仰心はあるのだろう。確かに遺跡を燃やそうとしたのは俺だが、その原因を作ったのは『白闇ノクス』である。


 ガハムは共通の敵を前に『一緒に戦うこと』を選んでくれた。

 俺は再び〈ホーリーウォーク〉による結界を展開させる。


 何度なんど地走鳥ロックバードたちの周りをグルグルと走っていたのは、このためだ。

 結界には時間制限があるため展開しても、すぐに消えてしまう。


 なので『俺が周回した分だけ張り直す』という作戦だ。目的は『白闇ノクス』を逃がさないことでもあるのだが、単純に目眩めくらましの意味もあった。


「グワーッ!」


 と翼を広げ、身体からだを大きく見せ、威嚇いかく姿勢ポーズをとる『白闇ノクス』。

 恐らく、相手の姿を模倣コピーする能力なのだろう。


 同時に模倣コピーした相手と同じ種族を支配できるようだ。

 その能力で魔物モンスターを『あやつっていた』と考えられる。


 ただ知能が高く、強い精神力を持つ存在を支配するのはむずかしいのだろう。

 可能であるのなら、人類を模倣コピーすれば、それで済む話である。


 しかし、行われた様子はない。

 つまり『直接、取りいくことであやつった』のだろう。


 人々の不安をあおり、街から人が出て行くように扇動せんどうする。

 また、魔物モンスターを街へと招き入れた。


 俺の推測通りの能力であるのなら、簡単な作業だっただろう。

 しかし、その前提条件として『人間族リーン』の持つ【根源】が邪魔となる。


 他の種族を『まとめ、束ねる能力』と『支配し、従属させる能力』では相性が悪いらしい。


 【空の時代】に『天人族アダマ』と『竜人族ドラン』をおとしいれたように、現在は『人間族リーン』が、その標的となっている。


 この分では他の種族にも『なにかしている』と考えるべきだろう。

 『白闇ノクス』はまだ、思惑通りに『物事が進んでいる』と思っているようだ。


(可能ならつかまえて、情報をかせよう……)


 俺は陽動フェイントをかける。

 相手が注力している今が機会チャンスだ。


 技能スキルでも〈フェイント〉はあるのだが、今回は『右へ行くと見せかけて、左へ移動する』という単純な動きを行う。


 警戒されていない、かつ初見であるのなら、十分に成功するだろう。

 格闘技はやっていないが、サッカーでも足技は多い。


 この程度なら造作ぞうさもない。

 むしろ、俺の学生時代、サッカーは格闘技だった。


 嫌な記憶がよみがえる。

 あの頃は知らなかったが、サッカーはファールが当たり前のスポーツだ。


 『マリーシア』という言葉もある。

 ポルトガル語で『ズル賢さ』を意味するそうだ。


 上手くファールをさそい、相手と駆け引きを行う、狡猾こうかつに試合を進めるのも技術で、日本人にはそれが足りないらしい。


 具体的に言うのなら、審判から見えない所でユニフォームをつかむ、ワザと大袈裟おおげさに転ぶといったプレーだ。


 道理でバスケの次に怪我けがの多いスポーツなワケである。確か、令和にもコーチが無抵抗の部員に暴力をるう動画が投稿され、話題になった。


 どうやら、体罰を受けると精神的に強くなるらしい。本当かどうかは知らないが、一部の男性は部活動中の『体罰や暴力が必要だ』と考えているようだ。


 昔は『根性論』『精神論』が重視されていた。

 その名残なごりなのだろう。


 彼らにとって「つらくても頑張る」「怪我けがをしていても練習する」――それが美学である。


 なにやら、ブラック企業に通じるモノがある。

 正直、庶民である俺にとっては、体育など受験に関係ない。


 平均並みに出来れば良かったのだが、そんな時代のためか、適度にゲームへ参加しなければ、攻撃の標的にされてしまう事があった。


 今もそうだが、全体主義というヤツだろう。

 いじめてもいい――と認識された場合、全員で一人を徹底的に叩く。


 実に日本人らしい団結力だ。

 そうならないためには、ある程度の技術を身につける必要があった。


 まあ、目立ったら目立ったで――


(「調子に乗るんじゃねぇよ!」などとからまれるのだが……)


 部活も「練習中に水飲むな!」の時代だ。いたる所に危険はひそんでいた。

 すっかり洗脳された生徒たちは、やがて大人へと成長する。


「こういう物だから」「これが常識だから」「昔からそうだったから」


 自分が受けた苦しみを次の世代にも味わわせないと気が済まないのだろう。

 不幸は連鎖し、やがて社畜が生まれた。


 世はまさに大社畜時代、ブラック企業の始まりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る