第五章 戦士の資質

第71話 人間族の能力(1)


 毒の煙が発生するため『樹炎鉱』は間隔を空けて使用することにした。

 具体的には1度の使用につき、約1時間の換気を行う。


 複数の部屋で使用するつもりだが、全部の部屋を終わらせるには、5時間ほど掛かる見込みだ。


 最後に中心部となっている祭壇で終わらせる予定なのだが、大量の煙が発生するだろう。状況に応じて、エーテリアには浄化を頼むかもしれない。


(結局は1日掛かりの作業になるのか……)


 今日も戻れそうにはないようだ。

 異世界でも、社畜をやっている気がするのは何故なぜだろうか?


 イスカと一緒なので、ミヒルの心配をする必要はない。

 むしろ、男の俺が面倒を見るより、いいだろう。


 なにか喜ぶような、お土産があるといいのだが――


(まあ、食べ物だろうな……)


 砂漠に出現する魔物モンスターも巨大サンドワームにより、一掃いっそうされている。

 ゴブリンの生き残りがいたとしても、あの集団に手を出そうとは考えないハズだ。


 アイツらは臆病おくびょうで、すぐに逃げ出す。そうなると――


(やはり、問題は食糧か……)


 この周辺にも多種多様たしゅたような植物はえているが、原始の植物といった風体だ。

 果実があったとしても品種改良されてはいないので、美味おいしくはないだろう。


 あまり期待は出来ないが、後で食べられる植物はないか、ミリアムへ聞いてみる事にする。


 砂漠なので『デーツ』や『マンゴー』のような植物を育てているかもしれない。

 保存食としても加工しやすいので、分けてもらえると助かる。


(さて、換気の間、なにもしないワケにはいかないな……)


 休むという選択肢もあるが、疲れてはいない。

 まだ、日差しが届いている内にれることを済ませておこう。


 道案内役をミリアムに頼み、俺は『白闇ノクス』の探索へと向かうことにした。


ないのなら、それに越したことはないのだが……)


 定時間際まぎわに電話やメール、上司が話し掛けてくるのは世の常だ。

 特に上司の場合、朝ミーティングで話てくれれば問題ない。


(まあ、目的が明確じゃない会議は、ムダな時間にしかならないが……)


 最初に案内してもらったのは、地走鳥ロックバードたちの小屋だった。

 地走鳥ロックバードは普段、放し飼いにしているそうだ。


 だが、怪我けがや病気、卵を産む際などは、この小屋で面倒を見ているらしい。

 しかし、現在はもぬけからだった。


 まあ『具合の悪い地走鳥ロックバードはいない』という事だろう。

 俺がミリアムに頼んだのは、地走鳥ロックバードそうな場所への案内だ。


 以前、胡桃くるみを道路へ運ぶからすの話を聞いたことがあった。

 車にかせることで、からを割って食べるらしい。


 また、郭公かっこう托卵たくらんすることでも有名である。

 鳥とはいえ、知能はそれなりに高い。


 なにが言いたいのかというと――


蜥蜴人リザードマンの中に『白闇ノクス』の影響下にある者がいないのなら……)


 次にうたがうべき存在は『おのずと決まってくる』という話だ。

 小屋の中でエーテリアが手をかざす。


 なにかを感じ取ったらしい。視線を俺に向けると、コクンとうなずく。

 どうやら、当たりだったようだ。


(正直、嬉しくはないが……)


 俺はミリアムに、次の場所への案内を頼む。


「じゃあ、水場だな」


 とミリアム。少し張り切っているようで「こっちだ」と案内してくれるのだが、


「でも、本当に地走鳥ロックバードが犯人なのか?」


 そう言って、俺に質問してくる。

 かしこいのは知っているが『そんな悪戯いたずらはしない』と思っているのだろう。


「少なくとも、祭壇に『種』をそなえることは出来る」


 俺は淡々と答えた。確証があったワケではなかったが、エーテリアの反応から『白闇ノクス』の関与は間違いなさそうだ。


 魔物モンスターを使った小賢こざかしい手段を講じていることから、行動になんらかの制限があるのだろう。


 水場へ近づくと植物の背丈せたけも高くなってゆく。

 日光が届く場所でもある。


 光合成をして、デンプンなどの養分を作るために、植物同士が競争しているようだ。


「ユイトさん」


 とエーテリア。彼女の視線の先を追うと1羽の地走鳥ロックバードた。

 しかし、目が合った瞬間、すぐに逃げ出してしまった。


なにやら、監視されているような……)


 俺とエーテリアは顔を合わせると、同時にうなずく。


「ミリアム、こっちにはなにがある?」


 前を歩く彼女に、俺は質問をする。ミリアムは立ち止まると、


「ああ、ちょっとした広場だ」


 日陰だから、あまり植物がえていない――と教えてくれた。


「そういえば、たまに地走鳥ロックバードを見かけるな」


 ミリアムはそう言って、腕を組んだ。

 彼女自身、何故なぜそんな場所に地走鳥ロックバードが集まっているのか分かっていないのだろう。


「調べてみよう」


 そんな俺の台詞セリフに、ミリアムも興味があったのか、


「こっちから行ける」


 と案内してくれた。どうにも嫌な予感がする。

 残業確定の雰囲気に似ていた。


 念のため、習得可能な技能スキルを確認しておく。


「これなんて、どうですか?」


 とエーテリア。この状況タイミング態々わざわざ、口を出してくるということは『白闇ノクス』との接触に緊張しているのだろうか?


 目が合うと、いつも通りニコニコと微笑ほほえんでいる。

 なにが嬉しいのか分からない。

 

 そんな彼女が選んだ技能スキルは、歩いた場所に結界を張ることが出来る〈ホーリーウォーク〉だ。悪くはないが――


(スキルポイントは、まだ残っていたよな……)

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